「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
続・徒歩記


有名なシルバニアファミリーの家の売り物件(笑)。

https://twitter.com/shimoyamahimeji/より

 涼しくなって来たのもあって最近再び、特に用事の無い午前中は散歩に出かけることが増えた。

 以前も書いた通り、考え事をするのに机の前で呻吟したって何んにも出て来やしない。脳味噌がどんどん干乾びてくだけだ。アイデアも文章も動いてる時に出て来るモンなのである。そう、動く沈思黙考。それも電車やバスに乗ってては寝てしまうからダメで、自律的に移動してないとダメだ。
 しかし自律的ったってとロードバイクなんかではあまり考えは出て来ない。何故なら結構なスピード出すもんだから、路面状況や周囲の通行人等に絶えず注意してないと事故ってしまうのである。自動車もそうだ。運転しながら思いに耽ったりなんかしてると注意力が散漫になり、どっかにぶつけたり、あるいは人轢いたりしてしまいかねない。従って歩くか、スクーターくらいでトロトロ走ってるのが最も好ましい状況だと思う。

 歩くと何かしらの想念が湧き上がってくる。ムリクリに絞り出すのではなく、この勝手にモラモラと脈絡なく湧き上がって来るカンジが良いのではないかと思う。

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 何度かこれまでにも書いた通り、おれの現在住まう町は所謂「新興住宅地」ってヤツなんだけど、立ち並ぶ家の造りとかからすると恐らくいっちゃん最初に町が形成されたのは80年代前後ではないかと思ってる。だからもう何だかんだで軽く30年は経ってるワケで、何だか「新興」と呼ぶのもいささかおこがましいのではないかって気もする。明治以降に出て来た宗教が一括りで「新興宗教」と呼ばれるのと同じくらい、「新興」にもいささかヤキが回ってるのである。

 とは申せ、どこまで行っても新興住宅地は新興住宅地であるからして街並みはあくまで平板だ。坂道が無いとかそんな意味ではなく、とにかく個性が無いのである。そんな中をおれはジャンパーのポケットに手を突っ込んで、結構なペースで歩いて行く。走るのは遅いけど歩くのはかなり速いのだ。

 歩きながら注意深く家々を観察してると、いろんな変化が起きてることが分かる。ある家は最近急速に増えてると言われる空家となってしまってる。玄関先には枯葉が積もり、郵便受けの投入口には何重にもガムテープが貼られ、庭どころか駐車場のコンクリートを流し込んだところまで雑草だらけだ。こういう物件は一戸建てでも割りと古典的な切妻屋根で、ベランダも鉄骨組んだ如何にも物干し台といった造りであることが多い。そして昔ながらの雨戸も備えられており、それらは全て固く閉ざされてる。
 もっと雑草が放埓に生い茂って密林みたいになった物件があっても良さそうなモンだが、意外にそぉゆうのは少ない。やはり枝が隣家にまで伸びたり虫が大発生したりして、色んな揉め事の原因になるからだろう。とっくの昔に家の主はいなくなったのに、子供か孫か、あるいは親類縁者かだが最低限の保守流行ってるのである。

 取り壊されて歯が抜けたように更地になってるトコも少しづつ、しかし確実に増えている。バブル期以前の戸建ての土地は80〜100坪くらいあったりして案外広く、簡単に買い手が付かないのである。
 もちろん、跡地が駐車場に変わったり、小さな2階建てのハイツ、あるいは半々に割って箱みたいな建売の戸建て住宅が2軒建ってるケースもある。さらには相続税が払えずに物納でもしたのか、市の所有地を示す杭が立てられてるのも見掛ける。
 ちなみに跡地に戸建ての建て替えではなく賃貸のハイツやアパートが建てられてる場合、そこが元は事故物件であることが多いのをおれはバッドテイストさでは日本有数とも言える怪サイト「大島てる」で知った。

 今はチャンと住人がいるものの、10年以内くらいに間違いなく空家になるだろうなぁ〜って雰囲気の、言わば「空家予備軍」の家が一番多い。大体置いてあるクルマで分かる。バブル期前後のマークU三兄弟やローレル、丸目4灯から角目に変わる前後のBMWの3シリーズ辺りが置いてあると間違いなくその家は空家予備軍だ。直列6気筒がちょっとしたステータスだったりした時代が想い出される。古いクルマだからって旧車のエンスーでないことは日焼けしてすっかり色が褪せてまだらになったボンネットフードや今時滅多に見掛けないレースのシートカバーなんかですぐに分かる。もちろん、すっかりマイナーな排気量となった1800クラスの古いセダンであることもある。もちろん色はシルバーが多い。コロナ/ブルーバードがカローラ/サニーより上っちゅう分かりやすいセグメントであった時代だから30年近く経ってるワケだ。その頃40代とすれば今は70代、町の歴史とも大体符合する。暴走してコンビニや病院に突っ込まんといてや(笑)。
 新し目とはいえスズキで言えばワゴンR、ダイハツで言えばフツーのミラといった地味な車種で、かつ地味なカラーの軽自動車が置いてあったりするのもまぁまず空家予備軍だろう。歳取ったからってクルマの色くらいハデなんにすりゃエエのに、と思う。

 老いては事に僻み、を地で行くような電波系の家もある。まぁ、有名な「蓮田の黒い家」みたいな有名物件ほどのキレッキレのパワーは無いが、かなりキテることは疑うべくもない。
 過去に近隣の家となにがしかの軋轢でもあったのか、家の周り中張り紙だらけだ。妙に達筆な字で立小便禁止から始まり、柵に登るな、花盗るな、犬の糞は片付けろ、子供を遊ばせるな・・・・・・もちろん、最近のになればなるほど狂いや偏執はますます激しなって、より攻撃的で支離滅裂な文面になってるのは言うまでもない。
 しかし、張り紙が増えてるってコトは、アタマはともかく取り敢えず身体だけは元気だって証拠でもある。今日も元気でキチガイでGO!っちゅうのは案外長寿の秘訣なのかも知れないな(笑)。

