「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
方丈記/隠遁/厭離穢土


鴨長明像(但しこれは江戸時代に描かれた想像図)・・・・・・呆けてはりすな。

 一丈とは十尺のことであるから、凡そ3mである。方丈の「方」は正方形の「方」と同じ意味で四角を意味する。つまり、方丈とは3m四方の一部屋だけの建物を指す。四畳半が大体2.7m四方であることからすると、その4隅に5寸(約15cm)の柱を建てれば概ねトータルの長さは一丈になるので、方丈の庵とは今でいう4畳半一間程度の広さの四角い建物のことだろうと思われる。所謂「内寸」っちゅう考え方やね・・・・・・って、ホントのトコは良く分からない。畳が一般化するのは江戸時代以降のことで、それまでは板の間が普通だったから、寸法はかなりアバウトだった可能性もある。コールマンのテントにだってフロアサイズが3m四方と2.7m四方があるもんね(笑)。
 4畳半って今の感覚だと中途半端な半間畳が必要になってしまうのだけれど、昔は部屋の中心に囲炉裏を切ったりしたので、案外明快で合理的な構造だったのかも知れない。基本的にいつでも解体して移築できるように造るのが習わしだったっちゅうから、元祖狭小プレハブ住宅みたいなものとも言えるだろう。

 実際はそこに幅3尺ほどの濡れ縁が付いたり、竈やら押し入れやら厠やらってのもくっ付いたろうから実際はそこまでキッチリ一丈四方ではなかったと思われる。いずれにせよおれはまだ実物を見たことないので何ともこれ以上は偉そうに語れない。

 とにかく鎌倉から室町時代にかけてこの方丈はスノッブで小金持ちな都人にかなり流行した模様だ。高雄だとか大原だとか宇治だとか、都の中心からしたらかなりの田舎にそぉゆうのを建てて、隠居すると共に最低限の家財道具だけで隠遁生活を送るのが持て囃されたのである。今でいうと断捨離とかミニマリストに近い生活だな、こりゃ。ただ、ホントにそこに常住してたのかどうかまでは良く分からない。ひょっとしたら離れとか別荘みたいな使われ方だった可能性もあるのではないかとおれは睨んでいる。
 いずれにせよそうした一軒で書かれたのが有名な鴨長明の「方丈記」ってヤツである。みなさんも出だしくらいは昔、教科書とかで読まされたことがおありだろう。

   ------ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、
       久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。

 無常観を良く表した文章とか言われるアレだな。忌憚のない意見を言わせてもらうならば、おれはこの文ってかなりクサい、と思ってる。肩に力入りまくってる感じがするのだ。あまりレイドバックしてないのである。「もぉボク、絶対に無常観バリバリのイントロ拵えてやるんだもんね!」みたいな鼻息の荒ささえ感じられるのだ。まぁ、この時代の都人は意地でも無常を感じるのが嗜みであり、知識人の証だったワケで、名門の禰宜の家系に生まれ、ちょっとばかし出世街道から外れたとはいえ、相当の知識人にして富裕層だった彼にしてみれば、念願の隠遁生活に入ってテンション上がりまくりだったんだろう・・・・・・何百年後かにこんな風に評されるとは想像もしなかったろうな鴨さんも(笑)。

 実際、最後の方で間取りについての記述が延々と出て来る。間取りは概ね冒頭に書いたような感じだったみたいだが、そんなんをクドクド書いたのは取りも直さず方丈の庵を構えられてムチャクチャに嬉しかったからではなかろうか。

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 隠遁志向は元来、おれに強く備わっている形質ではないかと思ってる。だってそもそも隠遁を強く感じさせるサイトタイトルからしてそうでしょ?

 これまで何度か触れてて繰り返しになっちゃうんだけど、おらぁ網野善彦の名著「無縁/公界/楽」って本に書かれた、中世日本にもあった「アジール」っちゅうのにごっつい影響受けてて、そこからあーでもないこーでもないと考えたのだ。ぶっちゃけ網野善彦自体はちょっと左翼臭が強すぎて好きになれない点も多々あったりはするものの、アジールはおれにとって憧れの場であることに変わりはない・・・・・・で、「アジール」っちゅうのはドイツ語で、英語だと「アサイラム」に相当する。
 実はこれ、和訳がすごくむつかしい名詞の一つで、「避難(所)」・「亡命」・「保護(施設)」・「仮収容所」・「隠れ家」・「養育院」・「孤児院」・「政治犯の庇護」・「精神病院」・「聖域」等々、いろんな訳語が考えられる。でもまぁ要は「公的権力の及ばない治外法権の場所」みたいな意味を共通して持つコトは御理解いただけると思う。
 一応は「静かな隠れ家」って訳を付けてんだけど、実はダブルミーニングになってて、「黙って亡命」っちゅう風にも訳せたりする。っちゅうのも「イン・サイレンス」には「静寂の中の」ってベタな意味と、「黙って」とか「勝手に」って意味、二つあるのだ。

