「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
「お客様は神様です」・・・・・・なワケないやろ!?


晩年の傑作「HARUO IN DANCE BEAT」・・・・・・単なるイロモノ企画ではないよ、これ。すんげぇ完成度。

 三波春夫はとんでもないデマゴーグであったと思ってる・・・・・・っていやいや、彼自身は実のところ自身の伝説的なこのフレーズに対してひじょうに真っ当で深い省察を行っていたようなんで、責めるのは酷なことかも知れない。ホントに責められるべきはバカみたいに表層だけで言葉を再生産し、垂れ流して劣化させまくった後の連中にある・・・・・・とは分かってんだけども、しょうもない小者丸出しな連中相手に文句垂れたってどぉにもラチが開かんではないか。なもんで、ここはベタに分かりやすく三波春夫が悪いとしておこう(笑)。何せ「国民的歌手」だったんだし。

 ------お客様は神様です------

 いやはや、何と明快でキャッチーな響きであることか。そしてこの言葉に今やどれほど日本人は毒され、未だ翻弄されてることか。

 お客様なんて神様であるハズがない。顧客なんて提供する価値に対して対価を払ってくれるだけの売買契約上の存在なんだ、そこに本来上下も優劣もないんだ、って根本的な考え方におれたちは今一度立ち返るべきなのではないか?くらいにおれは思っている。

 ようやく最近になって「モンスタークレーマー」とか「ブラック顧客」なんて言葉が出て来て、客とも呼べないような勘違いしたヤクザな連中が社会的に問題視されるようになってきたんだけど、時既に遅しではないかと思ってる。何故なら、余りにも多くの人が息でもするように自然に特別な注文は無料でやってもらえるモンだと思い込んでしまっており、そして至極当然のように注文したりするようになってるからだ。

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 昨日もこんなことがあった。おれとヨメと娘の三人で蕎麦屋兼茶屋みたいな店に入ったんだけど、おれたちの座った小上がりの隣の床几に後からやって来た5人連れ(うち2人は幼児)が、蕎麦をいくつか頼んだ後にデザート代わりなのかクリームあんみつを注文した。そこで母親と思われる若い女はこんな風に店員に付け加えたのだ。

 ------あ、アイスクリームだけ別盛りにしてください。

 メニューにはただのあんみつもアイスクリームもある。おれに輪を掛けてシニカルで気難しく口の悪いところのある娘が、間髪入れずに反応して小声で囁いた。

 ------別々にメニューあんだからそれ頼めよ。ケチ!余計な皿洗うのもタダぢゃねぇ、っちゅうんだよ!

 ・・・・・・別にそんな風に育てたつもりはないのだが(笑)、この辺の思考回路はとてもおれによく似てる。全くもってその通りだし、サービスは無料なんだから遠慮会釈なしにやって良いなどと勘違いしてない子に育ったのをおれはちょっとばかし嬉しく思ってしまったのだった。

 そうそう、アイスクリームと言えばさらにしばらく前にこんなことがあった。どっかの商業施設に買い物に出かけた時のコトだ。歩き回って疲れたのと店内の暖房が利き過ぎててアイスが食いたくなったおれは珍しく、ヨメといっしょにアイスクリーム屋の行列に並んだのだった。おれたちの前には30過ぎくらいか、ヤンキーの成れの果てみたいなハデな割に何だか崩れてみすぼらしい格好のカップルが並んでクネクネしてる。「うだつの上がらない風体」とはこぉゆうのを言うんだろう。

 ------***ちゃ〜ん、どれにしよ?
 ------ん〜?お!これ、美味そうなんだけど。
 ------え〜っ!?***(いい歳こいて自分のコトを名前で呼ぶな!ボケ!)これがいい。チョー美味しそう。

 これ以上書き写すのがアホらしくなって来たし、寒イボが出そうになるんで、まぁ後は端折ることにする。ともあれ、彼等の注文の順番がようやく回って来た。そしておれは驚愕したのだった。

 ------え〜っとぉ、***と***をダブルでぇ〜、あ!容器別々にしてくださぁ〜い。

 ・・・・・・それはシングル2つとちゃうんかぁっ!?

