「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
小商ものは値切るな


若い頃は説教くさいことが並んでるんで、あまりマジメに読みませんでした・・・・・・。

 観光地の土産物屋で湯呑とか暖簾だとかによく見かける「親父の小言」っちゅうのがある。内容は上の画像にある通りで、出自はそんなに古いものではなく昭和の初め頃のことらしい・・・・・・で、この大聖寺ってお寺、これまでてっきり石川県の大聖寺のなんかだと思ってたら、福島県は相馬にあって、今は気の毒なことに福島第一原発の放射能漏れ事故で避難を余儀なくされているらしい。それにしても、書く段になってあれこれ調べてやっと気付くおれの泥縄ぶりも実に情けないな。

 ともあれ全部で40ほどの「小言」がどういったキッカケでこれほど世の中に広まったのか、おれは寡聞にして知らないし・・・・・・っちゅうか調べても良く分からなかったし、どうやら一般的に流布している内容はオリジナルとは若干違うらしかったりもするのだけど、細かいことはさておき、これらの小言はこの歳になって改めて見るとナカナカ含蓄のある言葉に思えて来る。

 そうして今回取り上げたいのは「小商ものは値切るな」の一言である。

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 「小商ものは値切るな」・・・・・・読んで字の通りである。大した値段でないものを値切るな、ってコトだ。どれほどからが大した値段になるのかは人によって異なるだろうけど、まぁ一般的な日用品や食料品といった消耗品、また最近では随分と買い替えサイクルが短くなった電化製品等は基本的に小商ものと言って良かろう。そんなものは値切っちゃいけない、って言ってるのである。
 親父の小言に共通するのは、どれも理由は書かれてないってコトだ。それこそが問答無用で一方的に命令するオヤジのオヤジたる所以で、理由は自分で考えなさい、ってコトなのかも知れない。ともあれ小商いものはそもそもの単価が低くて利幅の絶対額が薄いのだから、そんなんを値切って商人困らすのは良くないし、大体、そんなものにイチイチ突っかかってては卑しいだけでなく、人生だってムダだろう・・・・・・ってな感じだろうか。

 日本の今の御時世、小商ものを値切る人はいなくなった。なぜなら小商ものなんてーのはスーパーマーケットやコンビニ、あるいはドラッグストア、ホームセンター、電気屋、百均といった量販店で、厳しくPOS管理されて売られており、最早、丁々発止の駆け引きで値切ろうにも値切りようがないからだ。せいぜい、夕方まで待って値引きシールが貼られるのを見計らってとか、廃版品や現品限りを探して行くくらいのものだと思うが、値引きシールは店が勝手に貼るものであって、消費者の側が貼ってくれと懇願するものでもないから、値切り行為とはいささか異なる。現代でも値引き交渉が当たり前のように残るのは、家の購入かクルマのディーラーくらいではなかろうか。
 この点において日本の消費者はみんな随分お上品になった。言いつけどおり小商ものは値切らなくなって、さぞや草葉の蔭で「親父の小言」の作者である晩仙和尚も喜んでるだろう・・・・・・って、違う!!

 消費者の味方ヅラした上記各種チェーンストアが「販売力」とやらを武器に、もっと過酷でエグい値入を生産者に対してすでに要求してるのである。個々人がやるのとはケタがいくつも違うレベルで、苛烈とも言える搾取を行った結果、消費者はどこ行っても大差ない安値でモノが買えるようになった。かくして人々は値引きを求めず、それで今のデフレは成り立ってるだけのことだ。

 断言してもいい、小商ものから価値(それにはもちろんブランド力や生産者の矜持等も含まれる)を徹底的に収奪し、日本のメーカー、あるいは生産者すべてを蝕み、弱体化させているのはチェーンストアである。そうでなくてどうして、メーカー品の安売りから今のPBへの流れ、あるいはアベノミクスに同調した賃上げ要請にとっとと流通業界は応えられる一方でメーカーは応えられないのか、何で仕入れて売るだけでバカみたいな経常利益が叩き出せるのかが説明できよう?

