「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
貧困ビジネスの明日


おらぁここは世の中から退場すべきだと思ってる。

 ヨーデルヨーデルヨーデルヨーデル・・・・・・ってなカル〜い調子で最近、妖怪ブームだそうで、どんなんかいなぁ〜?と思ってTV観てみたら、何だかポケモンと区別が付かなかった(笑)。だって、闘わせて勝ったら時計に仕舞っちゃう、って基本の筋立てがまったくいっしょやんか。これをエピゴーネンと言わずして何をエピゴーネンと呼ぶのだ!?チャンとピカチュウに相当するジバニャンがいるしさ。
 ともあれ、昔の「ゲゲゲの鬼太郎」みたいな単純な勧善懲悪の図式でない所が如何にも今風な感じだ。どだいそんなに悪いのが出てこない。

 しかしながら本当に性質の悪い妖怪はやはり成敗され退治されねばならない・・・・・・と思う。

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 しょうむない時事ネタの前フリで勿体付けるまでもなく、今回おれが「妖怪」と呼ぼうとしてるのは貧困ビジネスのことである。それも生活保護者を箱みたいな部屋に閉じ込めて根こそぎかっさらうようなのではない。あれは露骨にムチャクチャ悪いだけに分かりやすい小物だ。もっと巧妙でインテリヤクザなのが、言うまでもなくチェーン系の外食産業だろう。

 今さらここでクドクド書くまでもないくらい有名になってしまったが、ここに来てそんな激安だの価格破壊だので急拡大してきた外食チェーンが揃って苦境に立たされている。ザマミロ!メシウマ!とはおれは決して思ってない。何故ならこれは当然の帰結だからだ。

 きっかけは年明け早々のすき家でのアルバイトの反乱だったように思う。アルバイトの世界から遠ざかってはや四半世紀、彼の業界に対するおれの認識が甘かった。アルバイトなのに残業や休日出勤の賃金カットは当たり前、アタマ数が足りなくて一昼夜を越える連続勤務、人間の限界を超えた労働密度。お客に給仕しつつ、レジに掃除に洗い物、足りなくなった肉やら玉ネギ、ダシの継ぎ足し、飯炊き、ついでにやって来る強盗の相手までさせられる・・・・・・芝刈り縄ない草鞋を作り親の手助けおととを世話する二宮金次郎でも出来んだろう。千手観音でも雇えば?と言いたくなるコキ使い方である。その実態の凄まじさを読んで流石におれも驚いた。そらなんぼなんでも辞めるわな〜、と思った。
 ネット上で実態以上に大袈裟に喧伝されてるのかと思ってたら、おれの家の近所のすき家でも「パワーアップ休店」なる意味不明の張り紙の出されるトコが続出して、起こってることが決してネット上のネタではないことを改めて知ったのだった。そしてそれは単なる労働者の逃散ではなく、現代らしい労働争議なんだと思った。

 え!?そんなん、組合とかに相談すりゃエエやん、って思う人はアタマが古いかただのバカだろう。今どきの若い連中がクソめんどくさく、解決金をピンハネされた挙句に組織にしつこくオルグされたり、集会に動員される労組にそう簡単に駆け込むとも思えない。そんなんするくらいなら逃げ出す、って。

 ともあれこの結果、ゼンショーグループは今期75億円の赤字に転落するらしい。どうにも立ち行かなくなって閉店する店も続出してる。

 ワタミグループも同じような感じだ。人手が足りずに50点の閉店予定を100店に拡大し、今期の赤字は30億円になるらしい。昨年が50億だったからかなり経営的には厳しくなって来てるのは間違いなかろう。功成り名を遂げて国会議員になってチョーシくれてた社長はこれからどぉするんだろう?
 マクドナルドについてはもらい事故っぽい点もあって上に挙げた二社とは経緯が異なっており、同じ俎上に上げるのはちょっと気の毒な気もするが、ともあれしばらく前から売り上げ低迷してたんがチキンナゲットでさらにケチ付いて、こっちもゼンショーと同じく今期の赤字75億円。ちなみに本国のマクドナルドが最底辺企業として有名であることは日本ではあまり知られていない。向こうでは「そんなに勉強しないでいるとバカになってマクドナルドで働かないといけないようになるよ!」とガッコのセンセまでが言うそうな(笑)。

