「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
金の亡者・・・・・・一澤帆布騒動に思う


このラベルが紛争の根本と言っても良い!

http://www.all-senmonka.jp/all-senmonkablog/z-yoshidano/より
 おれには兄弟がいない。所謂「一人っ子」っちゅうヤツだ。幼い頃、他人からは羨ましがられたが、自分としては兄弟がいないことがいささか寂しく、とりわけ年嵩の兄や姉のいる子を見ると逆にどうにも羨ましくて仕方なかった。

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 京都の有名な鞄屋である一澤帆布のお家騒動は余りに有名で、今さらおれみたいなんが一稿を割いてあれこれ書くのもどうかとは思うけど、金とか名声っちゅうのが滑稽なくらいに人を狂わせるのがあまりに見事にパターンにハマってて、また、騒動の張本人であるこの家の長兄のキャラの立った強欲な外道ぶりにも凄まじいものがあるのでちょっとあれこれ書いてみようか、って気になった。

 おれもかつてこの店の製品を持ってたことがある。自転車のフロントバッグ・サドルバッグ・サイドバッグがそうだったのだ。4つもここの製品を持ってたら今では羨ましがられるだろう(笑)。オフホワイトと呼ぶのだろうか、クリーム色がかった白い帆布でできたそれらは実用一点張りでひじょうに頑丈な作りだったが、長雨の中を走り続けているうちに一面にカビが生えたのにだけは閉口した。白いから目立ちまくり。仕方ないから旅から戻って来て漂白剤掛けて洗ったけど、作り方の一体どこに秘伝があるのか、さほど縮みも型崩れもしなかったのには感心したものだ。

 おれが大学入学した80年代初等、すでに一澤帆布は京都では結構な名店としてガイドやマップにも良く紹介されていた。学生の中にもここのショルダーバッグを掛けてるヤツがチラホラいた。まぁ、創業ウン百年の老舗が目白押しの古都にあってはまだまだ新参者なのかも知れないが、カバンの隅っこに縫い付けられたタグにはブランドとして既に確立されたステータスがあったと言えるだろう。

 まずはお家騒動の現時点での顛末を色んな情報からかいつまんでごく簡単に俯瞰すると、以下のようになる。

    1.先代には4人の息子がいた。
      長男は京都大学を出てからずーっと銀行員をやっていた。
      次男はずいぶん昔に早世している。
      三男は80年頃にサラリーマン辞めて家業を継いだ。
      四男もいっしょに家業を継いでたが90年代半ばに一度リタイア。前職は不明
    2.2000年代に入って先代は三男・四男に事業を、長男には預金を譲るという遺書を残して亡くなった。
    3.亡くなって数ヶ月、長男より突如、事業の大半を長男と四男に譲るという第2の遺書が提出された。
    4.ほないなアホなことおまっかいな〜、と三男が第2の遺書の無効の訴訟を京都地裁に起こす。
    5.京都地裁〜大阪高裁〜最高裁判決で三男敗訴。三男に代わって長男が代表取締役に。
    6.追い出された三男に従業員全員が同調、帆布の卸元、大口顧客も同調。別の名前ですぐ隣に店舗オープン。
      元の店は数ヶ月にわたって休業を余儀なくされる。
      長男の方も新たに職人をかき集め、帆布仕入れ先も確保して元の店舗を使って営業再開。
    7.長男が商標権侵害で13億の賠償を求め三男を提訴(→京都地裁は長男勝訴で係争中)
    8.三男の妻が起こした「4」と同内容の訴訟が、大阪高裁〜最高裁で三男勝訴(一審京都地裁は敗訴)。
      「5」での三男解任決議も無効と判定。
    9.長男が自分と子供を取締役にしろとの仮処分申請を京都地裁に起こす。
←今ココ

 誰がどう考えたってこれ、最大の財産である「家業」を分けてもらえなかった長男による乗っ取り事件に見える。家族内の紛争で、何かと家の中には事なかれな主義な日本のことだから「お家騒動」等と半ば茶化して呼ばれ、刑事事件にも何にもなってないけど、これが第三者によるものなら間違いなく警察沙汰だろう。

 ところが司法は根本的に判断を誤った。上のサマリで言うなら「4」〜「5」の部分だ。中でも見ててどうにも腑に落ちないのは京都地裁の判決である。裁判官が単に世間知らずのドアホって気もするが、こうまでだれが見たっておかしな状況なのにそれでも長男勝訴・三男敗訴の依怙贔屓としか思えない珍妙な判決を何度も何度も下し続けてる。長男とツルんでるのか、あるいは三男にカバンを売ってもらえなかったとかのよほどの恨みでもあるのか、下衆の勘繰りの一つもしたくなる。ホント、官報でこの判決に関わった地裁の連中の名前と経歴調べて、長男のこれまで学校や会社関係での繋がりを洗いたくなってくるほどに奇妙である。これで直近での仮処分申請認めたりしたら完全にクロだろう。仮処分申請の行方が見ものだわ(笑)。

