「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
私は年寄りが嫌いです


伝説の怪作、「子供達を責めないで」

 猫と一緒にゴロゴロしながらTVのニュース観てたら、東京は羽村の方で、プールの歩行者専用通路にジジィの運転するクルマが突っ込んで露店を薙ぎ倒し、5人ばかしが跳ね飛ばされた、ってやってた。手前から暴走して側溝に落ちたり電柱に当たったりを繰り返した挙句、係員の制止を振り切って突っ込んだ、っちゅうんだからもぉ処置なしである。めんどくさい裁判等なんてスッ飛ばして、即刻ガス室にでも送ってほしい。

 しかしながらこのテの突入事件は高齢化の進行とともに増加中で、気になって調べてみたら、年間におよそ8千から1万件も発生しているのである。1日20件以上だよ、これ。まぁ、初心者やアホなネーチャン・オバハンがパニックで起こす割合も比較的高いのだが、やはり年寄りが多くを占めているのは言うまでもない。そんなんで三日にあげず新聞の紙面を賑わしてるのが実態であって、今更ここで取り上げるのも新鮮味に欠けるのは良く分かってる。それを敢えてこうして一話に纏めるのにはワケがある。いやいやいやいや、自分が当事者になったのではないよ。いくら何でもまだそこまでは耄碌してない、ってばってんがくさ。

 実はホンの数日前、目の前で遭遇したのだ。オマケにもうちょっとで被害者になるトコだった。大阪での話だ。

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 朝からヨメと二人で実家に関するいろんな、そして鬱陶しい用事を片付け、時間もそろそろお昼である。

 午後は午後で人と会う約束があるんで、余りゆっくりしてる暇はないし、イヤんなるほど暑いもんだから、ここは一つ手っ取り早くサッパリと蕎麦か饂飩でも食おうか、ってな話になった。適当に広い通りをクルマで走って行くと、左手に最近急成長中の讃岐うどんのチェーン店が見える。別にどこで食いたいって気もないので、取り敢えずそこに入ることにした。
 昼時ということもあって駐車場は2台分しか空いてない。店に近い方は両サイドが車幅の大きいクルマだったので、おれはもう一つの方に停めた。

 冷たい饂飩と、かき揚げを一つセルフで取って、青ネギ大量に天カス少々。冷やしなので、おろし生姜も入れたりなんかしてイッチョ上がり。そうしてカウンターでそそくさと食い終わる頃、建物の角の方でドスーンとくぐもった、ややデカい音がした。ちょうどその辺のテーブルに座ってたファミリーは驚いてたが、まぁ建物が揺れるほどでもなし、トイレの扉を乱暴に閉めた客でもいるのかな?くらいに思って、それ以上特に気にすることもなく食器を返して店を出たのだった。

 最近の飲食店の常で、喫煙スペースは店の外にある。照り付ける陽光の下、赤い四角な缶がスタンドの上に乗っかってるだけの、スペースとも呼びがたいような殺風景なモノだ。そして煙草を咥えて火を点けようとして気付いた。
 ヨメにいつでも叱られるのだけど、おれはどうも何かやることがあると他の事物があまり目に入らなくなってしまう。見れば、その灰皿の後ろにベコベコになった銀のホンダ・フィットが斜めって停まってるではないか。
 ヒドい停め方するヤツもおるなぁ〜、と改めてジックリ見てみると、クルマだけでなく建物の角っこの雨樋は割れ、ヨドコウだかイナバだか知らないがプレハブの物置はひしゃげ、車止めの紅白だんだらに塗られた逆U字型の鉄柱はひん曲がり、やや後方の隣にあたる区画のエスティマハイブリッドは左前が激しく壊れてバンパーがブランブランになってる。

 ニブいおれにも事態がようやく呑み込めた。要はこのフィット、アクセルとブレーキを踏み間違えて車止めに衝突、制御不能のままそれを乗り越え、エスティマを破壊しながら建物の角に激突して止まったのである・・・・・・っちゅうか、エスティマの場所、おれが店に入った時空いてたスペースのうちの一つやんけ!あ〜、ここに停めんで良かった〜。ホンマ泣きまっせ。いやいや、それどころかもう少し店出るのが早かったら轢かれてたかも知れんやん、おれ。

 それにしても運転手の姿がない。アワ食って逃げ出したのか、と思ってると妙に派手なバミューダパンツっちゅうんですか?七分丈くらいの半ズボン、アレ履いた痩せぎすのジジィが店からノソノソ出てきて、まるで他人事のようにとぼけた調子でおれに訊くともなしに訊いてきた。

 ------やっぱり警察に電話せんとアカンのかなぁ〜?
 ------・・・・・・は!?勿論でしょ!
 ------あぁ〜・・・・・・エンジンも掛からんようになってもたなぁ〜・・・・・・。

 多分、その時のおれは顔から血の気が引いてたように思う。恐怖ではなく怒りで、だ。これだけハデにあちこち壊しといて、テキトーに済ますことができるなどと思ってただけでなく、あわよくば黙って逃げてやろうとしてのではなかろうか、って風に見えたのだ。ジジィは嘆息を漏らしつつボーッとした様子で再び店に入ってった。多分電話でも借りに行ったのだろう。
 それにしてもエスティマの客は自分のクルマに何が起こったのか未だ知らず、呑気に饂飩食ってるに違いない。車内にはペットボトルが数本見えたから間違いなく家族連れだろう。ホンマもうお気の毒様と言うしかないが、おれも後の約束があるんで、現場から立ち去らざるを得なかった。

