「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
続・「地震雲」の話

 
恥ずかしながら左側の本は持ってます・・・・・・。

 7〜8年前に大スベりして世間の顰蹙を買ったのに、またもや懲りずにPISCOの弘原海センセが「8月末から9月にかけて関東地方に大地震が来る」などと実に雄渾なスケールの大予言やらかしちゃってる。この団体が地震予知の根拠としているのは大気中に漂う+イオン濃度の変化なのだが、関東地方の2ヶ所(厚木・南房総)の観測ポイントで、最近これが異常に高い状況となっているのだそうな。

 噂を知って早速、近頃すっかり訪問をご無沙汰してたこの団体のホームページ上で公開されている観測グラフを見てみると、なるほど思わず「うわわ〜!」と声を上げるほどに高い。目盛ビンビンに振り切っちゃってる日が何日もある。いやもうレッドゾーン入りまくりですがな(笑)。
 彼の理論(?)によれば、+イオンは地震の前のちょっとした地殻の変化(プレスリップってことか!?)によって地中から大量に放出されるものであり、この高い値が続いた後、ストンと落ちて(嵐の前の静けさかよ!?)10日くらいしたあたりがヤバいらしい・・・・・・う〜む、学者さんのゆわはることだけにとても尤もらしく聞こえるなぁ〜。説得力あるわぁ〜!

 揶揄の調子でお分かりいただけると思うが、以前は少しは好意的に書いたものの、今回はかなり辛口にこの弘原海センセ、またPISCO、そして現在の巷間氾濫する地震予知についてもう一度書いてみたい。

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 ・・・・・・で、まずは+イオンだ。以前は帯電エアロゾルとか呼んでなかったけかな。イオンとエアロゾルではどえらい違いがあると思うのだけど、いつの間にかすり変わっちゃったね・・・・・・まぁそれは置いておこう。要は空気中の細かい微粒子が帯電したモノののようだ。

 ともかく、これが自分なりに色々調べてみると実にもういい加減な代物なんである。基本的に天気に大幅に左右されるし(夕立があると激増する)、風向きでも変わる。近くに工場とか工事現場があってこのイオンを大量に発生させるようなことがあっても、当然の如く激しくブレたりするのだそうな。だから、それらの外的要因を排除、あるいは考慮せずに上がった下がった、っちゅうてもまったく意味がないのだ。
 それは喩えるならば、今日の湿度を測るのに沸騰するヤカンの傍で測ったって、温度を測るのにエアコンの吹き出し口で測ったってまったく意味をなさないのと同じである。測定条件はいつもなるだけフラットでなくちゃならないのは小学生でも分かることだろう。使ってるイオン測定機自体は高精度な製品なのかも知れないが、手法はあまりに粗雑、っちゅうモンだ。

 ネット上にひじょうに興味深い指摘があった(http://goto33.blog.so-net.ne.jp/)。先日おれも運悪く遭遇してしまった静岡県沖地震の前兆である、とPISCOが主張する+イオン濃度の変化についてである。
 2日にわたって計測されたとPISCOが言うこの変化の推移を詳細に見ると、9時から始まって18時に終わっており、なおかつ12時から13時の間は急激に値が下がっている、と鋭い分析をされている。そして、皮肉タップリにそこには書かれてある・・・・・・「まるで大気イオン濃度には『9時始業』と『18時終業』、さらに『お昼休み』もあるようです」。

 おれは大笑いするとともに、これがチャンとした科学的な姿勢だなぁ、と思った。諺にも「3遍回って人を疑え」と言うではないか。
 そう、PISCOはこれが駿河湾の前兆だった、などと大慌てで後予知を発表する暇があるなら、せめてその数値をぶらせるような事象がその日近隣になかったかくらいは徹底的に検証すべきだった。

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 ・・・・・・初心に帰って、そもそも大気中の+イオンって何なんだ!?からもっかい始めるべきではないのか?

