「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
カタストロフィーの予感


リュウグウノツカイ。グロテスクな太刀魚、ですな。

http://research.kahaku.go.jp/より

 大地震が日本に来る日がかなり現実味を帯びてきたと感じてる。いやもう、環太平洋一体が尋常ぢゃない気がするのだ。この10年くらいのその周辺も含めた動向を今一度おさらいしてみよう。

      2001年  与那国島地震(M7.3)
              エルサルバドル地震(M7.6)
      2003年  十勝沖地震(M8.0)
              メキシコ地震(M7.6)
      2004年  スマトラ島沖地震(M9.3)
              紀伊半島南東沖地震(M7.4)
              釧路沖地震(M7.1)
      2005年  スマトラ島沖地震(M8.6)
              福岡西方沖地震(M7.0)
              宮城県南部地震(M7.2)
              三陸沖地震(M7.1)
      2006年  トンガ地震(M7.8)
              ジャワ島南西沖地震(M7.7)
      2007年  ソロモン諸島地震(M8.0)
              スマトラ島沖地震(M8.5)
              ペルー地震(M8.0)
      2008年  四川大地震(M7.9)
              岩手・宮城内陸地震(M7.2)
              十勝沖地震(M7.1)
      2009年  トンガ地震(M7.6)
              サモア沖地震(M8.0)
              スマトラ島沖地震(M7.6)
      2010年  ハイチ地震(M7.0)
              チリ地震(M8.8)

 一応、M7.0より大きいのをザッと拾ってみた。拾い忘れがあるかもしれないし、スマトラ島はインド洋に面してるからちょっとちゃうかったり、四川は明らかに内陸部だったりしていい加減なんだけど、まぁ地球儀の上では太平洋周辺としちゃっていいような気がするので入れてみた。そぉいやつい先日も沖縄でおよそ100年ぶりに震度5弱を記録する地震(M6.8)なんかが起きてるのも不気味である・・・・・・って、地震学者に言わせれば大地震なんて世界のどこかで三日に一度は起きてるらしいのだが。

 今回のチリ地震の前日だったか、いやな記事がニュースに出ていた。今冬、日本海沿岸の各地で珍魚・リュウグウノツカイが獲れまくってるらしい。石川県が最も多くて10なん匹、ついで富山、福井、京都、兵庫、鳥取、島根・・・・・・と、これだけ取れたら珍もヘチマもないやんけ!と言いたくなるほどに海岸に漂着してるんだそうな。
 ウソかマコトか体長10mにも及ぶと言われるこの謎の巨大深海魚については、古来、大地震の前触れとされている(豊漁の瑞兆と見る説もある)。もちろん単なる伝承であり、客観的な統計に基づく相関関係なんて何一つ証明されてないわけだけど、それでもこうもゾロゾロとヴィジュアル的にも大層気色悪い魚が海岸に打ち上げられた報を聞くのはあまり気持ちの良いものではない。

 おれは地震が大嫌いだ。告白するならば昔は興味本位でちょと好きだったりもしたし、いささかアナーキーな気持ちで「いっそドカーンとおっきな地震でも来やんかいな!」と滅亡期待論者みたいに思ったこともあるが、阪神大震災をいささかなりとも経験して考え方は一変した。やはりこんなもん無いに越したことはない。ないけどしかし、大地震は必ずいつかやって来る。それはもう仕方の無い事で、おれたちはできるだけ上手くそれを乗り越えていかなくちゃならないのだ。

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 東武・押上駅近くに建設中の東京スカイツリーに関して、先日恐ろしい業界情報を耳にした。建設会社である大林組は今でも、その耐震強度計算を毎日やってるっちゅうのだ。それが検算ならいいけど、どうやらそうではないらしい。理由はこんな大きなもんこれまで作ったこと無いんで、ホントに理論上の耐震強度が正しいかどうか分からないからだという。だから今も思いつく限りのシミュレーションを行っては複雑怪奇な演算を来る日も来る日も繰り返してる、と。
 言うまでも無く、実物はもう半分くらいの高さまで出来上がり、今もおよそ月に30mづつ伸びてってる。もし計算が違ってたらどうするつもりなのだろう?アレが倒れたら、それはそれで壮観だろうが、まったくもって洒落にならんと思うのはおれだけではあるまい。