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 年寄りからはもっともっと積極的に運転免許を取り上げるべきなんだろう。

 今は75歳過ぎて後期高齢者とかいうのになると、免許の更新時に違反歴を見たうえで認知症検査が行われ、判定が下ると免許取消になるシステムになってるそうだけど、中身はかなり手ぬるいみたいだ。つい最近、実際に受けた人がそう言うんだからそうなんだろう。通り一遍の検査だけで終わっちゃうらしい。
 しかし、そうして検査を受けて、めでたく免許返上の必要なしと判定されたハズの年寄りがバコバコとコンビニその他に突入しまくったり、立体パーキングからコロコロ落ちまくったり、高速道路を逆走しまくってるのである。これは紛う方なき厳然たる事実なのだ。

 要は何も認知症だけがこれらの事故を起こしてるのではない、ってコトだ。ハッキシ言って実際は加齢に伴う反射神経の低下、記憶力の減退、特有の頑迷で独善的な思い込み等々が相まって事故の原因となってるんだけど、それらは「病」というよりは多かれ少なかれ年取れば誰もが陥る「状態」に過ぎないものなのだ。つまりは判定が非常にむつかしい。

 この問題に対して例えばスバルのアイサイトみたいにフールプルーフな仕組みをクルマに組み込むことも広がっている。どこぞのメーカーではさらに一歩進んで、画像認識と人工知能の組み合わせによって、間違えてアクセルを踏み込みまくってもクルマが前に行かない仕組みも実用化に向けて試験中らしいが、ホンマに踏み込まなきゃいかん時に前に進まんかったらそれはそれで大変なんで、いろんなケースを想定するのがむつかしいらしい。

 まぁ、テクノロジーの進化はそれでとても良いことなんだけど、これらはあくまで補助機能に過ぎないのである。100%完璧に動作させることがひじょうにむつかしい。それにそぉいった機能を搭載したクルマを買わなければその恩恵にあずかることができないのは言わずもがなで、積極的な新車への買い替え需要がさほどあるとも思えない年寄りにこぉいったユーティリティが普及するのは一体全体何年先の話になるねん、って思ってしまう。現にコンビニ突入のニュースの映像見てると、古いクルマが多いもんな。

 詰まるところ目下のところはさしたる妙案もないワケで、やっぱ年寄りから免許取り上げまくるしかないのだ。何だかんだで、自家用車があるっちゅうのはベンリで、ほいでもって年寄りは何するのも億劫になってきて横着なもんだから、少々ヤバくなってるのに気付いてても乗ってしまう。自主返納なんて生温いこと言ってては、いつまで経っても埒が開かない。。

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 昔、スネークマンショーで伊武雅刀が子供に関する悪口雑言を並べ立てる「子供たちを責めないで」って曲がヒットしたことがある。よく発禁にならんかったなぁ〜、っちゅうくらいストレートで痛快な内容だ。何と作詞は秋元康だったりする。JK寄せ集めビジネスだけぢゃないのね、この人(笑)。

 その老人版が必要になってるとおれは思う。ジジィババァ含めた国民全体が何の根拠もない「年寄り=善い人」的な安易な思い込みをとことんコキ下ろし、徹頭徹尾粉砕すべき時代がそろそろ到来している。言うまでもなく世の中はこれまでも、またこれからも劣悪な若い衆に満ち溢れてる。それがそのまま年取ったって急に賢くなったり、穏やかな人格者に変態するワケないではないか。さらにそこに老化といういろんな肉体的・精神的毀損が覆い被さって来るんだぜ。それでどうして良い方に転ぶんだよ?秋元センセ、是非とも歌詞に書き起こしてくださいな(笑)。

 年寄りは横着で無遠慮で図々しい。
 年寄りは歳ほどには知識も経験も常識も見識もない。
 年寄りは傲慢で尊大で謙虚さに欠け、若い世代への感謝がない。
 年寄りは我儘で利己的で独善的だ。
 年寄りは押し付けがましいくせに聞く耳は持たない。
 年寄りは猜疑心が強いくせにすぐに甘言に弄され騙される。
 年寄りは強欲で吝嗇でセコい。
 年寄りは気難しく偏狭で頑固で他責・他罰的だ。
 年寄りは狡猾で自己憐憫が強く言い訳がましい。
 年寄りは被害妄想が強く、すぐに拗ねていじける。
 年寄りは論理や道理が通じず、モラルに欠ける。
 年寄りはいつも何かやってもらえる、与えてもらえる、許してもらえると甘えている。
 年寄りは己の欠点に無自覚だ、いや、分かっててもすっとぼける。

 ・・・・・・ってまぁ、生きてればのハナシだけど、実はおれもあと10年ほどで還暦を迎える。名実共に年寄りの仲間入りをするワケだ。天晴、ただのジジィになるのである。

 それでも敢えて言おう。おれは年寄りが嫌いです!と。ムダに馬齢を重ねてるだけなのに人生の先達みたいなカオするな!と。

2013.08.16

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