「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
仔猫譚(W)


欠伸ばっかしとるなぁ・・・・・・

 北村一輝主演の「猫侍」って独立系の製作によるドラマが高い人気を博しており、特別版で映画が製作されたりもした。おれも何話か観てみた。ストーリーは剣の達人のストイックで強面な浪人が、商家の主人をその可愛さで腑抜けにした雪之丞ってネコを斬るように依頼されたものの、あまりのネコの可愛さにどうしても斬ることが出来ず、それどころかすっかり籠絡されてしまって翻弄されて、そんなんだからいつまで経っても仕官の道もままならず・・・・・・ってなユル〜い内容だ。二枚目にも拘らずカルトで掴み処のない不気味さを漂わせた芝居やらせたらピカイチの北村にはピッタリのハマリ役だと思う。

 ・・・・・・ネコはやはり魔性の生き物なのかも知れない。

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 我が家のネコも2歳を過ぎた。人間に換算すると最初の2年は1年で12歳くら成長し、その後はおよそ4歳づつくらいのペースで歳を重ねてくらしいんで、ちょうど今は20代半ば、青春真っ只中ってトコだろう。お年頃、っちゅうやっちゃね。だからもうこのタイトルを続けるのにも限界が来てる。次回このネタで書くときはどぉしようかなぁ・・・・・・?

 家族にはすっかり懐いており、ある程度こちらの話してることも雰囲気で何となく理解しているようである。言葉についてもおそらくは自分の名前に加え、「エサ」「カマボコ」「おいで」「コラ!」「ダメ!」あたりは理解してる・・・・・・ま、その程度なんやけどね(笑)。

 身体の大きさは今くらいから先はもう変わらないらしいんで、かなり小柄な方だと思う。どうやら種類だけでなく毛色によっても大きくなりやすいのとかいるみたいだ。例えば同じ虎ネコでも茶と白のではズングリと大きくなるタイプが多いように思うが、鯖ネコにはワリと小柄なのが多い気がしてる。ちなみに毛色による性格の傾向っちゅうのを調べてみたら、白い部分が少ないのは野性を多く残した猛々しい気質が多いらしい・・・・・・やっぱし(笑)。うちのは全身ほとんど縞柄になってるっちゅう、極めて白い部分が少ないタイプなのだ。
 ただ、ネコの柄って生え際からその色になって出来てるのではない。毛を掻き分けて見ると先端以外はどこも真っ白である。五分刈りにすれば白猫になれるだろう。

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 朝、起きるとすぐに台所のカウンターに乗って朝イチのジャーキーをくれとせがむ。他のエサと違って食器棚の上の方に仕舞ってあることをチャンと覚えてるんで、ジーッとそこをガン見して、おれの動作が遅いと早くしろと鳴く。

 それにしてもまぁイヤしいっちゅうか、食に関してはまったく待てない。おれが眠い目をこすりながらジップロックを開けて1本取り出すと、すぐに食いつこうとして来る。まずはジップロックの口閉めようとおれが体を若干よじると、そのまま流しを伝って取ろうとする。小声で「まぁ待て!」と言っても全くムダ。早う寄越せ!食わさんかい!とニャーニャー鳴きまくる。この辺はいつまで経っても全然学習能力が無い。
 少しづつ齧らせようとするのだけど、何をそんなに焦る必要があるのかハフハフと激しい息遣いで貪るように迫ってくる。いつだったかあまりにいっぺんに呑み込み過ぎて喉に詰まりそうになってそのまま全部吐いてたこともあった。仕方ないんで最近はジャーキーを深く持ってあまり長く出さず、右の方から一口齧らせたら手を一回引っ込めて持ち替えて、今度は左の方から齧らせるようにした。そんなんだから1本与え終わる頃、おれの手はネコの涎まみれになってる(笑)。

 この後すぐにヨメからちゃんとしたエサを貰って食べ終えると、おもむろに部屋の中が一番見渡せるソファーの背もたれの定位置に蹲る。そこからおれもヨメも忙しなく動いてるのをジーッと観察するのである。おれが会社に行こうと玄関で靴を履くと一目散に走って来て、玄関脇の廊下の見える部屋に飛び込む。一応は見送ってるつもりなのだろう。

 昼間は家に誰もいないのでどんな行動をしてるのかサッパリ想像がつかないが、別段暴れたり、悪戯したりとかはないようだ。おそらく殆どは無聊をかこちながらその日の気温とかで場所を変えつつウトウト寝てるんだろう。たまに一番最初におれが家に戻る時があるんだけど、リビングに入るとたいていはソファーの隅っこ辺りで、たった今目が醒めたような雰囲気で伸びをしてることが多い。姿が見えない時はほぼ決まって押し入れの上の段に仕舞った布団の上に蹲っている。何だかんだで一日の半分以上は寝てるのではなかろうか。

