血液型を嗤い飛ばせ!!

 
思えば「**ブックス」と呼ばれる新書の花盛りでありました。

 しばらく前の日曜日の夕方、家族でTVの「ちびまる子ちゃん」を見てたら、まるちゃんが血液型性格判断にアテられて学校でみんなに話すけど、そんな4つの分類で決まるワケないよぉ〜、ってなカンジで賢いクラスメートに一瞬で論破される・・・・・・そんな話をやってた。
 あのアニメは昭和40年代半ば過ぎが舞台になってるので、まるちゃんがアテられたのは間違いなく当時発売されて一躍ベストセラーとなった能見正比古の本だろう。

 能見正比古・・・・・・この人物こそが、血液型性格判断を日本に広めた張本人である。その人となりはまぁ、ウィキペディアでも見れば3秒で分かるだろうから割愛するが、これに関してはおれもまるちゃんのクラスメートとまったく同じ意見だ。複雑を極める人間の性格がそんな4つの分類でカテゴライズなんて出来るワケあらへんやんか。

 性格のカテゴライズそのものは別に能見親子が本家ではなく、遥か遠い昔から存在する。古くは人相や手相なんかがそうだ。それが科学の衣を纏った近代以降は性格分類と呼ばれるようになる。有名なところではクレッチマーの性格分類だろう。実はSPIなんかの性格分類だってこれをベースにしているから、ナカナカの権威となっちゃってるのである。いや、およそ性格診断と名のつくものでクレッチマー分類をベースにしてないものなんてないのではないかと思われる。実に侮りがたい存在だ。

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 性格を分類することそのものを否定しようとは思わない。ある程度は人の性格が類型的なものであることを、おれたちは社会生活を通じて何となく経験的に了解しているし、だからこそ何千年も前のギリシャ悲劇が時代や国を超えた普遍性を持って今なお人の心を打つのだろうとも思う。
 それでも、血液型の4分類がそのまま性格的な分類に当てはまる、っちゅう暴論には呆れる他ないし、それを信じてる人間がかくも多いことはどうにも癇に障る。大体、Rhだとか血液型分類法自体が何百種類もあって、たまたまその中で一番普及しているのがABO式分類、ってだけなのに、何でそれと性格分類が結びつくのか、科学的に有意な根拠も統計も何もない。

 能見正比古の主張の胡散臭さ、あるいはそれへの反論については本が出た当初からかなり叫ばれていた。有名なエピソードなのでご存知の方が多いかも知れないが、とある学校で反能見な先生がこんな実験をした。生徒の血液型を訊いて、それぞれに性格診断の紙を渡し、それが当たってるかどうかのレポートを提出してもらう、という内容だ。
 結果は上々、ほぼ全員が「とても当たってる、すごい!」と書いて寄こしたのだった。言うまでもなくこれは「実験」であるからして、ある仕掛けがしてあった。渡したその紙は血液型性格診断のものではあったが、テキトーに混ぜたものだったのである。

 ・・・・・・って、無粋でバカな親が増えたから、今どきこんなことすればまた別の物議をかもすことになるかも知れないな(笑)。教師ネタっちゅうだけで飛びつきたいブン屋は掃いて捨てるほどいるのだし。それよりなにより、これだけ血液型性格診断が普及してしまっている現代ではすぐにネタバレしてしまうか、それどころかガキどもだって昔より遥かにスレてるだろうから、「センセ、コレって*型の診断だよね?ボク達を実験台にワザと違うの渡したんだよね?」などと、余計な添削加えて返してくれるかも知れない。

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 こんなに素晴らしい実験にして啓蒙をしてくれたセンセまでがいるっちゅうのに、我が国の血液型性格診断の浸透ぶりは猖獗を極める。ほとんど一般教養と化してしまっている観さえある。

 本屋をウロウロしてたらとんでもない本があった。平積みになってたからそれなりにベストセラーなのだろう。「A型自分の説明書」ってタイトルだ。その時は見かけなかったが、すべての血液型についてある。ど〜でもいいような作者名が付いてたトコからするとゴーストライターによる企画本の類なのだろう。
 調べてみて驚いた。この本、A型だけで実にもう26版を数えているのである。仮に1版が最低ロットの五千部だったとしても10万部だ。いくら非科学的とはいえ、能見が本を出した当時はまだ血液型性格診断には「目新しさ」があった。だから、ベストセラーになったこともまだ頷ける気がするが、今時こんな手垢にまみれたネタの本を新たに出す方もどうかしてるが、それを買うなんて、おれの感覚では阿呆に決まっている。それも「説明書」やて。要はマニュアル、っちゅうこっちゃろ?自分自身のマニュアル?目ぇ噛んで死にさらせ、っちゅうこっちゃんか・・・・・・と、憤慨してもどうにもならない。アホはそんなけよぉさんいるのである。
 なんとまぁ、「ひとりっ子の取扱説明書」とか「末っ子の取扱説明書」なんてーのまで、何匹目かは分からないけど柳の下を狙って別のトコから出版されている。出版不況と言われて久しいが、こんなの売るような出版社はとっとと淘汰された方がいい。いずれにせよ、エロだなんだと言われるものより、これらの本の方がよっぽど不健全だし、いかがわしい。

 そんな風に嘆いてたら、これがまぁ、エロにもあったのだ。
 おれの別のサーバで立ててるブログの上部には頼んだわけでもないのにアダルトビデオのバナーがデーンと表示される。あまつさえスライドショーになって新作が追加されてく、っちゅう凝った仕掛けになってるのだが、その中に「血液型別SEX鑑定 B型の女 平野あみ」っちゅうのが!。
 これまた早速調べてみると、なんと!8種類も出てる。何でかっちゅうと男女別に、だからだ。至れり尽くせりやな(笑)。しかしそこまでやるならいっそカラミもあるんだし、いや、カラミがすべてなんだし、それぞれの組み合わせで16種類作ればいいのに。いや、3Pぢゃなんぢゃとバリエーション広げれば果てしなく作れまっせ。
 まぁいい。断わりもなしのどでかいバナーにはウンザリだが、権威を笑い飛ばし、引きずり落とす役目もエロは担っているのだから、どんどん嘲笑してやってくれ。え!?まさか真面目に血液型性格診断に沿って作っちゃないよね?

 エロビデオはともかく一般書籍においては今は単なる血液型だけでは商売になりにくいのか、星座と組み合わせたり、親の血液型と組み合わせたり、と新手のネタも登場しているけれど、おれは断言する。「血液型」を名乗る性格判断なんてモンは全く当たらないし、もし貴方が当たってると感じたとするなら、それは単に心理トラップに巧く引っかけられただけのことだ。

 ここまで血液型による性格の違い、なんちゅう根も葉もないデマを日本に拡めた張本人である能見正比古自身の血液型はB型だったそうだが、その遺志を継いで血液型性格判断の普及に心血を注いだ息子の俊賢(ちなみにこっちはA型)ともども50代で急逝している。どうやら早死の筋のようだが、血液型ではそこまで見通せなかったようだ(笑)。

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 しかし、こうして口角泡飛ばしてコキ下ろしても詮無いことなのかも知れない。なぜなら、別段血液型に限らず、大衆ってコトを考えるとき、深い無力感と共に思い至ることがあるからだ。

 人は権威によって規制されたがっている・・・・・・そして、
 人は権威によって単純化されたがっている。

 まったくもって恐ろしいコトだ。

2009.02.06

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