「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
枕ヲタ一代

高機能枕の元祖といえるテンピュール(TEMPUR)

 ちょっと前に書いた肩凝りネタの続きだ。こんな話を堅苦しく書いたって余計に肩が凝るだけなので、まぁテキトーに書き飛ばすことにしよう。今回は枕の話。

 「寝違え」という言葉がしっかり存在するくらいだから、世の中では一般的なことなのかも知れないが、寝て、朝起きると筋が強張ってどうにもこうにも真っ直ぐ伸ばせず、無理に引っ張るとイデデデデデ!ってなことがある。おれの場合は特に肩と頚部が多い。疲れを取るはずの睡眠でこんなことになってりゃ世話ねぇなぁ〜、と溜息が出るものの、臥して同じ姿勢でいることは実際、身体に対してはけっこう大きな負担となってるのだろう。そういえばヘルニアの患者に同じ姿勢は禁物だって話しを聞かされたことがある。立ちっ放しも座りっ放しもいけない。対策は「立ったり座ったり」を繰り返すことらしい(笑)。
 さて、筋の強張りとは要は肩凝りと一緒で、筋肉が収縮してカチカチになることから起こる。ちなみにギックリ腰なんかも同じっちゃ同じで、これはその収縮がユックリではなく何かをキッカケに一気に起きた状態のことだ。人によってはその瞬間、「ポンッ!」って音が聞こえると言う。筋肉が一瞬で縮むときに音を発するのだそうな。ちょっと眉唾な気もするが、蓮の花が咲く瞬間の「ポンッ!」って音と共に、一生に一度くらいは聞いてみたい「ポンッ!」ではある。

 ポンッはさておき、つまりおれは寝ることによって肩凝りを悪化、加速させてるようなのである。そんなこんなで、これまであーでもないこーでもないと随分沢山の枕を試してきた。

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 結論から言うと、高機能枕っちゅうんですか、ややこしいのはどれもこれもダメだった。おれにはまったく合わず、却って症状が悪化したくらいである。低反発の元祖として有名なテンピュールもまだ市場に出回り始めたばかりのバカ高いころに買ったが、数日で眩暈や吐き気がするくらいに頸がしんどくなった。懲りもせず最近では西川布団かどっかが出してる「肩楽寝」なんてーのも買った。しかしこれもまったくクビが回らなくなるほどに寝違えてダメ。今は一種の抱き枕になって身体の横辺りに転がっている(笑)。

 かといって安物が良いのかっちゅうと、それはそれでやっぱしダメで、ナカナカ合うものが見付からない。アウトドアの空気枕も試したし、座布団二つに折るのもやってみた。バスタオルをクルクル巻いて首の下にかますのが良いと聞かされてやってみたが、朝には見事に布団の遥か彼方で元のタオルの姿になってクシャクシャで落ちていた(笑)。ラタン(籐)で作った枕も試してみた。涼しいのはとても良いとはいえ如何せんあまりにも硬い。やはりこりゃ昼寝専用である。ちなみにこれを大きくした抱き枕を英語で「ダッチワイフ」と言う。孤独なチョンガーのお相手してくれる例の特殊人形の語源なのだ。

 もちろん、中身の材質もあれこれ試してみた。基本中の基本はやはり昔ながらの蕎麦殻だろう。コイツはいい。独特のカサカサ、サラサラした感触となぜか少しひんやりした温度感が気持ちよく、素材的にはこいつが一番好きかも知れない。ところが難点はすぐにヘタることで、ヘタると蕎麦殻を補充するなり交換するなりすれば良いのだが、近所のスーパー等で最近はなかなか売ってないのである。それと小まめに干してやらないとすぐに虫が付く。ま、元はといえば蕎麦なんだし食べ物なのだから虫が近寄りたいその気持ちは分からないでもないが、寝る側としてこれはたまらない。

 蕎麦殻を人工的に表現したものにパイプ枕っちゅうのもある。ストローを細かく刻んだようなもの・・・・・・っちゅうかそのまんまぢゃねぇのか、これ?まぁ感触的には蕎麦殻にかなり似ている。ヘタりにくさもある。それに人口素材なので虫が付いたりしないのも衛生的な印象でいいのだが、最大の問題はあのひんやり感がないことだろう。