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 ともあれ今の「一澤帆布」製造品、まことに奇妙な状況となっている。ラベル自体は真正なのに、製品は素材から縫製から職人から過去の何一つ継承していない思いっきりパチモンと呼ぶべき代物なのだ。本来はどんなに古くても修理して直してくれるがウリだったのに、持ち込んでも今は受け付けてもらえず、新しく出来た方に持ってってと言われるそうな(笑)。どだい東大路のあそこで作ってさえもいない。岡山かどっかからのOEM供給品である。「一澤」どころか「パチ澤」だな、こりゃ(笑)。
 しかしそれでもソコソコ売れちゃってるっちゅうのが今の日本人の無知と空疎なブランド信仰、そして恥知らずな心根を物語っててこれはこれでナサケない。ネット見てても、一澤の名前が入ってりゃどっちでもエエやんか、っちゅうようなアタマの中が腐ってるとしか思えない論調のブログ等がホイホイ見つかる。

 ・・・・・・とまぁ、日本人のアホぶりはさておき、おれには根本的な疑問がある。どうしてここまで兄弟の仲がこじれちゃったんだろう?ってコトだ。そりゃぁ過去に兄弟間での骨肉の争いは枚挙にいとまがないとはいえ、暖簾がすべての老舗でここまで恥も外聞もなく露骨にやり合うのは近年では君島家以来の珍しいケースだ。

 無論、確執は突如勃発したものではなく、遥か以前から始まっていたのだろう。もぉそれはガキの時分から事あるごとに反目して殴り合ってたとかなんとか、幼少期にまで遡る話なのかも知れない。だいたい80年頃に長男ではなく三男がサラリーマン(それも一流企業の)を辞めてまでして家業を継いだ、っちゅうのも、第一の遺書の惣領の家督をほとんど無視したかのような内容も、冷静に考えると何か不自然っちゃ不自然だ。恐らくズーッと以前から恨み辛みを募らせるに足りる色々なトラブルがあったに違いない。あるいは長男に言わせれば遥か昔に暖簾を横取りされた、となるのかも。
 キーパーソンとなると思われるのは一見、二股膏薬のように両者に噛んでる四男だろう。90年代半ばまでは三男と共に家業を切り盛りしていたのが、途中で袂を分かち、お家騒動ではなぜか長男側に立ったものの、今は再び距離を置いてるっちゅうではないか。多分この人が全部の事情を知ってるに違いない。まぁ、この人は何となくヘラヘラとはぐらかして語らない気がするが。

 ただ、時系列に沿った状況から確実に言えることは一つ、過去にどのような軋轢や画策があったのかは知らないけれど、四半世紀にわたって老舗の暖簾を頑なに守り続け、育ててきたのは三男やろ、ってコトだ。それは今回の紛争以前のインタビューその他からも窺い知ることが出来る。その是非はともかく、いかにも京都らしいいたずらに販路を広げないタコ壺商売に徹してて、決して大企業とも言えないし、派手さにも欠けるが、あの面白くも可笑しくも何ともない「京都市東山知恩院前上ル一澤帆布」っちゅうぶっきらぼうなラベルをブランドとして全国区にまで広めたのはとにかく紛れもない事実だ。
 そして、そこに出所の良く分からない第二の遺書を持ち出して愛知かどっかから乗り込んで来たのは長男、っちゅうのも事実だ。ここに至っては最後の悪あがきか、本人取締役で残留させろっちゅうんならまだ話は分かるが、もはや支離滅裂としか思えない自分の子供まで取締役に入れろってな内容の、ほとんど難癖とも言える仮処分申請を起こしている。

 そのどこまでも諦めの悪い執着心の原動力はもちろん、積年のルサンチマンだけではない。暖簾の生み出す財力に他ならない。タコ壺商売の旨味----利益率や一人あたり分配率の高さ----を知っておればこそであろう。老舗は正しく回れば、そんじょそこらの大企業では太刀打ちできないほどに儲かるのだ。それも堅実に。
 13億の訴訟の金額がはしなくもそれを物語る。算定根拠が良く分からないが、たかが一介の帆布の鞄屋ならば跡目の問題としてそこまでベラボウな金額が出てくるワケがない。一澤の暖簾あったればこそである。それにあの祇園に近い東大路に面したしもた屋だって含み資産は相当なものだろう。

 ともあれこの兄貴、今や1回目の訴訟判決以外はすべて敵に回したような状態の四面楚歌である。隣近所だけでなく、京都市内の代々続く老舗の旦那衆にしたってこんなオッサン、明日は我が身と不安で胴震いさせるだけの疎ましい存在だろう。いよいよ追い出されるとなると民法の居住権周到して居座るどころか、死なばもろともで家に火でもつけるんぢゃなかろうか?顔写真を見るにナカナカにしたたかで因業そうだし(笑)。

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 おれには兄弟がいない。しかしこぉゆう事件を見てると、あるいはいなくて良かったのかな?って気も少しする。

 ・・・・・・でアンタ、一澤のカバン欲しいか、って!?

 う〜ん・・・・・・チョー高いし微妙だな〜。ブランド物は腕時計だけで十分かも(笑)。

2009.07.05

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