 とにかくどっちに訳したとしても世間から逃げ出そうとする姿勢は変わらないな〜(笑)。

 だからって、何か推理ドラマに出て来る前科者みたく、過去を消し、誰との交わりも絶ち、息を殺してヒッソリ目立たぬように暮らしたいワケではない。たしかに厭人癖は強いとは申せ、御近所との朝夕の挨拶とか慶弔事、地域の集まりといった適度の人付き合いくらい、そらまぁあんまし気は進まないもののちょっとくらいあって良い、とさえ思ってる。

 有り体に言うなら、ただもうおれは組織体に帰属して恒常的に上手くみんなと合わして行くことが苦手と言うかヘタで苦痛なのだ。だから絶えず砂を噛むような不愉快な違和感が付きまとう。言うまでもなくそれはストレスだ。学校、クラス、クラブ、サークル、会社、チーム・・・・・・etc。組織体には必ず維持する上での「ルール」や「秩序」が存在する。もちろんそれは必ずしも明文化されてるとは限らなくて暗黙知のことだってあるんだけど、それがどうにもおれを息苦しくする。自由が足りない。
 これ言い出すと、家庭や家族はどうなんだよ!?って批判に行き着いてしまうコトは百も承知だ。そらもちろん、そこにだって幾許かの息苦しさはある。でもそれは我慢できないレベルではないし、織り込み済みのことでもある。否、むしろいろんな社会的繋がりから遊離してしまわないための一種の「重し」でさえあるとおれは思ってる・・・・・・いや、努めて思ってきた。ま、たまにそっからも逃げ出したくなって一人で野宿に出掛けたりとかもしてんだけどね(笑)。

 ではそもそも何で逃げ出したいのか?組織に帰属するのが苦しいのか?っちゅうと、その根底にあるのは畢竟ただただおれの我儘であり幼児性なんだろう。意のままにならない世界でこわばった追従笑いなんか浮かべながら過ごすのがイヤなだけ、っちゅう。
 ホンマもうミもフタもないけどそれが事実だ。それも良く分かってる。だけど、分かってるからと言って必ずしも抑制できるものでもなかろう。しんどいモンはどしたってしんどい。

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 「厭離穢土」って仏教用語がある。「往生要集」に出て来るフレーズだ。現世は穢れておりそれを厭い離れ、ひたすらに浄土に行くこと(こっちは「欣求浄土」という)を願い求める・・・・・・ってな意味だ。ひじょうに現世憎悪っちゅうか、死への暗い希求さえ感じられる言葉だと思う。

 ・・・・・・毛頭おれにそんな気はない。むしろ濁世とか穢土っちゅうのにおれはまみれていたいし、何の約束もない浄土なんかにすがる気なんて少しも起きない。バカぢゃねぇのかと思う。
 そらまぁあらゆる組織に馴染めず、さらにはたしかに薄らお綺麗にどんどん変質して行く社会への不快感は募る一方とは申せ、だからって死んでどないすんねん?それにおれにそこまでの価値があるのか我ながら甚だ疑問なんだが、不思議なことにそこそこの収入は得られ、取り敢えず日々食って行けてるワケなんだしねぇ。中世の人々のような戦乱に明け暮れ、今日食べるものにもしばしば窮するような暮らしぶりとは根本的に違う。食い物が無い、購う金もない、これはもう絶対的な不幸だ。それに較べりゃおれなんて大甘の甘納豆は大納言、っちゅうヤツだ。
 まぁこの辺のねじれた現実感覚、っちゅうかセコさが何とかかんとか奇妙な平衡をもたらしてくれ、これまで辛くも日常生活を成り立たせてくれてだんだろう。

 しかし思うに、ストレスとメンタリティの崩壊はアレルギー発症のプロセスととても似てて、自分の中の見えないコップにアレルゲンたるストレスの素みたいなんがシトシトシトシト溜まってくようなモンだ。それは我慢料としての対価を得るっちゅう対症療法を施したところで止まることはない。アレルギーで蕁麻疹が出て膏薬を塗ったところで抜本的な治療にならないのと同じだ。麻痺させたり、表面的なブツブツを抑制するだけである。そしてそのうち溢れる・・・・・・つまり壊れる。
 一番の処方はコップそのものを引っくり返して中身をブチ撒けちゃうことなんだろうけど(実際のアレルギーではそれはムリらしいけどね)、それが今の生活の中では極めて困難であるのは明白だ。

 ・・・・・・さぁどうしよう!?

 中年の造反なんて実にブサイクなだけでなく、勝機に乏しいことまことに夥しい。メチャクチャ分が悪い。それでもやるのか!?
 それともやはりこれまで通り対価で以て鈍麻させながら、騙しだましこのまま行くのか?

 ・・・・・・ハハハ、まぁ何だかんだでこうして冷静に考え、ヴァーチャル方丈であるこのサイトの中でとりとめなくウダウダ言ってられるうちはまだ大丈夫だよね!?


こんな感じの間取りだったようだ。昔の人は小柄だったから、今より広く使えたのかも?

http://web.kyoto-inet.or.jp/people/shige-k/atelier.html

2016.02.27

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