 思わず後ろからグーパン入れそうになってしまったで、おれ。

 ともあれ、かくのごとく恥と遠慮と常識があまりに欠如してる人が今や世の中には溢れ返っており、全くその自覚もないままに堂々と社会生活を営んでいるのである。
 ・・・・・・って、おれだって大概ケチでセコいトコだらけの人間だし、それにこんな残ないハダカだらけのサイト運営しといて何をオマエ!偉そうに言うなよ!とお叱りを受けそうだけど、恥やら遠慮やら常識やらについておらぁ一応は分かってるツモリだ。その上で敢えてキワキワのところでやってる。いや、これまで知り合った同じようなサイトを運営されてる方はみんなそんな感じで、とても恥やら遠慮やら常識があった。メールのやり取り一つとっても、控え目でいながらウィットに溢れ、相手のコトを慮ることができる人ばかりだった。それはたまたまおれが恵まれてただけなのかも知れないけど、少なくとも知己となった方々はみんなそうだった。よぉ〜く色んなコトをわきまえ、分かった上で細心の注意を払いながらやってるのだ。おれが一番頼りないくらいだ。

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 いささか話が逸れてしまった。脱線はまぁいつものこっちゃね。

 上に挙げたようなバカな人たちって結局んトコ、従来の「吝嗇vs大らか」といった軸では判断できないナンギなカテゴリーにいるんだと思う。金を払う側がとにかく無条件に優位な存在で、ほいでもってサービスはタダだって成長過程で刷り込まれちゃってんだろう。おまけに猛烈にアタマが悪い。処置無しだな。
 言うまでもなく金払う側が無条件に優位な存在であることなんて決してないんだけど、「お客様は神様です」が誤って喧伝され、そして日本のいろんな製品が厳しい市場競争の中、恐るべききめ細かい機能で以て性能向上の一途を辿り、挙句どれもこれもどんぐりの背比べで大差なくなり、消費者が消費に飽き飽きする中で、売る側があまりに消費者に対して媚び過ぎたことがその増長と慢心を招き、そんな当たり前のコトさえ分からない人を副次的に生産してしまったのだ。
 サービスだってもちろんタダではない。それなりにコストが掛かってる。アイスのカップやプラスプーンだって僅かとはいえ幾許かのコストが掛かる。その事実に対して、ちょっとそれくらいはエエやないですかぁ!?な〜んて、豊かさの果ての客の側の低脳と無知、あるいは甘えと驕りに過ぎない。「衣食足りて礼節を忘れる」って格言は実に鋭い言葉だと思うな。

 最近、日本流のおもてなし精神を中国のサービス業に輸出する、なんて動きがあるが、如何なモノかとおれは思ってる。まぁ、売ってやってる、っちゅう社会主義特有の傲慢さを戒める程度なら分からなくもないが、現代日本の町中に溢れ返る状況がおれにはどうしても「おもてなし」には思えないし、そんなエラそうに講釈垂れるような代物でもないと思うのだ。
 なるほど日本のサービスレベルを高いか低いかで言えば高いんだろう。それは大いに認める。しかし、マトモかマトモでないかと言えば、おれは最早マトモなレベルを大きく超えてしまってると思う。つまり、異常ってコトだ。

 何でもそうなんだけど、ちょうど良いくらいを追求することがおれはいっちゃん正しいし、難しいことだと思ってる。儒教で言うところの「中庸」っちゅうやっちゃね。無反省にどんどこどんどこ盛ってったり積み上げたりなんて実はサイアクなのだ。サービスも然りだ。なのに肥大化する大衆の欲望はそれを許さない。

 「お客様は神様です」・・・・・・百万歩譲ってそれを認めるならば、その神とは無慈悲で残忍で凶暴な荒ぶる禍神に違いない。 

2016.03.08

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