 まぁ、モンテローザグループなんかも時間の問題だろうと個人的には踏んでいる。

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 これらの会社に共通するのは単に人をコテンパンにコキ使うだけでなく、何か知らんけど「天下取ったるでぇ〜!オマエ等もワシと一緒に天下取ったらんかい〜!」みたいなヴィジョンをブチ上げては人を酔わせ、若者の夢とか希望とか情熱みたいなモンまでを食い物にしてるトコだと思う。そいでもっていざ働いたら正直さや責任感、勤勉さ、辛抱強さを苛烈なまでに搾取する。そこが妙に癇に障る。
 99.9%は頑張って働いてもせいぜい店長、それも埋まらぬシフトや売り上げのノルマに追いまくられるだけの奴隷みたいな生活だ。それに耐えて耐えて耐えまくってもせいぜいようやく地区マネージャーとかそんなん。結局は売上ノルマと責任の規模が拡大するだけ。
 実のところ、会社としての歴史が浅いもんだからトップの経営層は創業者とその周辺がガッチリ固めてるし、本社スタッフは三顧の礼で迎えたようなアタマのいい連中で占められてたりするのだ。

 確かに新たな事業の勃興期で夜も昼もなく、ロクに休みも取らず働きまくることはアリだろう。単なる自営業状態なんだから何したって良いワケだし、創業者が事業を成り立たせるという夢の実現のために全身全霊を傾けることは全然OKだ。好きにすれば良い。それに直接賛同する連中も好きにすれば良い。この段階に於いては集団はまだ企業としての体を為しておらず、使用者と労働者は不明確であり、利潤の山分けだって可能だ。ウハウハな思いも出来るだろう。

 しかしそのような状態はどうだろ?立ち上げてせいぜい20年、働く人数でせいぜい2〜300名くらいまでが限界だろう。この辺はマルチ商法や宗教団体なんかも近いモノがある。このまま初期のしんどいけどバカにみたいに儲かる状態を続けようとするならば、どしたって使い捨てにされる多数の下っ端が必要になって来るのだ。日本も法治国家の端くれであり年々法整備が進んでる以上、いつまでも新参者がルール無視でのさばって来るのを許しちゃくれない。

 要はそれだけのコトなんだろうけど、往々にして創業者っちゅうのはファナティックでちょとキチガイ入ったような人が多いから、どうしてもその辺が理解できない。そうしてアッちゅう間に今回のような状況に至る。

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 大体、外食産業は小売と並んで「産業」と呼ぶにはいろんな問題が多過ぎるのである。畢竟、前時代的な労働集約型であることを大前提にしたビジネスモデルだから、そもそもバカみたいに安く供するには限度が初めっからある。要は積み上げでしかパイを稼げないのである。そんな労働集約型の事業で薄利多売でのし上がる源泉は原材料だのオペレーションだのいろいろゴタク並べたって、最後は人件費の切り落としだとか仕入れ先を叩くといった「弱い者イジメ」しかないのだ。おれの理屈が間違ってるかどうか自由に議論していただくのは一向に構わないけど、今、世の中で起きていることが何より如実に物語ってるではないか。

 酒が廻って来たもんで話が飛躍しまくって申し訳ないが、過去の産業史を見てて思ってることがある。

 単価が安く、誰でも容易に始めることができる商売に資本が手を付けるべきではない・・・・・・不文律としてかつてはそぉいった考え方があったんぢゃないかとおれは思ってる。飲食業は個人事業の範疇を越えるべきではない、みたいな。そんな聖域と呼んでも良いそこに誰かが厚顔無恥に足を踏み入れた時に、貧困ビジネスという妖怪の萌芽が生まれたのではないだろうか。

 繰り返す。妖怪は退治されねばならない。退治するのは実にカンタンだ。ただもうそこから逃げ出せば良いのである。

2014.11.26

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