 戻ったおれの姿を認めると、無言のまま足許にやって来て身体を擦り付ける。この行動は親愛の情の表現であると言われるが、本当にそうなんだろうか?どちらかと言えば、外を出歩いて戻ってきて馴れない臭いを身に付けて来たのが気になるからではないかとも思う。そしてそのままゴロンと横になる。顔は前を向いたまま横目でおれの方を見上げる。これは撫でてくれ、っちゅうサインである。「撫でて♪」っちゅうよりは「ほれ、撫でなさいよ」みたいな感じだ。猫は犬と違ってあくまで主人は自分自身なのである。2〜3分喉やら後ろ頭、背中を撫でてやると、急に立ち上がってどっかに行ってしまう。まるで「もぉいいわ。おつかれさま」ってな感じである。あくまで尊大で優雅に振る舞いやがる。

 夕食時は食卓の上に乗って来ておれの真正面に座る。つまりおれはネコと向き合って毎晩飯を食ってるのである。かなりシュールな光景かも知れない。これはオカズをちょっと貰えるのではないかと期待してるからだ。決して他の家族の前には座らない。何故ならおれ以外は滅多にくれないことも学習して知ってるからだ(笑)。おれは飼い主として甘いのかも知れない。
 ネコなんてどんな魚でも食べるモンだと思ってたら、意外に好みがある。ゼータクなのである。鮭・カレイ・ハタハタなんかはワリと好きな一方で、タラ・ブリ・アジ等は匂いだけ嗅いでプイッと行ってしまう。どんなネコでも絶対好きだと思ってたカツオ節や煮干しも嫌いみたいで、まったく見向きもしない。鶏肉はどこの部位でも好きなようだ。いずれにせよ塩味が濃いと食わしちゃダメなので、ちょっと与えるのにも気を遣う。
 あと、ヨーグルトとプリンが大好きなようで、これはよそ見して油断してるといつの間にかカップに顔を突っ込んでたりする。また、プリンの蓋が剥がされてクルクル丸まったのがプリンそのものよりもさらに好きで、いつまでもこれとじゃれて遊んでる。たまに咥えてワザと水の中に落としてジーッと眺めてたりもする。どんな意味があるのかは分からない。

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 夏の終わり頃、死にかけの蝉がよくマンションの廊下に落ちていた。なぜか死期の近付いた蝉って裏返しになってるんだけど、それを拾ってジジジッとか鳴くのをネコに与えると、狩猟本能がいっぺんに目覚めたような動きを見せてくれた。ニャニャッと声を上げると、瞳孔を大きく開かせて攻撃態勢になる。実はこういう時のネコの表情が一番可愛い。

 距離を置いて狙い、尻を振って飛びかかる。手で抑え込んでは引っ掻いたり、軽く噛んだりすると一旦退却。とにかく一思いに息の根を止めないのがネコの流儀のようで、こうして少しづつ執拗に攻撃を繰り返して弱らせて行く。蝉が最後の力を振り絞って飛び上がったりすると、大興奮で大ジャンプを見せる。アッと言う間に蝉はボロボロだ。
 とにかく小さい昆虫等には興味津々で、たまに小さな羽虫が迷い込んで来たりすると夢中になって追い掛けて、カーテンレールの上に乗ってしまい、飛び降りるのも怖いモンだから仕方なく後ずさりして戻ったりしてる。ネコはバックできないって話があるけどありゃウソだ。出来なくはない。ただ、異常に下手なだけである。

 まぁ、ひじょうに残酷なんだけど、これがネコの本来の姿なんだろう。自分より小さな動くものが目の前にいると、本能的に取り敢えずは仕留めようとしてしまうのだ。

 その一方でネコとはひじょうに警戒心が強く、憶病な動物でもある。ある意味猜疑心のカタマリみたいになって暮らしてるのではないかとさえ思う時がある。
 我が家は建物に入る時にピンポン押して、さらに玄関前でもっかい鳴らすようになってるんだけど、最初のピンポンでまずは食卓の下に慌てて身を潜める。大体人が来るったって宅急便か郵便屋くらいだし、それらの人にしたってエリアの担当が決まってるモンだから大体いつも同じ人が来てるんだけど、その辺はあまり学習能力が無くて、とにかく家族以外の見知らぬ人は全部怖いみたいだ。
 二度目のが鳴っておれが玄関先に向かうと、一瞬の隙を衝くようにして押し入れの中に中に駆け込む。最初からすぐに押し入れに向かわず一旦食卓の下に潜むのは、ネコなりに何らかの理由があるのだろうとは思うものの、これもプリンのフタ同様、真意はどうにも良く分からない。

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 要は、どんな行動を観察しても見えて来るのは、ネコはネコなりにちゃんと日々色んなことから学習し、知恵を付けて成長してるってコトだ。基本的に怠惰で残酷で優雅で我儘・・・・・・とまるで昔の王侯貴族のような性質とは申せ、まぁそれなりにやはりおれたちとは上手くやって行こうとしてるフシも感じられる。シレッとしながらも寂しいのはイヤなようで、家族が集まるトコに必ず寄ってくる。何ともいじらしくなってくる・・・・・・って、アカン!猫侍と同じパターンにおれ達も陥ってるではないか。

 ・・・・・・言い伝えにある通り、このままもっと年取ると尾が二つに分かれて猫又になるかも知れない(笑)。

2015.11.15

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