 化繊綿は安物の枕に多いがもぉ論外。とにかく蒸れまくって暑いし、最初は妙に嵩張って突っ張ってるくせにそのうちすぐにペッチャンコ。根性無しのガキみたい(笑)。使い物になりゃせん、っちゅうねん。最近流行の発泡スチロールの粉末みたいなビーズも似ている。とにかく通気性が悪くて暑い。
 羽毛はどんな上物でも独特の臭いがあるのが困る。また、極寒地用のシュラフの中綿でダウンの右に出るものはないくらいだから、保温性が良くて暑い。それとあまりにフワフワで深く沈み込むもんだから、アタマを横にすると両側に壁のように枕が聳えて妙な圧迫感がある。何だか窒息しそうだ。

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 ・・・・・・気付くと家には10数個の枕が転がっていた。ヨメもおれの枕ヲタぶりを原因にはちょっと同情しつつも大半は呆れている。そこまでせんと気が付かんのがおれのアホたる所以だろうけど、ようやくおれは思い至ったのだった。

 悪いのは枕ではなく頭や体型、寝方の方なのである。

 なるほどおれはアタマが人並みはずれてデカい。帽子のサイズは60cmを超える。大きいってコトは中身云々はともかく重いってコトだろうから肩や首には他人よりも大きな負担が掛かってる。オマケに大きいのは前頭部ではなく後頭部で、加えて猫背だ。このような体型で一般的な枕をあてがうとどうなるか?っちゅうとアタマだけが持ち上げられた格好になる。猫背もあるから頚椎の水平角は相当になってるだろう。つまり寝てる間、頸部へ大きな負担が掛かってることになる。寝違えて痛くなるのもむべなるかな、っちゅうこっちゃね。気道もこんなんぢゃ塞がり気味になるだろう。つまり枕を高くして寝ちゃアカンかったのである。むしろ、猫背になってる辺りから頸の下にかけて持ち上げるなり支えるようにさえしとけば、枕の高さなんてそんなに必要ない。
 試しにおれは枕を肩の下辺りにかましてみた。すると比較的スンナリ入眠できて具合がいい。次に布団の外側に置いてみた。形状にも左右されるが、随分低くなったのでこれもまずまず具合がいい。

 それでもしかし、起きたとき仰向けで首の下に枕があったためしがない。酷いときなんぞ足許にまで蹴り込まれてたりする。そうなのだ、おれは寝相がまことに悪いだけでなく、うつ伏せになってることが大半で仰向けで寝てることがほとんどないらしい。しかしそれは枕が適合しない故に無意識のうちにやってることなのかも知れないし、そもそもうつ伏せになって寝るのに枕が必要なんかい!?って疑問も湧く。
 そういや仰向け寝に拘るのは日本人くらいで、欧米人にはやたらうつぶせ寝が多いともいう。外国の寝具のコマーシャルとか見ても仰臥しているポーズはまず見かけない。金髪ネーチャンが頭を横にして妙に嬉しそうな顔で目を閉じているようなのが定番だ・・・・・・ウワ〜!だんだんワケが分からんようになってきた。

 いずれにせよ理想の枕を求めての行脚は暗礁に乗り上げてしまったのであった。

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 ヨメの実家に帰省した折、それまでは四角い枕をあてがわれてたのが、そのときはいかにも昔ながらの直径10cmほどの小さな筒状の蕎麦殻枕が置いてあった。両脇にちょっとしたフリルのある紐で縛るタイプの白いリネン生地のカバーが付いたまことにレトロなヴィジュアルである。昨今の巨大サイズの枕を見慣れた目からすると信じられないくらい小さい。
 おれのアタマには小さすぎるけど、まぁどぉせすぐにうつ伏せになってどっかにやってまうんやろうな〜、とそのまま寝て、そして翌朝驚いた。
 その小さな枕はチャンと首の下にあった。ま、一晩中姿勢を変えずに寝ていたとは考えられないけど、寝ながらも無意識のうちに首の下に押し込んでたんだろうから、余程具合が良かったに違いない。おまけにいつもは目覚めと共に漂う頸周辺の重い疼痛がほとんどない。

 前回の塗り薬や湿布ネタと同じオチで芸がなく、たいへん申し訳ないが、枕についてもあんまし凝った今風のものより昔ながらのものの方が、少なくともおれにとっては良かったワケだ。ただ、最近ではホント見かけないんだよな〜、このタイプ。

2010.05.22

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