「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ツリは要らねぇぜ!!


安直だけど、タクシーっちゃこれ想い出します。

 ・・・・・・なんてぇ〜セリフを鷹揚に吐ける御大尽な生活をしてみたいなどと、そんな大それた願望は少しも持ち合わせてないのだけど、それでもタクシーに乗った際の数十円のお釣りは断るようにしている。

 とは申せ、せめて勘定が千ナンボで2千円出してツリは要らねぇぜ!!くらい嘯ければ気障もサマになるんだろうが、たった数十円のお釣りを断る程度ではまことにみみっちく、ケチ臭い。だいいち貰った方だってそんなはした金、チロルチョコが買えるくらいなもんで生活の役には殆ど立たないだろう。それは自分で良く分かってんだけど、身の丈からして無理なんだから仕方ないし、とにかく何かやらずに居れんのだ。

 ちなみに他でそんなことは決してしない。タクシーに乗った時だけだ。まぁ、そんなにしょっちゅう乗ることもないのだが・・・・・・そもそももっと乗れよって!?(笑)

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 何でそんなガラにもないことをするのか?よぉは笑えるほどにタクシー業界が厳しいことを知って、そっからあれこれ考えるうちに、くだんねぇ募金するくらいならこっちに賽銭入れた方がいいように思えてきたからだ。

 ほれ、募金でアフリカのガキにワクチンがどぉこぉとかありますやん。おれ、あれが嫌いなんですわ。だってその前にやることいっぱいある。まずはその子沢山を何とかしろよ!と。飢餓と貧困っちゅうワリには第一夫人だ第二夫人だ第三夫人だと、それぞれに7人も8人もボロボロ子供産ませて何やってんねん?って。
 そこに産めよ増やせよ地に満てよ、というキリスト教的な何の根拠もない楽天的な主張を背景にした、とにかく子供を守れみたいな人道主義とやらがノコノコ顔出すのは実に癇に障るのだ。コンドームでも送れよ、パイプカット手術無料でやってやれよ、って思ってしまう。

 そんなまったく同情しようにもピンと来ない何千キロも海の彼方の連中よりも、タクシー業界はもっとおれたちの近くにあってリアルで、そして恐ろしく悲惨である。年収が180万とか200万とか、月に均したらこれってアータ15〜7万でっせ。拘束時間はバカみたいに長く、給料は出来高だからって頑張りゃ上がるの?っちゅうと、本人の努力や才覚以上に景気の動向に振り回され、酔客に絡まれ、ドツかれ、蹴られ、たまには強盗に殺されて僅かながらの水揚げを奪われたりする。ホントもぉタマらん仕事である。世の中の最底辺の職業の一つと言って構わないだろう。

 東京の、それも丸の内や銀座、新宿界隈、あるいは東京の梅田周辺ならまだ売り上げだっていいかも知れないが、博多の中州、札幌のススキノくらいになって来ると途端にもう怪しくなって来るのがこの業界の厳しい現実だ。ましてや特段の観光名所もないような平凡な地方都市の駅前なんて悲惨の極みで、客待ちの車列が日がな一日無聊をかこつ風景が当たり前になってしまっている。まぁ、そもそも列車が滅多に来ないし、たまに来ても乗客が降りて来ないんぢゃ仕方ない。
 地方の労働基準監督署のお得意様の一つがタクシー会社である、ってコトは意外と知られてない事実である。そして、これら行政も、本気で摘発してツブれられでもしたら地域の雇用がさらに減って困るから、まぁコトバは悪いが結構なぁなぁでやってるケースが多いのだ。公共交通インフラの一端をそれでも担っている、っちゅう現実がさらに矛先を鈍らせるってーのもあるだろう。

 何でこんなことになっちゃってんのか?っちゅうと、いくつかの要因が挙げられると思う。

 一つは長引く不景気であることは言うまでもなかろう。企業もそれぞれ台所事情は苦しいから、交際費が使えなくなったり、出張代に認められなくなったりで、気軽に乗れてたのが難しくなる。親方の日の丸の公務員連中も、何せ税収は下がるわ、財政が赤字転落するわ、プロ市民とかゆうキモチ悪い奴等が趣味のようにしてネチネチとムダ使いを厳しく調べ上げてくれるわで、昔みたいに期末に予算使い切るためにタクシー券を冊子で何冊も買ってバラ撒くなんて芸当はできなくなってしまった。

