「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
岩萌え


磐船神社にある天の岩戸(ギャラリーのアウトテイクより)

 数あるトンデモの基本的キーワードの一つに「超古代」っちゅうのがある。やれムーだアトランティスだ、っちゅうアレね。

 そいでもって、そのカテゴリーの一つとして欠かせないものに「巨石文明」がある。現代の建設重機をもってしても動かせないような巨大な石組みとかなんとかかんとか、ドルメンだメンヒルだ・・・・・・とまぁそんなんですわ。ストーンヘンジしかり、マヤとかオルテカしかり、時代は随分下がるが、ピラ ミッドにマチュピチュにモアイしかり。この頃は海底遺跡、なんてーのもブームで、沖縄やカリブ海の方で温暖化や地殻変動の結果海に沈んだ古代の巨大な神殿等が次々に発見されている。海草やフジツボが密生してる問題はあるものの、水中で風化を免れたためにどこも保存状態がいいらしい・・・・・・まぁ、熱海の海底はありゃガセだろうが(笑)。何はともあれスゴいモンを昔の人は拵えてたのである。

 とは言ったものの、石を動かすのって実は、人手はそれなりにかかるけど、そこまで大層なことではないらしい。下に丸太を並べた木場道を作り、それをコロにして修羅をかませてみんなでワッセワッセ曳けば存外簡単に動いてしまうんだそうな。天空都市・マチュピチュにしたって、どうして谷底から切り立った崖を石持ち上げたんだ?ってのが永年の謎で、それこそがトンデモ信者にとっては昔の人の超能力や現代の叡智を以てしても足許にも及ばない超古代の喪われたスーパーテクノロジーの重要な間接証拠となってたのだが、最近になってようやくその謎が解けてきたらしい。何のこっちゃない、要するに、もっと高いところにあった石切場から下ろしてたのだ。ハハハ、真実とは得てしてそんなモンであることようのう、ホッホッホッホッホ。

 いずれにせよ、巨石文明をスピリチュアルとかオカルティックな方向で考えてくと、畢竟それこそ酒井勝軍みたいな世界に入り込んでしまうんだろうが、おれはそっちにはまったく興味がないし、神も波動もパワーも一切感じない。また、今のヒーリングだとかパワースポットブームは胡散臭いし、癒し癒しと物欲しげで浅ましい人間の醜さばかりが見えるようで大嫌いだ。ただもうおれは、そのデカさに圧倒され、感嘆の声を上げれたらそれでいいのである。
 ただ、霊的なパワーを感じないとはいえ、粗略に扱ったりしようなんて気はサラサラない。近頃は人心が地に堕ちたもんで、すぐに壊したり落書きしたり持って帰ったり火を点けたり、と乱暴狼藉の限りを尽くすいい歳した不届き者が後を絶たないけれど、その場所に積み重ねられた歳月や多くの古の人々に想いを馳せ、深い畏敬の念をはらうことはやはり必要だろうと思う。

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 ・・・・・・とまぁ、堅苦しい話は置いといて、日本にはこの巨石文明の名残ではないかと思われる場所が数えきれないほどある。

 あらゆる山川草木に神が宿るというアニミズムと太陽信仰等がないまぜになって、逆に大きな岩で何の謂れもないものを探す方が困難なくらいだ。神社の御神体となっているケースも日本各地に数えきれないくらいにある。ハッキリしたことは分からないけれど、そこは神の降臨する場所として「磐座(いわくら)」などと呼ばれ、古代、何らかの祭祀の場であったと言われている。
 それが何だか最近無性に面白い。興味のない人にとっては山中にただもうバカでっかい岩が転がってるだけにしか見えないし、事実、それだけっちゃそれだけなんだけど、その圧倒的な重量感、ダイナミズム、荘厳な雰囲気をいったんガーッと深く了解しちゃうともう猛烈にハマる。

 おそらくその萌芽は数年前に訪問した大阪の磐船神社だったと思う。その名も磐船・・・・・・UFO説まで飛び出す「天の磐船」に由来する名前を冠したその神社は交野市にある。交野っちゅうたらアータ、今でこそベッドタウン化がずいぶん進んだけれど、ホンの20年くらい前までは大阪・京都・奈良の境界あたりに位置する何とも存在感の薄い草深い田舎だった。現在の学研都市線だってまだ片町線って名前で、星田と木津の間は単行のディーゼルカーがトロトロ走るだけの廃止さえもが取りざたされるようなローカル線だったのである。

 磐船神社は周囲の開発から取り残されるようにして、未だにそんな田舎だった頃の交野の雰囲気を未だ残して日当たりの悪い谷間に建つ。鳥居の向こうにいきなり見上げるような大岩がドーンあって、これこそがここの御神体である「天の磐船」である。とにかくデカい。縦横10m以上は確実にあるだろう。境内は神仏習合の痕跡があちこちにあって、何の本地仏かは知らないけど磨崖仏なんかが彫られてあったりもする。

 しかし、そこにやって来たのは、巨岩そのものへの興味よりも、その中の隙間を行く胎内めぐりがひじょうに面白い、って噂を聞きつけたからだった。実際にそれはこれまでに経験したくぐり系では一番面白かった。
 ひょうきんな宮司さんに人数分のタスキを渡され、注意を受ける。とにかく道順の矢印以外には絶対進むな、と念を押される。もし違う所行ったらどうなるんですか?と訊いてみると、彼は眼を剥いて真顔で言った。

 ----そんなんもぉエラいことになります!違う世界に行てまいますからね!違う世界に行てもたら戻ってこれまへん!