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 住宅地には公園だけでなく、川っぺりだと緑道とか遊歩道と呼ばれる道が設けられてるトコもある。そこも注意して見ると静かに荒廃の翳が忍び寄りつつあるコトが分かる。

 木のベンチが腐って落ちたままになってたり、舗装が荒れて亀甲模様にバキバキにひび割れてるだけでなく、震災の影響なのか地盤が弱いせいなのか凸凹やウネリが出来てたり、側溝が落ち葉で埋め尽くされたままになってたり、それどころかそのU字溝のコンクリート自体が風化でボロボロになってたり、切り落とされた枝が積み上げられたままになってたり・・・・・・おそらく税収難で予算が付かなくて修繕や保守に手が回らなくなってるのだろう。かくしてあちこちで元は人工都市として備わってたハズの整然とした秩序が緩慢に崩壊しつつあることが伺える。

 そぉいや最近、社会インフラの崩壊がちょっと社会派な雑誌やウェブサイトに載ることが増えて来た。昔からいずれヤバくなるとは囁かれてたのだけど、先送りしてる間にいつの間にかのっぴきならない状況が各地で顕現し始めてるのだ。
 やはりターニングポイントは中央道の笹子トンネル崩落事故だった。特に何があったワケでもなく、ただ単に老朽化が進んでいたコトだけが原因でンネル天井のコンクリート板はある日突然崩れ落ちたのだ。何事もハデなアメリカではニューディール政策当時に作られた橋梁の崩壊なんかが起きている。ああ、想い出した。先日、東京西部で起きた大規模な停電も変電所の老朽化が原因だったよな。

 カンタンな理屈を新興住宅地で考えてみよう。例えば山林が造成されて1,000戸の街が出来上がったとする。戸建てに住むくらいだから平均的にトーチャン・カーチャン・子供二人の4人家族程度だろう。つまり人口4,000人だ。親もまだ比較的若く、子供たちも育ちざかりの食べ盛りだろうから光熱水費はそれなりに嵩むに違いない。それは逆に言えばその町から電気・ガス・水道料収入が上がるってことでもある。
 それが30年経って前段のような状況になるとどうか?1,000戸の家はいつの間にか7〜800戸くらいにしか人が住んでいない。子供たちの多くはとっくに独立して家を出てって、残った親も70代くらいに達している。1,400〜600人・・・・・・まぁ引き籠りになったりパラサイトで出て行かないケースもあるだろうから実態はもうちょっと多いかも知れないが戸数の減少以上に人口は減る。さらに歳取ればあまり食べなくなるし、新陳代謝も衰えるから洗濯の頻度なんかも下がる。すなわち、その町からの光熱水費は人口減以上に激減するワケだ。
 それでインフラを今まで通りに維持しようとすれば、当然ながら料金を上げざるを得ない。ガス管や水道管に亀裂が入ったり電柱の変圧器が壊れれば速やかに修理しなくちゃなんないが、これらは利用者の多寡にかかわらず一定額が掛かってしまうのだから仕方ない。仕方ないが、そのコスト上昇を支えるだけの財力は最早住民の多くには残っていない。もちろん企業にも自治体にもない。無ければ放置あるいは放棄するしかない。

 ブン屋のネタだから大袈裟に盛ってる点も多々あるだろうからもちろん大幅に割り引いて読む必要はあろうが、記事によれば東京オリンピックが終わって10年後くらいからいよいよそんな風にどうにもならなくなって来るらしい。西暦で言えば2030年前後ってコトになる。
 曰く、電気・ガス・上下水道は言うまでもなく、道路や鉄道とそれらにまつわるトンネルや橋梁、擁壁といった諸々の設備が耐久年数を超え、そしてその上を走る物流、その行先である小売店、様々な企業活動、もちろん行政までもが少子高齢化の影響で人手が回らなくなる・・・・・・要はあらゆる「これまで在って当然」だったものが二進も三進も行かなくなる。もちろん、空家はその頃になればもっと増えてることだろう。民家だけでなく雑居ビル、オフィスビル全体が空家になるところも続出するし、それにどれも耐久年数の限界を迎えてるが再建どころか取り壊しもままならない・・・・・・と。

 まぁ、廃墟が増えて撮影スポットがいくらでも見付かるようになるのはちょと楽しいが、あまり民家やビルはロケーションとして楽しくなさそうだ。それにいくらおれが貧乏暮らしや不便に慣れてるとは申せ、普段の生活にも難渋するのはいささかいただけない状況ではある。
 もしくたばるコトもなく無事に馬齢を重ねておれば、その頃おれは60をとうに超えている。恐らく年金制度なんて取られ損のまま崩壊してるのではあるまいか。実は世の中が今の物価水準のままなら、最低限の生活である程度生き延びるだけの蓄えはあるけれど、ハイパーインフレとかになってたらどうにもならないだろうし。

 う〜ん、その時ゃぁその時なんだろうな〜・・・・・・。

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 気付くともう自宅から7〜8km歩いている。そろそろ引き返して家に戻らなくちゃいけない。
 橋を渡る時、欄干から川面を見下ろす。普段から殆ど流れの無い川だが、最近の少雨の影響なのかますます流れは淀んでいる。鮒だか鯉だか分からない大きな魚が浮いている。腹を見せ、銀色の鱗が光っている。

 ・・・・・・何かの啓示を受けたような気がした。

2016.11.11

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