「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
紫陽花讃


降りしきる雨の中、色とりどりに咲き乱れる。

 梅雨の鬱陶しい日が続いている。

 いい歳こいた大人で雨降りが好きな人間なんてそうそういないだろうとは思う。その辺の嗜好に関してはおれもひじょうにノーマルなので、雨はやはり大嫌いだったりする。特に何日も続く長雨には気が滅入る。何がイヤかって、布団が湿気てジメジメするのと、どうにもスッキリ洗濯物が乾かないのが堪らなく不快である。そんなん乾燥機買ったらええぢゃんかよ!?このドケチ!ってな御批判もあろうが、どうもあの人工的な感じがこれまた気に食わない。乾かすのはやはり天日干しに限る。

 いやいや、今は持ってないけど、学生時代は下宿に布団乾燥機を持ってたんだった。天日干しが一番とか言いながら、当時は機械モノに頼らざるを得ない環境だったのである。それはドライヤーを巨大にしたような機械で、熱風で膨らむ袋を敷布団と掛布団の間に広げて使うモノだった。
 何せ部屋が神社の鎮守の森の北側にある陰気な鉄筋コンクリートの建物の1階で、1日1時間くらいしか陽が射さない上に、大谷さんが建設費用をいささか惜しんだせいなのか、床下で高さを稼いで通気性を良くする、な〜んて当たり前の工夫がされておらず、床下からも湿気が上がってきて、建物内部が猛烈に湿っぽかったのだ。晴れなのに部屋でゴロゴロしてる時は表の自転車置き場の屋根なんかで布団干してたけど、雨だったり外出する時はそうもいかないもんだから乾燥機出動である。タイマー仕掛けて出て行く。
 戻って来ると、敷布団の2/3くらいの大きさの袋が触れてた部分はたしかに乾いて暖かくなっていた。しかし、触れてなかった部分までは熱風が届かないもんだから相変わらずジトーッとしたままである。さらに熱気は掛布団の表面、あるいは敷布団の裏側までは届かないから、そぉいった部分もやはり湿ったままである。いわばまだらに乾いた布団だ。乏しいおれの筆力では伝わりにくいかも知れないが、これはかなり気色悪い状態だ。

 梅雨はだからいつも憂鬱だった。まだ冬の方がマシだったように思う。札幌にいた時は、ベランダないから毎日部屋の鴨居に敷布団、ラタンの棚に掛布団を干してた。ちなみに北海道に梅雨がないなんてウソで、蝦夷梅雨って長雨とまではいかないまでもやはり初夏の頃は曇り日が続く。また、晩秋の頃は本州の梅雨時なみにジメジメすることはあまり知られていない。

 話が逸れた。ともあれそんな梅雨時に咲き誇る花、言うまでもなく紫陽花について今日はちょっと書いてみることにする。おれは紫陽花が大好きなのだ。

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 紫陽花は一方では何とも地味で陰気な花である。燦々と光が降り注ぐところではあまり見掛けない印象がある。ヤツデなんかと同様、庭でも北側の日当たりの悪い所なんかに何となく無造作かつヒッソリってな風情で植えられてることが多い。言っちゃ悪いが、ちょっと雑草のように取り扱われてる感じがある。おれの住まうマンションのチンケな庭にもチョロッと植えられてるのだけれど、やはり他の庭木の陰に隠れてしまっている。
 そのワケを最近になって知った。直射日光に当て過ぎると早く色褪せる性質があるのである。オマケに水は多目の方が良いらしい。基本的に丈夫で病虫害にも強い。そんなんでちょっとジメジメした日陰に植えられることが多いのだ。

 もちろん、もう一方では花そのものはボテッとかなりダイナミックだったりする。可憐さとか儚さは程遠い存在感がある。また、小さな4弁の花が半球状に固まって一つの大きな花のようになるのはかなりユーモラスであると同時に特異な感じも与える。英語では紫陽花のことを「Hydrangea」っちゅうのだけど、語源的には「水入れ」といった意味らしい。たしかに見た目的にそんな感じがしないでもない。そぉいやボヘミアングラスのボウルに実際、紫陽花っぽい形と色合いのものがあったりするが、あれは言葉からの連想でそういったモチーフが作られたのだろうか?

