「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
物持ち生活


レッドウィングのブーツ。ソールさえ換えれば一生モノの頑丈さらしい。

http://www.shopalponte.com/より
 思えば物欲全開な人生を過ごしてきた。

 単車は最大3台所有してたことがある。書籍は一時期、何千冊どころか万単位であった。テントは大小合わせて4張、ザックもデイパックみたいなんから45リッタークラスまで5つ、ランタン等の灯火類は10個は下らないだろう。自転車はロードバイクが2台、ギターはどれも愛着があって売り飛ばす気になれないので手元に残してあるから11本、アンプは小さいのばかり4台、ピックはコレクションしてるから数百枚。意外に場所食わないんでそのままにしてあるけど、スノボだって5枚ある。
 腕時計も数えてみたら何だかんだで11本、カメラはまぁ都度々々整理しながら買ってるんでボディは1台だけだけど、レンズは使わないのも含めると8本くらいあるんぢゃないか?それよりカメラバッグが大分処分したけどまた増えてデカいのばかり3つ・・・・・・。

 ヨメは呆れ返っている。このまま齢を重ねたら本当に家からモノが溢れ返って寝るスペースも無くなってしまうかも知れない。それでより広いトコに引っ越したって詮無いことだろう。そんな了見ではすぐにまたモノは増えるだけだ。
 これ以上とにかくモノを増やさないようにするのが一番だ。素寒貧の清貧さに憧れつつ、おれは背中一杯にイソギンチャクやらなんやらを背負ったヤドカリみたいな人生を過ごして来たのである。

 まぁ、それは別段おれだけに限ったことではあるまい。戦前から高度成長期にかけて生まれ、三種の神器だのなんだのと家の中の電化製品や調度類が増えて行くことがそのまま豊かさの証だった時代を過ごした者には多かれ少なかれ共通する行動パターンなのではあるまいか。

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 そのうち改めて書こうと思ってるんで本日は割愛させていただくが、最近とある出来事をキッカケにおれはこうしたモノまみれな生活を脱却しなくちゃいけないと思うようになった。
 誤解のなきように申し上げとくと、しばらく前に「断捨離」なるものが流行したのはまだみなさんの記憶にも新しいだろうが、あれは一切関係ない。おれはそこに漂う偽善の香りにおれは耐えがたい不快さを感じてたくらいなのだから。ブームだからってチャラチャラ乗っかるその安っぽい精神構造こそ捨て去れよ!くらいにまで思ってた。

 それはまぁさておき、自らの意思で取り敢えず本は文庫本や新書を中心に大半を処分した。ヨメも大量の衣類を随分処分した。何だかんだでクルマでハードオフを4往復したと思う。かくして家の中はけっこうスッキリしたのだった。
 これからは持ち物を厳選し、そして大切に長く使うってコトを心掛けて行こうって気にやっとなったのだ。実に清々しい気持ちになれた。不惑どころか知命に至ってようやく、っちゅうのが全く以て進歩の無いアホだとは思うが、思い立ったが吉日、過ちを革むるに憚ること勿れとも言うではないか。

 そうして家の中を見渡してみると、まず最初に日送りがチャンと動かなくなったり、歩度の誤差が大きくなったりしてて最近はずっとウォッチケースに仕舞い込まれたままになってた腕時計類が目に入った。中には何だかんだで30万くらい遣ったとてもおれにしては高価なのもある。なかなか町の時計屋では扱いかねるムーヴメントも中にはあることを知ってたんで、デパートの時計売り場で見てもらうことにした。
 売り場の隅っこにある修理コーナーに行くと、医者みたいに白衣着たシブいおじさんが持ってった時計をチェックしてくれる。

 ------プリメロですかぁ〜。良い機械ですよね、これ。代理店送ると13万くらいですね!
 ------はぁ!?13万!?昔訊いたら7万くらいって言われたんですけど・・・・・・
 ------ああ、大沢商会が代理店やってた頃はそれくらいだったんですけど、ルイヴィトン傘下になって一気に上げられました。
 ------本体の値段だけぢゃなかったんですね。正直ちょっとボリ過ぎかな・・・・・・。
 ------あの、自社工場でなら税込6万8千円でできます。ただもし、部品交換が必要で、ストックにないとムリです。
 ------ぢゃ、それで一度やれるだけやってみてください。ムリなら返品ってコトで。
 ------かしこまりました。
 ------このパーペチュアルデイトジャストは?
 ------ロレックスは何年前からかな?代理店でしかやらないってコトになりましたんで8万円ですね。
 ------え!?ただの三針時計なのに!?
 ------はい。ただし、日本ロレックスでやると新品みたいになって戻ってきますから、それなりに価値はありますよ。
 ------そうなんですか・・・・・・ぢゃ、このオメガは?
 ------う〜ん、年式で違うんでちょっと調べさせてください・・・・・・(フタ開けに行って戻って来て)4万円ですね。
 ------ええっっ!?ただの手巻きですよ(この辺になるとやや泣き声だったかも知れない、笑)。
 ------オメガは1年で5千円づつ上がってく感じで、ヴィンテージだと10万超えます。スウォッチジャパンがそんな料金表なんです。