 チェックにチェックを重ねる愚直で誠実なモノづくりは日本のお家芸とはいえ、何だか釈然としない話ではある。

 数年前のことになるが、東京駅前に出来た超高層ビルの内部を縁あって見学させてもらった。案内人は屋上緑化なんかと共に自慢の耐震施工を見せてくれた。それは建物の途中何階かと地下に設けられたもので、前者は鋼鉄で組まれた中に軟鉄のチャンネルみたいなんを入れてあるのである。要は揺れたときにそこが変形することで建物全体がいくつかの部分に分かれてグニャグニャして揺れを吸収してしまおうという仕掛けだった。また、地下にあったのは何枚もの分厚いゴム板で、これも揺れに対してそこが滑ることで揺れの力を建物に伝わりにくくするというものである。
 ひとしきり説明が終わったところで誰かが「その耐震性は何か実際に試された結果なんですか?」質問した。担当者は苦笑しながら、あくまでそれらがシミュレーションによるものであること、ホントのホントは地震が来ないと分からん、ってな内容を極めて婉曲かつ慇懃無礼に答えたのだった。その場はオトナの和やかな笑いに包まれた。

 最新のスカイツリーや華やかな高層ビルだってそうなんである。ぶっちゃけ「ほんなもん来てみんと分かるかいっ!」が本音なのだ。従って首都圏に林立するビル群の多くを占める現行の耐震基準を下回るが建物どれほど頼りないかは・・・・・・考えたくも無いよね。
 阪神大震災でもビルが崩壊したり、傾いて数日後に倒れたりなんて事例はあった。あの地震は発生が早朝だったおかげで、それでもそれが原因での人的被害はさほど大きくはなかったが、ホンマ、もし首都圏で昼日中に起きたらどうなるんだろ?新宿とか高層ビル密集してるトコだと将棋倒しになったりしてね。大揺れに揺れて、何とか持ちこたえたと思って外見たら隣のビルがばったぁ〜ん!と倒れてくるなんて実にイヤだな。

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 最近はすっかり定着した感のある「帰宅難民」って言葉だが、帰宅より何より大地震が起きたて家に帰らんとアカンようになった時、港区や中央区、千代田区、新宿区といったオフィス街からまず出ることが一大問題なのではないかと思う。おそらく路上は巡礼者ですし詰めのメッカやクンブメーラの時のバナラシ、カーニヴァルのリオデジャネイロよりもひどい雑踏となることは間違いない。つまり、歩くどころか身動きさえもままならない状態だ。え!?車道を歩けって!?あちこちに乗り捨てられたクルマ(ひょっとしたらぶつかって燃えてたりすることだってありうる)のある車道はあまり期待できない。

 しかし歩道は歩道で危ない、どこもかしこもビルだらけだ。まぁ今の窓ガラスはピアノ線入りだったり、間にフィルムを挟んで二重になってたりするから、そう簡単に破片が降り注ぐことはないとは思うが、壁面そのものが崩落したり、窓枠ごと外れて落ちてくることは十分考えられる。机やら人だって降ってきたりして!?
 そんなん表通りだけっしょ?裏通り行けばいいやん、って意見があるかも知れない・・・・・・甘い!阪神大震災でも崩壊した建物や火事等で全く通行不能になったのは裏通りの方が多かったのだ。

 地下街はどうなるか?地下は案外地震に強いと言われてるが、停電でもしたらマジでシビれるだろう。いくら深くたって道順が限られてて単純ならまだいい。しかし例えば市ヶ谷での乗り換えみたいに、いくつもいくつも道を曲がって行かねばならないような通路が真っ暗になったらもぉ泣いちゃうね。
 地下水だって怖い。どこの駅だったか、地下水の湧出が1日何トンもあって、ひたすらそれを組み上げてないと水没してしまう駅があるって聞いたことがある。電気停まって真っ暗だわ、出口は分からんわ、足許からひたひたと水がせり上がって来るわ、な〜んてものすごい恐怖だと思うな。

 それでもやっとの思いで都内のオフィス街を離れたとしよう。しかし、難行苦行は絶望的なまでに続く。あなたが県外居住者ならば必ず大きな川が横たわってる。多摩川、荒川、隅田川、江戸川なんてのもあったっけ?それらを越える橋が無事に残っている保証はどこにもない。落ちずに残ってたとしても、それまでの道以上の押し合いへしあいになっている。
 関東大震災でとりわけ悲惨だったと言われる両国・被服工廠跡の大量死は、もちろん一面に広がった火事の起こした火炎竜巻によるものが多いが、実は圧死も相当数を占めていると言われる。また、そのすぐ近く隅田川に架かる橋ではおれが今書いたようなことが実際あちこちで起きて、橋から落っこちて亡くなった人も多いという。

