「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ありがちなクレーマー


やっぱクレーマーやで、この人(笑)。

https://middle-edge.jp/より

 休日を取るならやはり平日が一番だよなぁ〜って思う。

 渋滞は少ないし、観光地は空いてるし、宿屋は安い。それに「ウリウリィ〜!愚民どもよキリキリ働けぇ〜!」ってなワケの分からん優越感を抱いたりもできる(笑)。そらまぁ子供がいたらガッコ休ませるワケにも行かないし、飲食店の定休日に当たったり道路が工事中で通れなかったり、侘しい鉱泉等だとみんな出掛けちゃってて留守、なんてぇデメリットもあるにはあるんだけど、全体的に考えるとやはり平日の休みは好い事の方が多い
 今はもう平日に休みが取れることは滅多になくなったんで、もしそんなチャンスに恵まれ、そして天気が良ければ必ずと言って良いほど外出することにしてるんだが、たまたまその日は天気が悪かった。

 そんな時は放ったらかしてた雑事を片付けるしかない。買物は土日にまとめ買いしてるんで平日でないと困る、ってコトはない。そんなんより銀行や郵便局に行ったり、お役所絡みの手続きに行ったりとかが、ここいらの連中に一向にサービスレベルを向上させる気が無い以上、どしたって平日にしかできないワケで、数え上げてみるとその日もやるべきことがけっこう溜まっていた。おお!そうぢゃそうぢゃ、申し込んだっきりのマイナンバーカードの受け取りもまだ済んでないではないか。

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 銀行と郵便局は元が貧乏なんでそう大した用事があるワケではない。アッちゅう間に片付いて次は市役所だ。いつもは近所の出張所にしか行かないんで、本拠地がどこだか良く分からない。マイナンバーカードって出張所では受け取れないのである。たかがカード一枚の受け取りでどうしてこんなに不便なんだと思う。

 ナビで調べて行くと、小雨の降りしきる暗い空にひどく立派な建物がドベーンと聳え立っていた。館内にはマイナンバー受け取りの特設会場が設けられており、行くと結構な数の椅子が並べられている。番号札を受け取り待つことしばし、どうしてこういった官公庁に順番を待つ人たちって不幸そうに見えるんだろうな〜、などとボンヤリ考えてると呼び出された。
 隅っこの机の前に座ると、出来上がってたマイナンバーカードを見せられ内容に間違いがないかチェックさせられる。次に用紙を出されてパスワードを決めてくれと言われる。記入すべきパスワードが4つもある。そんなに覚えてられるかいな。ホンマ、いちいちムダに大層な作りになってて呆れてしまう。本気で国民に浸透させる気があるんだろうか。
 それでくれるのかと思うと、またしばらく待たされる。何をイチイチやってんだかサッパリ分からないのはひじょうに不気味だ。そのうち別の場所のパソコンの前に呼ばれて自分でパスワードを入力させられる。

 そしたら椅子1つ挟んでちょっと離れたところにいたのだ。歳の頃は60半ばくらいだろうか、ありがちなチェックのコットンシャツにジーンズ、当然シャツはイン(笑)。白髪交じりの7:3に細いゴールドのメタルフレーム、真面目そうといえば聞こえは良いがちょっと癇の強そうな細面、少し前までは現役のサラリーマンだったんだろう・・・・・・如何にもな雰囲気を漂わせた初老の終わりくらいのオヤヂがネチネチと職員に絡んでいた。

 ------パスワード4ケタ、ってこれだと落したりした時にすぐに破られやしませんか?僕の大切な個人情報がそれで流出すること
     になったら大変ぢゃないですか!?僕はねぇ、個人情報ってモノが・・・・・・後略。

 タッチパネルの液晶画面でパスワードを入力するなんて一瞬で終わってしまう。しかしそれだと話がよく聞き取れないんで、おれはワザとたどたどしく間違えたりしながら聞き耳を立てたのだった。イヤなやっちゃなぁ〜、おれも(笑)。
 向かいに座って相手してる職員のオネーチャンは感情を殺して能面のような薄い笑顔で曖昧な相槌を打ちつつ、いつになったら終わるか良く分からんクレームに辛抱強く付き合ってる。おれは公務員は基本大嫌いなんだけど、それでもいささかこんな基地外の相手させられてる姿を見てちょっと気の毒になってしまった。