 おれは渋々ゼニスだけオーバーホールに出すことにした。4ヶ月ほど前のことだ。1ヶ月くらい掛かって時計は戻ってきた。幸い手持ち部品で間に合ったようで13万円コースにはならずに済んだ。

 レッドウィングのブーツが下駄箱の中に転がってる。たしか10年ほど前に半額セールで2万円ほどしたものだ。革はまだ全然大丈夫なんだけど、ソールが擦り減っちゃってこれもしばらく仕舞い込まれたままだった。これも近所のリペアをやってくれる靴屋さんに持ってった。

 ------んん〜、純正ソールだと1万円、コピーの国産品だと6千円、ビブラムにすると8千円ですね。
 ------どぉ違うんですか?
 ------純正が一番軟らかいです。コピーはちょっと硬くて、ビブラムは登山靴用で一番硬くって、ゴツゴツして滑りにくいです。
 ------ぢゃ、ビブラムにしてください。
 ------あ、そうそう。縫い込みますか?縫いこまなくても普通には履けますが、ハードに使うんならお勧めですよ。
 ------いくらですか?
 ------2万円です。
 ------・・・・・・フツーでいいっす。

 先々月だったか、旅先でクルマを尖った石にウォール当ててバーストさせてしまった。25年ぶりくらいの経験だ。テンパタイヤに履き替えて現地で最寄りのオートバックスに持ってった。タイヤっちゅうのはこういった場合、左右をペアで換えないと外周差によってデフが壊れたりするんで2本買わなくちゃいけない。惜しんでるヒマはない。背に腹は代えられないからエイヤァで交換したけど、これが約6万円弱。アルミホィール付4本セットが10万ほどなのに、なぜか単品買いは箆棒に高いのだ。
 ともあれ下取り出せば30万行くかどうかの買い替えることも検討してたクルマにこの出費はとても痛い。

 この時の旅は何かと物入りで、も一つ大きなトラブルがあった。撮影スポットを見付けてクルマを停め、後部座席に置いてるカメラを出そうとドアを開けたら、あろうことかカメラが転がり落ちたのだ。幸い下がフカフカの草地だったからボコッてな感じの落下だったが、慌てて拾い上げると鏡筒がピントリングのところから外れてるではないか!10ナン万もしたレンズが!
 夢中で押し込んでみると内部の篏合が上手くハマったのか、パチッと小さな音がして見た目的には元に戻った・・・・・・が、ズームを伸縮させると動きが何となく渋い。旅から戻ってサービスルームに持ち込んだ。如何にもカメラ屋って感じのちょっと痩せて神経質そうなオッチャンが応対する。

 ------あ〜、これ、ちょっとおかしいですね。ちょっと点検してみます。1時間ほど掛かりますけど宜しいですか?
 ------ええ、適当に近所ブラついてきますから、とにかくシッカリ診てください。

 そして1時間後・・・・・・

 ------レンズ、やはり鏡筒が曲がちゃってますね。光軸も微妙にズレてます。でも、ボディのバヨネットマウントは大丈夫でした。
 ------そぉですか・・・・・・。
 ------バヨネットまで逝ってたら大変です。修理費も凄く掛かるトコでした。
 ------レンズの修理費はどれくらいなんでしょうか?
 ------マックス3万ってトコです。交換部品がどれだけ発生するかで若干差があります。
 ------うう〜・・・・・・お願いします。

 予想より内部は頑丈だったようで、およそ1週間後、2万ナンボをカウンターで払うおれがいた。不思議なことに、元々比較的シャープでキレの良かったのがさらに良くなって帰って来たのは嬉しい誤算だった。余程調整のウデが良いのだろうと思う。

 さらに数週間前、近所にウデの良い老舗の時計店があるって知って、デパートを諦めた2本のうちオメガの方を持ち込んでみたのだった。

 ------あ、これ?これ良い機械ですよ。ローター抜いてデチューンしてあるんで頑丈なんです。
 ------お幾らくらいですか?
 ------1万9千円です。この時代のムーヴメントはそんなに手間掛からないんで。
 ------デパートで訊いたら4万円って言われたんですけど・・・・・・
 ------ああ、スイス送りだとそれくらいかなぁ〜?でもヘタすると折角の機械が最近のに問答無用でゴッソリ換えられますよ。
 ------そうなんですか!?
 ------今はそういう方針みたいですね。でもこの時代の機械はホント良いから、絶対手放しちゃダメです。

 コイツはまだ戻って来てない。来週くらいだろうか。

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 ・・・・・・何だかんだで数ヶ月の間に合わせて17万円もの散財になってしまったのである。較べてもしゃぁないとは申せ本売った代金は全部で5千円くらいだった。で、そんなに大金注ぎ込んだって何か所有物が増えるワケではない。どれも見た目的には殆ど何も変わらないままだ。

 これから目指すのは物持ちが良い生活だろう、とは思う。サスティナブルなどとスカした横文字を並べるまでもなく、要は昔の人のように小まめに手入れし修理しながら長く大切に使って行く・・・・・・。
 しかししかししかし!手直ししながら大切に使うって、理念としてはそうして正しく、清らかで美しいのかも知れないが、実際は大変な経済的困難を伴うもののようだ。下世話なハナシだけれどもそれが真実だ。

 どぉにも遣る瀬無い。フクザツな気分だ。シオシオのパー。

2015.06.23

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