 次に挙げられるのがあまりの値段の高さだろう。現在の東京のタクシー運賃は初乗り2kmまでが710円、以降288mごとに90円、10km以下の渋滞は1分45秒で90円、となっている。小型タクシーで4人満載なら、ちょっと高いなぁ〜、くらいだろうが1人だとこれはいくらなんでも高い。そらまぁ高い分のメリットとして待たずに乗れたり、途中、停留所で泊まったりしないからバスに較べて速い、自分で運転しないからラクちんだ、なんてのが挙げられようが、それらを勘案してもなお高い気がするのはおれだけではあるまい。

 3つ目はこれまた以前から指摘されてることだけど、供給過剰ってことだろう。地方の夜の歓楽街にはそれでもまだまだ需要はあるんだろうが、それ以上に台数が多過ぎるのである。おれはつくづくそのことを札幌で思い知った。だって夜ともなるとススキノ交差点界隈は全ての交差点に客待ちのタクシーがいてるんだから、これは最早とんでもないと言って構わない状況である。札チョン族・単身天国なんてもぉ何年も前の話だ、っちゅうのに未だにウジャウジャいる。

 そして4つ目のワケが出て来る。考えるまでもなく、タクシーは極めて労働集約的であるだけでなく、ビジネススタイルが全く進化してないのである。時代の変化に対して不平不満をぼやくばかりで、ちっとも変わろうとしていない。お客さんを乗せて、行き先を訊いて、距離課金でそこまで走らせる。そらまぁクルマの性能が向上したり、ドアが自動開閉になったり、無線が付いたり、クレジットカードが使えるようになったりといったちょこちょこした進化はあるにはあるが、大半はこの100年くらい変わってないのである。この変わらなさは、鉄道の比ではない。ビジネスモデルがあまりに前時代的過ぎたのだ。
 そして、交通インフラに於いて変わらないものはいずれ淘汰される運命にある。

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 しかし、おれは決して憐憫の感情から釣銭を断ってるワケではない。世の中、タクの運チャン以外にも幾らでもたいへんな暮らしぶりの人々は居るワケだけど、おれはそれらに施すほどのヒューマニティーも備わってなければ、能天気な傲慢さも持ち合わせていない。
 また、誤解のないように申し上げとくと、おれは別に赤旗振り回してタクシードライバーの待遇改善を!なんて声高に叫ぶつもりはこれっぽっちもない。土建屋と同じで、業界そのものが明らかにオーバーサプライになってんだから仕方ねぇぢゃん、って思う。それが経済原理なのだ。

 思うに、これから10年くらいの間に、長距離トラック輸送なんかもそうなんだろうけど、運輸・運送業全般は自動運転に大きくシフトしてくんぢゃないかとおれは睨んでる。つまり徹底的な省人化・・・・・・どころか無人化が進むのではないかと予測している。
 近年、自動運転技術は盛んに研究され、ようやっと実用化の目処も立ったと言われてるが、みんなあれがホビーユースに適用される技術だと思い込んでるフシがある・・・・・・ってハハ、んなワケあるかい。ありゃ間違いなく産業構造の大転換を目指してやってるのだ。少子高齢化の中で、減少する一方の労働力の多くをただ単に人やモノを運ぶ領域に注入してたら国が持たんではないか。

 タクシーだって、何かスマホみたいなモンでパパパッと行き先入力して、無人のクルマに乗り込んでそれをスロットに差し込むなり読み取り機にかざすなりしたら、スーッと目的地まで運んでくれるような仕組みになるのではないかと思うのだ。精算は降車時ではなく、あらかじめ現金をチャージするとか、クレジットカードを差し込むとかしないと動きださないような仕組みで乗り逃げもできない。チャージ金額が不足したら、その時点で駄々こねた馬みたいに頑として動かなくなる・・・・・・ともあれ、そんな時代が到来するように思う。

 人件費の安い地方や国外に持ち出すことも、外国人労働者を違法にコキ使うこともできない労働集約的な最底辺の仕事は大体そんな風にして、ゴッソリ卓袱台返しのようにして変わって来たのだ。人材ではなく人財だ、なんて綺麗事は通らない。人件費が最もこういった企業の経営には足枷となるのだから。

 しかし、実際それに従事する市井の零細な人々はひどく困窮している。それはそれで厳然たる事実だ。この相反する2つの構造的な問題はおれがどぉできることでもなければ、どぉする筋合いのものでもない。おれは政治家でもなければ憂国の志士でもない、ただのサラリーマンのおっさんだ。

 上の方で「賽銭」っちゅう表現をした。そう、おれの中でこの数十円の端数は憐みの喜捨ではない。個人の力ではどうにもできない物事に対し、人は畏れ、祈る。その祈りの僅かばかりの幣として、おれはたまのタクシーで釣銭を断ってる・・・・・・そんな気が今はしてる。 

2013.12.11

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