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 平日の朝の9時過ぎから市役所の窓口でグジュグジュとエンドレスに文句垂れてる暇を持て余したジジィの個人情報になんて、間違いなく一銭五厘の価値もないだろうとおれは思う。人間は不平等であり、世のおそらくは9割くらいの人の個人情報にマトモな価値なんてない。よしんばあったところで、その何がしかの価値を奪い取ろうとヨコシマな心を抱くような人は、シラミ潰しに全ての4ケタの数字を何日も掛けて解読するようなしちめんどくさいこともしないだろう。だってもっと直截的・暴力的にやった方が手っ取り早いのだから。
 そしておそらくは本人も薄々気付いてるのではないか、と思う。そう、自分の存在のしょうもなさに、だ。しかしその冷厳な事実を認めたくないのだ。だから売るほど時間を持て余した今、金の掛からない方法で自己顕示欲やら承認欲求を満たそうとしてる。ボクはこんなに詳しいんですよ、ボクはこんなに考えてるんですよ、ボクはこんなに問題意識があるんですよ、ボクはこんなに正しい社会生活を送ってるんですよ・・・・・・と。主張してる内容を認めて欲しいのではなく、自分を認めて欲しいだけなんだから始末に負えない。やたらこのテのクレーマーの台詞に「僕(あるいは私)はねぇ〜」っちゅう粘着質な言い回しが頻出することからもそれは伺える。

 統計的に見て、クレーマーに50代半ばから70前くらいまでの、大雑把に言って「初老」と呼ばれる男性が多いことは明らからしい。今は小売店でバイトしてるヨメも同じようなことを呆れ顔で言ってた。ホントにそんなカスみたいなジジィがワンサカ存在するらしいのだ。平均寿命は縮んだ方が良いのかも知れない。

 その理由についてもある程度納得性のあるケースが挙げられている。日本はリーマンが多いし、何だかんだでこれまでは年功制だったもんだから、かなりツマらない人間でも管理・監督職になれちゃったりする・・・・・・おれがなれたんだから実際そうなんだろう(笑)。なるとそれなりにチヤホヤされるし威張ることもできる。それで勘違いしてスッカリその癖が付いて尊大に振る舞うことに慣れっこになってしまう。実はエラいったって実は極めて狭い世界だけのことだし、他所でツブシの効くスキルもないし、実務離れて長くなったもんだから最新のスキルも備わってない裸の王様であることが殆どなんだけど・・・・・・って、おれは威厳もなければ腰も低いけどね。
 しかしその一方で家での存在感は限りなく薄かったりもする。濡れ落ち葉とか揶揄されるアレ。それに近所付き合いなんて皆無だし、趣味の繋がりにしても結局会社関係ばかりだったのが、いきなり定年とか言われて拠り所の組織から放り出されるワケだ。
 かくしていろんな不満が募るのはけだし当然のことだろう。その捌け口に近所のスーパーや電器屋、市役所なんかは打ってつけなワケだ。まさに「小人閑居為不善」を地で行く鬱陶しいジジィいっちょ上がり。

 多分、あの市役所の窓口でイマイチ主旨の良く分からない文句のための文句を延々と垂れてたジジィも概ね似たような口なのではあるまいか。そう考えるとクレーマーとは老いの諸相の一つであり、認知症なんかとも地続きのメンタルの病の問題の一つとして考えられるべきなのかも知れない・・・・・・ったってまぁ処方箋はカンタンで、店の裏に連れてかれて半死半生になるまでフルボッコにドツき回されたり、警察の御厄介にでもなれば収まるんだろうけど、みんな弱腰だからなぁ〜。
 ああ、そぉいや少子高齢化で労働人口が減ってるからって、最近定年延長なんてのが流行り出してるが、あれは案外クレーマーを減らすのに有効かもしれない。毎日出勤するくらいしか能の無いジジィにOBとしての適度な矜持を持たせておけば、ヒマを持て余して店で暴れるコトもちったぁ収まるだろうから(笑)。

 ・・・・・・え!?おれ!?

 根っ子のところで諦念にも似た乾いて虚無的な部分を持ってるし、それにそんなネチネチイジイジ文句垂れて一日過ごさねばならんほど時間が余ってるワケでもないんでたぶん大丈夫だとは思うんだけど、自信ねぇなぁ〜・・・・・・。

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 さて、随分手間暇かけてようやく手渡されたマイナンバーカード、こんなくだらない制度に対するせめてもの反感と抗議の気持ち、あと悪戯心もあって、おれは実はちょっとした仕掛けを施していたのだった。いやいや、何も非合法なことをしたワケではない。

 スマホで撮った自分の顔写真、寝起きで髪ボサボサ、顔と瞼は腫れまくり、2日間伸ばした無精髭、どうせやるなら念入りにと眼鏡はちょっと斜めってズレてたりするし、シャツも左右の襟を思い切り段違いにして写したのである。どう見たって明らかにヘンなカテゴリーの人っぽい。現に職員は写真と実物の印象があまりに違うので何度も見比べていた。

 ・・・・・・ま、おれも世のクレーマーたちとさほど遠くない地平にいるワケやね(笑)。

2016.05.12

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