 実のところ彼らのコストダウンの手法、っちゅうかヤリ口は実にカンタンである。要は徹底的にメーカーの体力を奪う、これに尽きる。
 まずは沢山売りますから安く入れてくださいよぉ、って値入価格を下げさせる。メーカー側は言うこと聞かないとライバルに売上取られて取引減らされるから、薄利どころか赤字出してまでその要請に応じる。しかしチェーンストアはその同じ口でライバルにも同じことを持ちかけてる。かくして特売品で同じ品物がいろんなメーカーのでグルグル回ることになる。豊作貧乏さえも束の間、結局のところメーカー同士の競合は残ったまま、売り上げや収益だけが伸び悩む、って事態が待っている。
 もちろん値引きだけでなく、リベート・割り戻しに販売協力費、キャンペーン費用、センターフィーだなんだと何百万単位で要求することも忘れちゃいない。また、指定原料だの材料だのと言って自分たちの息の掛かったところから割高な原料をムリヤリ買わせることも横行している。メーカーから売り子を寄越させるのが電気屋で一時期問題になったけど、あんなん可愛いモンだし、未だに普通に存在してる。スーパーで特売日の棚への製品並べなんてやってるの、みんなありゃメーカー持ちだ。

 次は品物にイチャモンだ。品質管理室・・・・・・俗に「品管」と呼ばれる連中がメーカーにやってきてはあれこれケチをつける。「こんな設備ぢゃウチとは取引できませんねぇ〜」とやるワケだ。何十項目も監査指摘事項が出され、メーカーは愚直にそれに応じて設備投資をするしかない。取引無くなりゃ死活問題だからだ。ところがこの品管、口は思いっ切り出すがゼニはビタ一文出しちゃくれない。費用は全部メーカー持ちである。それで取り扱い増やしてくれればまだ救われもするだろうが、散々投資させるだけさせた挙句、「もぉアンタのトコとは取引しません」なんてコトさえある。地方の零細な食品メーカーなんて、これでいくつもツブれてる。
 そんなんだからクレームなんて出た日にはもぉタイヘン。格好のメーカー叩きの材料だ。そりゃまぁ、クレームにもレベルの違いがあって看過できないものもあろうが、チェーンストアにとってコトの大小なんて実はどうでも良い。その事実をネタにメーカーを脅して強請って恫喝して、もっともっと値入を下げさせればそれで良いのだ。

 ・・・・・・で、チェーンがこうしてトコトン痛めつけるのは、ホンマ小商ものばかりである。フェラーリやポルシェ相手に品管が乗り込んでったなんてついぞ聞かないし、ルイヴィトンやアルマーニが値入要請に苦しんでるってのも聞かない。ロレックスやフランクミューラーの特売も見たことがない。すべてそんな何千万もしない食料品や日用品、あるいは今の時代あって当然のたかだか数万円の電化製品の類ばっかしだ。

 セブンアンドアイとかイオン、あるいはヤマダ電機やヨドバシカメラ、マツモトキヨシなんかが何でテロ攻撃の対象にならないのか、おれには不思議で仕方ない。おそらくは、これらの存在はおれたちの卑しい性根が生み出してしまった怪物だからだろう。

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 先日、新聞で「消費税還元セール禁止法案」っちゅうのが出てた。これについて当然ながらチェーンストアだとかユニクロだとかが随分噛み付いてるらしいが、あれには行政からの、行き過ぎた販売主導の世の中へのジャブなのではないか?って気がしてる。だから法案成立と施行に大賛成だ。ついでに言うならもっと踏み込んで特売禁止、チラシ禁止、メガチェーン解体の法案も作ってみてはどうだろう(笑)。

 思えば「良いモノ安く」やら「高くて美味いは当たり前」な〜んて何一つ根拠のない、哲学とも呼べない貧乏人根性に阿ったスローガンにおれたちは随分永く支配されてきた。今ならハッキリ分かる。それは間違っている。
 そりゃぁモノが不当に高いのはいけないことだ。それは論を待たない。しかし、逆に不当に安いのも同じように・・・・・・いや、それ以上にいけない。それは人をますます卑しくし、モノの価値を見る目を曇らせ、モノを作ることの大切さを忘れさせ、ひいては国全体を衰えさせる。
 「安物買いの銭失い」は今の時代、単に安い粗悪品を買ったら却って損だよ、っちゅう戒め以上の意味を帯びているように思える。不当に安いモノばっか買ってると、人間にとって本当に大切なモノの価値を見失うよ、っておれには読めてしまうのだ。

 「小商ものは値切るな」・・・・・・おれたちの貧乏人根性が生み出した、チェーンストアという怪物が制御不能のどうにもならないところまで来ている現在、この言葉の意味を深く噛みしめ、実践する必要があると強く思う・・・・・・って、今回はエラく硬い文章になっちゃったなぁ〜(笑)。ま、久しぶりに再開で調子が取り戻せないってコトでご勘弁のほどを。

2013.04.21

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