 まぁ、+イオンっちゅうものが普段からフヨフヨと漂ってるのは事実なのだろうし、そしてそれが日によって増えたり減ったりするのも事実なのだろう。しかし、所与のこととして分かってるのはせいぜいそこまでだ。
 地震は岩盤の破壊活動であるが、それとその大気中の+イオン量に関係があると主張するならば、動物が騒ぐとかそんなことよりも人工的に石壊すなりなんなりして、+イオンとの相関関係を誰が聞いても分かるよう、まずは明示的に詳らかにすることが研究の第一歩なのではないかと思う。
 基礎実験が済んだら次は 地面の下は砂礫層か?粘土層か?岩盤は火成岩か?堆積岩か?組成は?地下水の量は?植生の影響はないのか?地価を無数に走るガス・水道管やケーブルの影響は?機械の設置場所は?方向は?季節変化は?周囲の開発状況は?・・・・・・なんてぇ様々なブレの要因となりそうなものを丁寧に一つづつ潰し込んで行くことだろう。辛気臭い作業ではあるが、物事の因果を立証するにはそれくらいの慎重な態度が絶対必要だと思う。

 彼等には一切それがない。阪神大震災から14年も経ったのに、未だ仮説の領域から踏み出そうとせず、そこで楽しそうにウダウダするのみなのだ。そんでもって、なんだか在野の研究であることを逆手にとって、俗に「エイヤァ!」と言われる、気合いでGO!の勇み足ばっかしやらかしている。要は予知の成功事例を欲しがってるだけなのである。それがちょっとアレなアマチュアとどこが違うのか、おれにはちっとも分からない。こんな体たらくでは、今後いくら観測ポイント増やしたところで詮無いことだろう。
 期待する成果を手っ取り早く手に入れるため、いつの間にか強烈な自己暗示に罹っているようにさえ思えるし、まさか自覚的ではないだろうが、都合の悪い結果が出そうなことを忌避しているようにも思える。

 一例を挙げてみよう。なんでPISCOは地中からのデータを得るのに井戸とか廃坑道の中とか、素人だって気付く、まだちったぁ外界の様々な変化に左右されにくそうなポイントをイオン測定機の設置場所として選ばないのか?阪神大震災の前の+イオンの変化にしたって、元はと言えばトンネル工事か何かの人から得られた報告が発端ではなかったか?灘の宮水の井戸のラドン量の急増だって報告されていたではないか?
 そういった場所に置かないのは金がないから?人手が足りないから?・・・・・・どうにも以前からそれが気にかかっている。ひょっとしたら、そぉゆう場所に設置して何の結果も得られないことが怖くて避けてるのではないか?などと下衆の勘繰りの一つもしたくなる。

 なーんか、大学の研究室に閉じ籠ってばっかりで、「現実社会」(それはフィールドワークなんかではない)に出て行こうとしない学者特有の思い込みと頓珍漢、子供っぽい自惚れ、否定されることに極端にナーバスな自己愛がいっしょくたになったようなナンギな気質をおれは看取せざるをえない。
 一見スゴいことのようで、一皮剥けば突っ込みどころ満載の児戯のような実験ゴッコを彼等はひたすら繰り返してるのではないか?そんな気さえ最近はしている。

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 会ったこともないし、おれは弘原海センセの高邁な理想までをも否定しようとは思わない。そら正しく予知できて人が助かるに越したことはない。でも、こんなあやふやな+イオン濃度に依拠し、地震予知ヲタクからのバイアス掛かりまくった気違いじみた宏観異常報告なるモノを傍証としたお寒い状況でお触れを出し続けるのはむしろ人心を惑わすだけで、百害あって一利なし、実におめでたいだけのオッチョコチョイであると思う。イソップのオオカミ少年の話くらいはナンボ理系の年寄りでも読んだことはあるだろう。今一度ジックリ読んでみた方がいい。

 いや、今のどうしようもない状況に鑑み、あえてもっとキツい言い方をさせてもらうならば、高邁のフリして、モノ欲しげにネタを探してひと山当てたいだけの単なる栄達・功名心の為せる業ぢゃないのか?と指弾せざるを得ない。こんなもん出来の悪いトンデモ似非科学に過ぎないし、なまじ過去のアカデミズムの肩書がある分、世の中に溢れるキティガイ系のアマチュアよりよっぽど性質が悪い。

 よしんば8月末から9月にかけて大地震がホントに関東地方に来たとしよう。それでもなお、彼等の姿勢に科学を探求する者に備わっているべき慎重さや狷介さの欠片も感じられない以上、すなわち似非科学の衣を纏うたままである以上、おれはPISCOの「予知」なるものが当たったとは断じて認めたくない。

2009.08.29

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