 どうも、巨岩の底の迷路はニライカナイや常世の国に繋がってるらしい。ともあれ折り重なる岩の間を時折り梯子なんかにも掴まりながら上ったり下りたり、デブだと詰まりそうな狭い隙間をようやっとの思いで潜り抜けた先は意外に広い空間になっていて、燈明の揺らめくおそらくは修験の籠り場になっていた。洞内を出て斜面を上がると、今度は「天の岩戸」があったりもする。何とも神道から仏教までゴッタ煮状態なのがいい。巨石にはなるほどプリミティヴな驚きと感動があると思った。

 そして何となく、これからはこぉいったものを訪ね歩くのも面白いかも、と思ったのだった。

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 先日、足利市の北方の山中にある名草巨石群に出掛けてったのも、そんな興味が嵩じてのことである。

 まぁ行ってみたらこれがもぉ、むっちゃ地味なトコでしたわ〜!としか言いようがない。大きな鳥居からダラダラ坂を約15分、今は厳島神社に鞍替えした、元々は弁天社と言われる無住の寂れた社に辿り着く。この境内および、さらに数百m奥に入った2ヶ所に分かれて巨岩がゴロゴロしている。
 御供石、と名前こそ違えやはり見上げるような巨大な岩がドーンとあって、その下が胎内くぐりになっているのも同じような感じ。ただ、磐船神社のホンマに別の世界に行ってしまいそうな迷路状に入り組んだものではなく、僅か5mほどの通路を行くだけだ。何の苦もない。入ったら出口が見えてるんで、これぢゃ修業にはならなさそう(笑)。

 ここの面白いところは、それほど広くもない境内に立体的に建物が配置され、キッチュとも言えるジオラマ的風景が広がってることだろう。拝殿が別の巨岩の上に置かれ、そこから赤い橋が架かって御供岩の上に渡って行けるのも、胎内くぐりを出たところにある大岩の上が小さな滝になってるのも、気の利いた演出だ・・・・・・演出?

 そう、つまり人の手が入ってるっちゅうことだ。
 磐船でもうっすら感じたんだけど、ゴロゴロする巨岩にしたってどれも一見無造作で、いかにも自然の妙のように見せながら、何となく「人為」を感じるのだ。あまりに出来過ぎている、っちゅうんですか、上手くそこにあるものを利用しながら周囲に溶け込むようにしつつも、どこか手を加えたような感じが漂う。確証はどこにもないんだけど。

 そぉいやいくつかの巨石群では、夏至や冬至、あるいは春分・秋分の太陽光が岩の割れ目の一番奥まで射し込むようになっているケースが見られるらしい。また、近隣の山々の頂とを結ぶ線と巨石に星の運行との関連性が指摘されたりもしている・・・・・・が、これもハマり過ぎるとトンデモの世界の暗い陥穽が待ってるだけなので深入りはしない。ともあれ全部が全部ではないけれど、単に自然にそこに転がってた、単に自然にポカッと割れた、ばかりではどうやらなさそうなことは確かだろう。

 だから面白いのだ。単に巨岩ゴロゴロでは渓谷の風景と変わらないではないか・・・・・・って、それはそれで楽しいから否定しないし、出かけてくつもりだけど。

 ちなみに神社の奥の方の巨石群にはあまり人為を感じなかった。もちろんこっちはこっちで風景としてはひじょうに興味深いものの、ただの石切場の跡なのではないかって気がした。鑿の跡を残したまま放置された岩や平らな面を見せる岩なんかもあって、人の手が入ってることは間違いない。しかし、それはあくまで素材の供給源としてであって、祭祀の場であったようには思えなかった・・・・・・ま、ただもうあくまでおれの当てずっぽうではある。話半分に読んでね。

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 ・・・・・・ともあれ岩はおもろい。おれは今かなり「萌え」なのである。しかし、残念なことにその世界はおれの大嫌いなトンデモやスピリチュアルと大いに重なる。根がヲタクだし、アテられやすいとこもあるんでおれもそこに囚われてしまうリスクはある。
 そこで実はそぉゆうトンデモに陥らないような秘策を用意した。たぶんこれなら大丈夫、ワケの分からないファナティックな世界に向かうことは決してないだろう。ただし、このアティテュードは誰にでも通用するモンぢゃないので、ここでは書かない。

 いずれにせよ、古代の人がそこに神という名の「大いなる存在」の顕現を見た風景の中にもっと行ってみたい気持ちが強まっていることは確かだし、それが広がりを見せて岩以外のものにも向かって行くことも充分ありうるだろうと思う。


名草巨石群(厳島神社・同)。

2011.06.18

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