 さらに靴の問題がある。根本的にビジネスシューズというのは長距離を歩くのに向いていない。気合いで歩き始めたのはいいが、中途半端な地点で足中にマメやら靴ずれが出来て血だらけになって、引き返そうにも引き返せなくなったら洒落にならない。それでも男はまだいい。女性でヒールなんて履いてた日にゃどうしようもなくなる。だからおれはロッカーに運動靴を一つ放り込んである。

 もっと問題がある。金だ。地獄の沙汰も金次第、っちゅうではないか。カードばっかで現金を持ち歩かない、あるいはスイカやらなんやらの電子マネーに頼ってる人は二進も三進も行かなくなる。キャッシュだけがモノを言う世界が待っている。
 嘘ではない。阪神大震災の直後にだって、被災地でオニギリを売ってたのである。ヤクザな連中が被害の少なかった明石辺りで大量に買い占めて現地に持ち込んで売ったのだ。ただし、1個5千円!!(笑)
 オニギリどころか、タクシーだって走ってたのだ。ただし屋根には提灯も何もついてない、緑ナンバーでもない・・・・・・つまり「白タク」っちゅうやっちゃね。これまたヤクザな連中が、歩けない人達を狙って足許見て商売をしたのである。目と鼻の先まで乗って5万円とか吹っ掛けられたっちゅう話を聞いたことがある。

 以前、おれは家から会社まで歩いてみたことがあるが、普通に歩いても丸一日かかった。恐らく、地震発生後に歩いて戻ろうとするなら少なくともその3倍はかかる。つまり3日・・・・・・一体全体その間の食料や水はどうするんだ?人間、精神力だけで飲まず食わずで3日はナカナカ歩けない。
 要は家を目指そうにも、どうにもならないのだ。もしあなたがビルにいて、そのビルが倒れずに済んだならば、あなたが取るべき最善の策はそこに留まることだ。そしてなるだけ動かず、無駄な体力の消耗を避けジッと耐えることだ。2日堪えれば何とかなる。どうなるかって?何がしかの救援が来るのだ。

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 関東大震災の時、日本人はきわめて秩序だった行動を取ったと言われている。もちろん、流言飛語によって多くの朝鮮人が虐殺されたのは一方で厳然たる事実ではあるが、それらはむしろ行き過ぎた管理の結果のような悲劇だったとも言える。ほとんどのケースは唯一のメディアだった新聞が途絶した中で、消防団や青年団、町内会といった自治会っちゅうか自警団が率先して行ったのだ。おらが町内の安寧秩序を守るために、なんの罪悪感もなく。
 官憲の手によって甘粕事件や亀戸事件なんかも起きているが、構造的にこれらは非常によく似通っていたと言えるだろう。

 実際、震災発生直後の記録映画を見てみると、信じられないほどの人々の落ち付きぶりに驚かされる。冒頭に挙げた外国の地震の惨状を伝える映像を見ると、もぉちょっと落ち付けや!アホ!と言いたくなるほどにみんなおいおい泣き喚いてる。で、泣き喚くばっかで何もしない。「神様ぁ〜!」とか「何も助けが来ないのよぉ〜!」なんてヘーキでカメラに怒鳴ったり、あるいは食料品店を強奪する様ばかりが伝えられているのとは大違いだ。

 この、驢馬のように寡黙で感情を露わにしない忍耐強さこそが震災後の迅速な復興にも役立ってることは言を待たないのだが、今後、同じようにコトが上手く運ぶかどうかはとても心許ない気がする。何度も述べてきたことだけれど、血縁・地縁が薄れ、いろんな紐帯が断ち切られた都市圏の暮らしの構造、我慢とか辛抱っちゅうボキャブラリーを喪失したゆとり世代の増加、長引く不況と階級格差の顕在化・固定化に荒廃の度を加速させる人心・・・・・・あまりステロタイプに一刀両断しても仕方なかろうが、災害の混乱時に求められる冷静さと秩序を守る上でのマイナス要因ばかりが目立つように思う・・・・・・ま、苦労知らずでバカだからこそ逆にノー天気に危機を乗り切る可能性も無くはないけどね(笑)。

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 こうしてペシミスティックなことをチマチマと書き連ねてる今も、着実に歪みは蓄積されて行っている。これだけは動かしがたい事実だ。何万年、何千万年前から地球は規則正しく活動期と静穏期の波を伴いながら大地の変動を繰り返してきたのだ。そして東京は少なくともこの2〜300年くらいのスパンで見れば信じがたいほどの静けさを長期に亘って保っている。

 カタストロフィーが近づきつつある・・・・・・そんな気がしてならない。東京から出たくなってきたぞ、おれは。

2010.03.03

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