「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
北国の聖夜に


大通りのイルミネーションが何だかおれにはこっちのクリスマスのイメージ。

 聖夜と言ってもこれ書き始めた今はまだイブイブだ。12月の23日だ。今上天皇の誕生日だ。良く考えずともいささか困った日に御生誕あそばされたものである。おお、そぉいやぁ一昨日は世界が滅ぶ筈の日ではなかったっけか?これまでの歴史において予言されたあらゆる「終末の日」同様、見事なまでにひねもす何も起きなかった。少し前にイタリアでは地震予知に失敗した科学者達が逮捕・収監されたそうだが、マヤ暦がどぉとかこぉとか不吉な予言を垂れ流した連中には何の咎もないのかと思うとアホらしくなるな。

 今年の札幌は10数年ぶりの大雪なんだそうな。たしかに、昨年の今頃は積もってるったって、全然大したことはなかった。ところが、今年は既に根雪となって一面の銀世界である。このまま行けば年内に道路脇の雪山は2mを越えるだろう。表通りはそれでも、雪が降ればどこからともなくワラワラと、まるで前衛舞踏の群舞の踊り手のように現われる除雪車のおかげで滑りはするもののそれほど難渋することはない。しかし、一筋入るともう大変。見事にソロバン道路である。算盤たって、玉デカすぎやしません!?っちゅうくらい、笑えるほどに凸凹だ。殊にマンホールの蓋なんてあるともうサイアクで、落とし穴のように深くなっている。昨年は初めての冬なもんだからその辺の事情が分かってなくて、ガーンと前輪落としてアライメントを狂わせたことがあった。シャーシまで逝ったら泣くに泣けない。今年は学習効果もあって、裏道は路面を睨んでソロソロと走ってる。

 そんな大雪の中、昼前まで寝てしまったおれは今さら出掛けるのも億劫で、一人ぽつねんと部屋でこんなものを書き散らかしていた。明日の夜は所用があって出掛けなくちゃならんもんだし、ちったぁクリスマスらしい何かがあっても良かろうと、夕方近くなってようやっと腰を上げ、スーパーで買ったクリスマスチキン、っちゅうか唐揚だなありゃ、それをモソモソと湯割りのウィスキーで流し込んでた。言うまでもなく何ともダサくもパッとしない、そして侘しくも寂しい聖夜だ。唐突に大昔のサントリーのCMで布施明だか小椋圭だかが歌ってたコマソンを想い出す。

 ♪こっはくいろにぃにそまぁった〜
 ♪グラスをかったむっけぇ〜るぅ〜
 ♪どぉしてぼっくぅわぁ〜
 ♪こっこにいるのだろぉ〜

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 まぁ、思えば基本的には、落ち着いた日々を過ごしてるのである。

 キッカリ決まった時間に起床し、布団を畳み、カーテンを開け、寒いときはすぐさま炬燵を入れ、ストーヴを入れる。コーヒーを沸かす。納豆かヨーグルトを食べる。すっかり手放せなくなった降圧剤を呑む。酢を飲む。ネットでニュースをチェックする。着換える・・・・・・そうして約45分かけてゆっくり支度して会社に向かい、晩の7時頃に帰ってくる。もう作業に没頭する立場でもないので大して仕事はしていない。

 晩飯はっちゅうと、これがもう呆れるほどのヘビーローテーションで、今日みたいな若干の例外をたまに挟みつつも、カップ焼きそば、麻婆豆腐、カレー、パスタ、雑炊をひたすら繰り返してる。夏ならこれに冷やし中華やザルソバ、寒くなるとおでんやラーメンなんかが混ざるが、基本、年がら年中変わり映えしない。いやいや、毎日外食にしても充分やってける経済力はあるんだけど、コワいのである。外食するとついつい酒を頼んでしまう。そいでもって酒飲み出すと、飲食店にはいろんなメニューがあるもんだからついついあれこれ注文してしまって、そのままどんどんだらしなくなりそうで・・・・・・だから金が余ってギターや交換レンズが増えたのだ。

 そして週に1〜2回洗濯して丹念に部屋干しし、三日ほど乾かすと丁寧に畳んで仕舞う。少なくとも2週に一度は掃除機やハタキ、フローリングワイパー等々を掛ける。けっこうマメ男なんですよ、おれ。札幌のゴミ出しは神経症的に厳格なので曜日を確かめてゴミ袋を出す。ギター弾いて、このようにコンテンツを整備して、10時になると風呂に入って遅くとも11時には寝る・・・・・・とにかく何かの修行僧のようにこれら一連の行為を規則正しく淡々と繰り返してるだけである。独りで。

 あまり意識してないから分からないけど、一人でヘラヘラ笑ってても仕方ないんで、ほとんどは無表情だ。PCのモニターが黒バックの画面に変わった時等に自分の顔が映ることがあるけれど、吃驚するくらいに喜怒哀楽の表情の欠け落ちた顔になってることが分かる。
 言葉を発することもない。せいぜい「よっこいしょ!」といった掛け声や「ふぅ〜」とか「はぁ〜」とかの溜息くらいのもんだ。あ!最近は腰痛持ちになったんで「アイタタタ!」もあるか(笑)。それでも独り言は少ない方なのではないかと思ってる。

 ともあれ今の状況は文句なしに孤独な生活と言って構わないだろう。

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 この孤独の空隙を埋めるにはどうすれば良いのか!?決して無聊ではない。やることは沢山あるのだし、趣味のことだって全然時間が足りてないから、ヒマを持て余すことはない。ただただ孤独なのだ。

 紛らわす手段ならそらいくらでもある。

 酒を今より増やして浴びるように夜な夜な呑むのも良いだろう。パチンコ・競馬その他の博奕にウツツを抜かすのも一興だ。キャバクラやらピンサロ、ホテトル、ヘルス、ソープの類に耽溺するのもススキノまで至近の今なら簡単だろう。
 しかし、それらは実のところ代償行為にさえならない、ただの卑屈な逃避行動に過ぎないことを、しょうむない知恵だけは長けてしまったおれは知ってしまっている。結果的に孤独をより一層深めさせるだけ、ってコトだ。その後には緩慢に堕ちて行くスパイラルが待っている・・・・・・え!?仕事に没頭しろって!?(笑)

 ぢゃぁ現地妻なりパートタイムラバーなりセフレなり肉蒲団なり拵えることか?ハハ、しかしそれもいささかめんどくさい。おれもいい歳になって保身ということを覚えてしまったし、保身を考えたって仕方のない立場にあるのだ。失うものが出来た人間はとても弱い。若い頃のようにはもう行かない。
 いくらでもチャンスは転がってるんだし、さほどバカな高望みさえしなければそれなりに行けそうなだけに、武士は食わねど高楊枝なのはツラいっちゃツラいんだけど仕方ない。剽軽だけど謹厳実直なキャラクターをおれは演じ続けなくてはならない。

 ぢゃぁ次は!?ぢゃぁ次は!?ぢゃぁ次は!?と考えて・・・・・・

 Check Mate !
 手詰まりだ。
 万策尽きた感が絶えずある。

 そして気付けば表情を喪って寒い部屋の炬燵に座ってるおれ・・・・・・。

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 最近再び強く思うことがある。「人は社会的動物である」と喝破したのはたしかアリストテレスだったと思うが、では逆に社会的な紐帯を失った人間は一体全体何なんだ!?ってこと・・・・・・当たり前のことだけどつまり、

 「孤独は人を狂わせる」ってコトだ。 

2012.12.29

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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