「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ポッポッポ〜♪


う〜!可愛くねぇ〜!

http://tanebatoyawin.blog41.fc2.com/より

 ・・・・・・の鳩山なるトッチャンボーヤが総理を辞めたのが今回のテーマではない。まぁ、いい歳して10何億もオカンからお小遣い貰ったこの人はこの人で充分ネタの俎上に上げるに足りる珍妙で薄気味悪い人物だとは思うが、同じようなテーマでのいささかの怨嗟を含んだ駄文は今や世の中にゴマンと溢れてるワケで、敢えてここでおれが書いたって新味も何もないだろう。

 実は今日は本物の鳩の話をしたいのである。

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 メーテルリンクの有名な童話「青い鳥」の幸せの青い鳥とはどうやら鳩、それも土鳩と呼ばれるそこらへんでいっちゃんフツーに見かけるヤツを指すらしい。クッククックゥ〜♪クッククックゥ〜♪の青い鳥だな。今の桜田淳子は多分幸せぢゃないだろうけど(笑)。たしかに、晴れた日の朝などに電線に留まって呑気に鳴いてるときはク〜クッククゥ〜♪ク〜クッククゥ〜♪と聞こえて、遠目にはそれなりに可愛いもんだと思う。

 しかし、この季節の鳩はおっそろしく可愛くない。おれの住まいはマンションのけっこう高い階にあるのだが、運悪くベランダの屋根の下に出窓状のでっぱりがあっていい雨除けになるせいか、しつこくつがいの鳩がやって来るのである。繁殖期を迎えて巣作りを始めるのがちょうど今頃なのだ。
 このときの鳩は縄張りを誇示して他を威嚇するためか、野太い声でボォッボォッと鳴く。汽笛かよ!?これがまだ夜も明け切らぬうちから始まる。おまけに実に良く響く。明け方はまだ寒かったりするから部屋の窓は閉め切って寝てるのだけど、換気口を伝わってそのくぐもったような陰気な鳴き声が聞こえてきて目が覚める。

 カーテンを開けて見るとベランダの手すりに1羽留まってる。人の姿を見つけてもガラス越しだと何も無いことが分かってるのか、こちらを一瞥するだけで身動きもせずボォッボォッを続けてる。小憎らしいことにガラス戸を開けても逃げない。ツカツカ生意気なそいつの方に歩み寄って、後一歩っちゅうトコでようやく飛び立つ。つがいだからもちろん出窓の上にはもう1羽いて、ソイツも同時に逃げて行く。その場所を調べると集めてきた小枝で巣が出来かけている。

 折角憬れのスウィートホームを作ろうとしてる鳩のカップルにゃぁ申し訳ないけれど、おれもヨメも発見次第ナサケ容赦なくそれを取り除くことにしてる。ボォボォボォボォ喧しいのに加えて、糞が凄いのだ。これで産卵されて孵ったらもっと大変なことになるだろう。現に近所のお宅では、油断してたら何羽も雛が生まれて喧しいわ糞はあちこちに落とすわ、かといって生まれてしまったものを駆除するのも何となく忍びないわでそのまま手をこまねいていたら、今度は隣家が「お宅は害獣をわざわざ育ててるんですか!?」とエラい剣幕で怒鳴り込んできたらしい。大変にナンギな話で、鳩のお陰で近所づきあいにもヒビが入りかねないのである。

 しかし、アタマが悪いのか執念深いのか、鳩も一旦目をつけたポジションを容易に諦めようとはしない。次の日もそのまた次の日も鳩のつがいはやって来てボォボォやってる。
 いたちごっこにもいい加減疲れて、おれは秘密兵器を買い求めた。100均で見つけた「猫よけ・鳩よけマット」ってモノだ。3cmほどのプラスチックで出来たトゲが一面に並んだ30センチ四方ほどのマットである。何枚かまとめて買って並べたら効果テキメン、翌朝は見事に来なかった。安息の朝が訪れたのだ。

 ようやく鳩に勝利したと喜んだのも束の間、さらに次の日の朝、あの忌々しいボォッボォッで再び目が覚めた。そんなバカな!?と静かにベランダに出て見てみると、彼らはフツーにそのマットの上に蹲っていた(笑)。あまつさえそのトゲトゲの隙間に押し込むように枝を並べることで、何も無かったときよりも遥かに堅牢な巣を作ろうとしている。
 結局マットは1日しか役に立たなかったワケだ。流石100均、100円分くらいしか効果は無かったのである。仕方なくおれは隙間にダンボール箱を押し込んだ。見た目は悪いがこれなら入りようが無い。