 国内に紫陽花で有名なスポットは多い。関東では明月院に代表される鎌倉の寺や箱根登山鉄道、麻綿原高原(あ!これも寺だったっけ?)なんかが有名だ。そぼ降る雨をものともせず、傑作をモノしたいのか、ただ単に道具自慢をしたいのか良く分かんない(笑)アマチュアカメラマンが押し寄せてたりする。ともあれ場所を長時間独占されるのはけっこうウザい。早ようどかんかい!ジジィ!みたいな。
 ・・・・・・とは申せ今挙げた場所にしたって、例えば桜や梅の名所なんかからするとちょっとマイナーな感じがするのは否めない。

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 ここまで一般的な紫陽花についての知識を並べてみたんだけど、実のところ、おれが紫陽花に感じている魅力はちょっとそれらとは違うところにある。
 端的に言っておれが惹かれているのは、花としては異様なまでに長い開花期間と、その間での色の変容だ。

 最初は何だか葉っぱと区別が付かないような緑色から始まり、白、水色、青、紫、ピンク、赤紫、赤・・・・・・微妙に色合いを変えながら、何だかんだで1ヶ月半くらいはタップリ咲いてるんぢゃなかろうか。パッと咲いてパッと散る桜なんかとはまるで対極の、しんねりダラダラしぶとく咲き続ける姿については国学者にコメントさせたいくらいだけど、ともあれ如何にも若々しさを感じる淡色から、熟成を感じさせるややねっとりした濃色まで、フェーズ毎にそれぞれの魅力がある。

 ・・・・・・って、実のところ花の色付きは生えてる土壌のpHに左右されるところが大きいらしく、酸性寄りだと青味が強く、アルカリ性寄りだと赤味が強くなるんだそうな。リトマス試験紙の逆だな。つまりちょっとした環境変化に影響されやすいのである。しかし、同じ花でもどんどん時間の経過と共に赤味が強くなってくし、同じ場所に生えててもいろんな色が咲くから、他にもいろいろなメカニズムがあるみたいで、とにかく理科関係に疎いおれには何だか良く分からない。ま、仄聞はこれくらいにしといた方が馬脚を現さなくていいな(笑)。

 そいでもって枯れ始めてからもこれがナカナカにしぶとくて、本当に茶色く萎びて枯れたなぁ〜って感じるのは夏も盛りを過ぎたくらいの頃になる。「花の命はけっこう長い〜♪」なぁ〜んてCMがあったけど、そいでもってまぁ、ありゃぁ女性のことを指してたんだけど(笑)、紫陽花もまさにそんな感じなのだ。

 そう、紫陽花は極めて女性的な花なのである。それも女優とか、あるいは最近流行の美魔女っちゅうアレ、あんな感じ。大体そぉいった女性で若い頃はどぉしようもなくブサイクだった、ってケースは聞いたことがないよね?もしそんな人がおったらそりゃ整形美人やっちゅうねん。若い頃からそれなりに美人で華のある人が、寄る年波にあれこれ抗いながら、恐るべき執念で単に若作りとは異なる魅力を発揮し続けるのにとても似ている。

 ちなみに紫陽花はああ見えて毒草でもある。葉っぱに微量ではあるが毒となる成分を含んでいる。そぉいや何年か前、料理の飾りについてたのを客が大葉か何かと間違えて食っちゃって食アタリ起こしたなんてーのがあったっけ。
 ともあれ図らずもこれでますます紫陽花が上記のようなカテゴリーの女性に近いように思えてくる。そりゃぁ天真爛漫で無垢な美人はたしかに存在する。否定はしない。しかし、そんなのはたいてい若いうちだけだ。いつまでも綺麗な人は、やはりどこか性悪なトコとか毒気を持ってる、っちゅうのが世の決まりだもん。

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 ウダウダ書き連ねてみたが、次の休みもまた紫陽花見物に出掛けるコトにしよう・・・・・・撮影機材はコンパクトにまとめて(笑)。

2014.07.06

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