「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
嗚呼、物価高


たしかに昔からすると安くなった。
・・・・・・しかし、見てときめくこともなくなった。

 ・・・・・・ってなタイトルにしてみたけど、ここんとこ急速に進行する物価高をおれはさほど嘆いてはいない。むしろ、今まであらゆるものが安すぎたんぢゃないのか?くらいに思ってる。唯一問題があるとするならば、その値上がりのペースがあまりに速いこと、またこれら諸物価の陰に隠れて使途の良く分からない税金が相変わらずケッコーな重みでかかり、その多くが有象無象の土建屋に流れてることだろう。

 ちょっとここで統計的な数字を並べてみよう。厚生労働省のホームページから大卒初任給の推移を10年ごとに拾ってみたら下のようになった。

1976(昭和51)年 1980(昭和55)年 1985(昭和60)年 1990(平成2年) 1995(平成7年) 2000(平成12年) 2005(平成17)年
94,300 114,500 140,000 169,900 194,200 196,900 196,700

        ※男・企業規模計、1975年がないため代わりに1976年を拾った。
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/より

 世間で言われるよりは若干低めの推移になってるような気もするが、これは全産業計で給料があまり高くない中小企業も含まれてるからだろう。もちろん大卒初任給はその年その年の求人倍率等が色濃く反映されるものだから、これがすべての所得の指標になるとはさらさら思わないけれど、それでも重要な数字であることは間違いない。見ての通り、この30年でおよそ2倍になったことが分かる。
 弱者と言われるアルバイトやパートの賃金も実は上がってなくはない・・・・・・どころか上がってる。地域によっては大卒初任給以上に上がってるところはいくらでもある。問題は、むつかしい制度の仕組みは良く知らないけれど、長時間働かせるといろいろ他に企業が負担しなくちゃならんモノがあるので、1日の時間を短くしたり、週内で仕事に入れる日数を減らしたりして1ヶ月の稼ぎが少なくなるようにしたことや、契約だか派遣だか準だか何だか知らないが、何ヶ月かで契約を切ることで時給や日当の上昇を抑えたこと、そして何より「雇用の流動化」とか「企業の価格競争力」とかなんとかのお題目で正社員を減らし、これらテンポラリで限定的であるべき層を限度を超えて無節操に増やしたことだ。

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 んでもって今度は物価を見てみることにしよう・・・・・・ってズルいなぁ〜、総務省の統計局ってトコが「小売物価統計調査」ってーのをやってんだけど、これの古いのはネット上で公開してやがらん。くっそぉ〜!と思ってさらに探すと内閣府のホームページに非常に分かりやすい諸物価の推移が載っていた。品目が少なかったり、直近年がなかったりするけど、あらましは分かる。

品目(単位:円) 1975年(昭和50年) 1985年(昭和60年) 1990年(平成2年) 1995年(平成7年) 2000年(平成12年) 2005年(平成17年)
(10kg) 2,990 4,788 4,933 5,217 3,955 4,080
鶏卵 (1kg1パック) 367 350 316 289 309 231
牛肉 (100g) 271 351 383 390 393 467
ビ−ル 大びん1本 171 310 317 320 337 337
電話料金 基本料年額 16,200 21,600 21,590 23,680 23,880 23,280
郵便料金 (手紙) 20 60 62 80 80 80
旧国鉄運賃 (50km) 250 727 800 800 820 820
理髪料金 大人・1回 1,430 2,603 3,006 3,437 3,612 3,701
大工手間代 (日額) 7,880 13,330 17,370 19,330 18,940 18,700
電球 (60ワット) 108 146 146 152 144 168

http://www5.cao.go.jp/より

 ・・・・・・どぉ思われました?一読したおれの感想は「トンチンカンなモノ選んどるなぁ〜」やったね(笑)。

 注目すべきは大工の日当だろうな、やっぱ。大卒初任給より伸びがいいやんか・・・・・・って、これは物価っちゅうより給料やろ?(笑)。ともあれ、おれの感想としては「意外に上がってへんやんか」である。物価の優等生として有名な玉子なんて、逆に下がってる。郵便料金や国鉄(JR)の運賃の高騰ぶりが目につくけど、これらはかつてが採算性を無視した料金だったから安いのだ。

 おまけにこの30年で小売業の形は大いに変わった。量販店やチェーン店による寡占化と廉売である。先日、風呂場の白熱灯が切れて出かけたついでに電器屋に立ち寄って、正に上に掲げられた60Wの電球を買ったのだが、それは120円だった。それも2個で。要するに1個60円。30年前よりはるかに安い。
 理髪店料金にしたって、うちの近所にある激安床屋なんて洗髪も顔剃りもない代わりに1,000円だ。おれは行かないけど、いつも店は繁盛してる。ビールだってそうだ。なるほど大瓶はマトモに買えば上掲の値段だが、スーパーや酒のディスカウントってな店で発泡酒だとか第三のナントカなら、今でも500mlの缶で200円足らずで買える。そんなんだから所謂フツーのビールなんて今や冷蔵陳列ケースの隅っこに押しやられ、申し訳程度に並んでいる始末だ。牛肉もそう。狂牛病のあおりでずいぶん値段上がったとはいえ輸入牛肉なら100g200ナンボで未だにいくらでも売ってる。