 それでようやく鳩は来なくなった。

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 アグネス・チャンが初めて来日して公園で沢山の鳩を見たとき、「美味しそう!」と思ったっちゅうのは良く知られたエピソードだ。フランス料理のカテゴリーの一つに「ジビエ」ってのがあって、要はハンティングで射止めた野趣溢れる素材を使った料理のことなんだけど、その中で最も代表的なものは鳩の料理だ。ハト胸、っちゅうだけあって胸肉が大きいからそこを使うらしい。また、エジプトでも鳩は重要な食材となっている。
 一方で鳩は、けっこういろいろおっかない細菌や寄生虫を宿していることが多いとも言われる。幼児や妊婦が触ってはいけないものの代表格である、なんてーのを昔、本で読んだ記憶がある。排泄物にもそれらは当然含まれ、乾燥にも強いため、飛散するとたいへん宜しくないらしい。
 巣作りを排除したのは正解だったのだ。しょうむない仏心出して感染症にかかるとかのエラい目に遭ってちゃたまらない。

 とは申せ、鳩は雀・烏と並んで日本国内ではもっともポピュラーな野鳥である。だから鳩にちなんだ「鳩笛」「鳩車」「鳩鈴」といった民芸品、あるいは「鳩サブレー」なんてお菓子、メーカーで東ハトなんかもあるし、「ハトヤホテル」もあれば「ピジョンメガネ」なんちゅうのもあったりする。銀座のバカ高い文房具屋は「鳩居堂」だったっけ?!ああ、イトーヨーカドーも鳩のマークだなぁ。
 ノアの箱舟の故事にちなんで「平和の象徴」で、戦後初の国鉄特急の愛称もだから「はと」だし、煙草のピースのパッケージだって鳩がシンボル化されて描かれてる。同じ伝で最近は死語の世界に入りつつあるものの「タカ派/ハト派」なんて言葉も存在する。どっかの宗教団体の機関紙で「白鳩」なんてタイトルのもあったっけかな?

 まぁ攻撃的でない、っちゅうのは事実だろう。でもなんだか見た目は地味だし無表情だし(まぁ、鳥が笑ったりしたらもっと怖いか・・・・・・)、いつでも首振ってて妙に徒党を組んでの集団行動で、どうにもおれはあまり好きになれない。

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 いや、実のところ鳩はおれにしてみりゃ不吉の象徴以外の何物でもない。

 おれの悪夢のパターンの一つに「路上の死んだ鳩がズルズルとこっちに這えずって来る」っちゅうのがある。おれは逃げ出したいのだが逃げ出せず、視線を逸らそうにも逸らせず、むしろ逆に身体はそれに向かって屈みこんで行くようになって、そこで荒い息と共に目覚めるのだ。大層気色悪い。そのような夢のシナリオが固定化するくらい、鳩はおれからすりゃ薄気味悪い存在なのだ。

 鳩がそのような死のイメージと結びつくのは、関西特有の葬祭の風習が影響しているのかも知れない。こちらではあまり見かけたことがないが、「霊送鳩」といって葬式の最後に竹籠に入れた鳩を空に向かって放すのである。そんなに沢山ではない。せいぜい10羽くらいだったと思うが、喪服の黒と関西の葬式では不可欠の樒(しきみ)の緑、白布の白の間から灰色の鳥が一斉に飛び立つ様は、幼かったおれにかなりマイナスのイメージを植え付けたのだった。

 「何とひねくれて!」と、タンジュンに鳩が平和の象徴と信じて疑わない人からは顰蹙を買いそうではあるが、それがおれの鳩に対するイメージの底流をなしている。

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 さて、件のボォボォと陰気な声を上げる鳩のつがいがその後どうなったか?に触れて、このとりとめの無い鳩にまつわる与太話の締めくくりとしたい。

 ・・・・・・実は毎日ではないものの未だにしつこくやって来ては2羽ともベランダの手すりにとまって恨めしそうにボォボォやってるのである。まるで「李さん一家」みたいなオチだな(笑)。

2010.06.15

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