 リストに上がってないものを、いくつか記憶を頼りに書いてみる。

 例えば目下一番ホットな話題のガソリン。おれが学生だった80年代半ば、レギュラーはだいたいリッター145±5円あたりで推移していた記憶がある。つまり、当時の感覚からするととても高いものだった。だから単車でも満タンにするとかなり高くついたものだ。それがその後円高が進行する中でどんどん下がり続けたのである。
 今のクルマを買った頃が最もガソリンの安い時代であった。おれんちの近所には広い道があってガソリンスタンドが何件も並んでいるのだが、それが軒並みリッター81円だったのだ。この記憶に間違いはない。なぜなら、おれはそれでオニのよーに燃費の悪いガソリンエンジンのフルサイズ4WDの購入を決断したのだから(笑)。

 例えば定食。学生時代からズーッとお世話になり続けてるものの一つだけど、80年代初め、大学に入った頃が大体500〜550円、って感じだった。700円超えるといささか高いかな?って印象。石を投げれば学生に当たると言われ、それ向けの安い定食屋がいくらでもあった京都市中の話である。
 それが今はどうだ。東京都内のオフィス街でも700円前後でフツーに食える。ちょっと学生街に行けば、さすがに500円は少なくなったが600円前後でいくらでも昼の定食はある。王将の餃子は値上がりしたかも知れないが、ハンバーガーや牛丼チェーンなんて昔より断然安い。

 例えば楽器。以前も書いたが、ギターは玉子より優れた物価の優等生だ。おれが中学の頃だから70年代半ば過ぎくらい、もっとも廉価なブランドだった「フレッシャー」の、ラワンやシナでできたストラトのコピーはたしか定価33,000円だった。コピーっちゅうても、当時は「写真から型を起こす」なんてムチャがまだまかり通ってた時代、形はビミョーに本物とは違ってた。
 それが今はフェンダー傘下の「スクワイヤ」で、定価22,000円、実勢価格16,000円ほどで極めて精巧なデッドコピーが入手できる。そりゃそうだ。何せ本家の直系なのだからドンズバだわな・・・・・・木はアガティスだけどね(笑)。
 シンセサイザー、エフェクターといった電気仕掛けのものは言わずもがな。本家ギブソン・フェンダーだって1ドル360円の時代の恐ろしい値段からするとウソのように安い。

 このことは何度も書いたから割愛するけど最近ハマってる自転車もそう。クルマも家電も衣料品も・・・・・・。

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 つまり、給料が上がったわりに物価は上がってなんかいない。

 上段で書いたとおり、何かと金のかかる正社員を減らしてパート・アルバイトといった容易に代替可能な弱い人等を増やすとか、あるいは通貨レートであるとか、国内生産を空洞化させるとか、でもって後進国からの搾取であるとか・・・・・・色んなイヤ〜なカラクリでもって、やはり「今までが上がらなさすぎた」のだ。もちろん、モノの全部が全部ではないし、楽器や自転車が食えるわけでもなし、昔の収入に対する物価の構成比が正しいとも思わないけれど、でも、上がってないからこそバブルで株や土地の値段が吊り上がることもでき、外車が増え、趣味や遊興費にホイホイ費やせる余裕のある層がここまでこの国に増えたのだ。無い袖は振れないもんな。
 ・・・・・・って、書いては見たものの、おれに少々の物価高にもビクともしないくらいの経済力があるのか?と問われれば間違いなく、ない。これがじぇんじぇんないんだわ。いやもう、「!!」ってつけてもいいくらいに断言できる(笑)。実際、ここんところ急に上がってきた諸物価で生活に少しづつ影響が出てることも事実だ。でも、少しも深甚ではない。特に窮することもなく日々をなんとかやって行ける。
 おそらく日本の多くを占めるのは、そんなおれとチョボチョボくらいの暮らしぶりの人たちなんぢゃないだろうか。そんな層ならちょっとガマンすれば、要は趣味や遊興費を減らせば、今くらいの物価高なんて間違いなくしのげる。外食を減らし、行楽その他のお出かけを減らし、ゴルフや釣りの回数を減らし、クルマやパソコン、TVその他の家電製品、趣味の道具を今少しガマンする・・・・・・そんなモンだ。もっかいエンゲル係数上げてこましたったらエエんやわ。

 TVとかの街頭インタビュー見てて思うのだけど、下がるのは無批判にウェルカムで、いざ上がるとなると政治が悪いと文句ばっか垂れるのはおれにはとても卑しい事のように思われる。おれたちゃ多かれ少なかれ繁栄を謳歌しちゃったのだ。そりゃぁ誰だって死ぬまで勝ち逃げできるものならしたいけど、現に波は去りつつあるのだ。それならそれでハラ括って対峙するしかないではないか。
 勿論、こうして書いてるこの瞬間にも、絵にも話にもならないほど窮乏してる絶対的貧困層がこの国に多数いることも事実だろうが、この人たちにまでさらなる節約を求める気なんて全くないけどね・・・・・・それにしても大層な響きやな、「ぜったいてきひんこんそう」。

 いずれにせよ、「ストップ!物価高!」なんて煽動して騒いでる、ライバルに売り負けて客を取られたくないスーパー、あるいは卑しい心性におもねる政治家に踊らされちゃいけない。ちょっと清貧を愉しみましょうや。
2008.05.08

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