「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
TRIANGLE STATICS・・・・・・三角を巡る随想


ダイアモンドの分子構造。眩暈がするような三角の連鎖。

http://leed4.mm.kyushu-u.ac.jp/より

 今、これを書いてる居間のおれの座る場所の横には、最近買った自転車が置いてある。

 いや、買った当初はカバーかけて玄関先に置いてたのだ。でも、強風が吹くとコケてしまうことが分かった。いくらさほど上等でないとはいえ、新品がイタズラに瑕ついたりするのはやはり嬉しくない。だから家の中に入れたのだ。ただでさえ狭い家が余計に狭くなるのでヨメはかなり嫌がってるけれども・・・・・・。

 何気に眺めていて、おれは自転車が意外なほどに多くの三角から構成されていることに気づいた。実際、サドルの下のパイプ(シートパイプ)とほぼ水平にサドルとハンドルをつなぐパイプ、ペダル付近(BB)とハンドルをつなぐパイプは「メインの三角」とか「フロント三角」などと呼ばれる。また、後輪を固定するパイプの構成は「リア三角」である。最近は丸みがついてたりして三角でないものも増えたけど。
 改めてしかし観察すると他にも三角はあって、一般的な自転車はフレームに関する部分だけでも6つの三角形から構成されていることが分かる。すなわち、メイン三角、リア三角が2つ、またリアハブとシートステー、チェーンステーそれぞれで構成される三角、そしてフロントハブとフォークで構成される三角の6つだ。車輪に関しては細いスポークがいちいち数え切れないほどにあらゆる方向で三角形を形成している。

 ・・・・・・つまり、自転車はそのスカスカの形の中に原初の堅牢さを無数に内包している。

 自転車のフォルムが持つある種の美しい緊張感には、車輪やギアの円形、および複雑に構成された三角形、それらの組み合わせによるところが大きいのではなかろうかとおれは思い至ったのだった。

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 昔から「三角」のもつ玄妙さになぜか心惹かれるものがあった。おそらくそれは安定と不安定のもっとも単純化されたものだからだ。どぉゆうことか?っちゅうと、形態においてはフォルムの基本にして安定の極致であり、関係性においては不安定の原初である、そんなトコだろうか?

 考えてみて欲しい。細長い短冊状の厚紙3枚で3角柱を作るのと、4枚で四角柱を作るのを。角の補強なしで貼り合わせれば間違いなく三角柱の方が強い。四角は押しつぶせばすぐに菱形になってしまうが、三角はそれ以上変わりようがないのだ。
 以前、機械式時計の仕組みを切り口に円環について書いたけれど、円が回転なり弾みなり、「無限の運動」を想起させるのに対し、三角はその正反対、永遠の安定と静止がそのフォルムから感じられる。それは言うまでもなく、異なる3つの点を結んだ線で構成される形が三角形であり、どの2つの点を取ってもその線以上に短い距離は存在しない、という当たり前の事実によるものだろう・・・・・・少しも面白くないな(笑)。

 建物、ことに木造の家の強度を上げるためにかまされる筋交いだって、四角の中に意図的に三角を設けることに他ならない。2本の鉛直の柱、根太、梁に2本の筋交いを入れると三角形は実に8つも形作られる。そりゃ単なる四角より強いに決まってる。
 現代のテントのフレームの基本であるジオデシック構造もこの原理を応用したもので、細いポールの交点でいくつもの三角形を構成することで強度を稼いでいるワケだし、おれが大好きなモノポールテントにしたって、その居住性はともかく、三角形が頂点を共有することでできる多角錐ゆえに驚異的な耐風性を発揮する。ああそうだ、トランプだって積み上げるのは、三角形に組む方法でしかできない。
 ギザのピラミッドにしたって、あれが単に四角い豆腐みたいな建造物だったらこれほどの長い年月を保ちえたのかな?なんて思えてくる。あながち根も葉もない夢想ではない。古くは四角錐ではなくもっと雛壇状の形だったのが、次第に滑らかな面となるように組み上げるようになったと言われるから、やはり長持ちさせるためにあんな形になった気がするが、どんなもんだろう。ああ、余談だけどピラミッドパワーな〜んて怪しげな疑似科学も、三角の安定性あればこその珍理論ではなかろうか。

 何より三角形の安定性を雄弁に物語るのはダイアモンドの分子構造だろう。この世でもっとも硬い物質と言われるダイアモンドは、炭素原子がちょうど四角錐の中心に配されたような構造になっていて、原子が自身を頂点とする無数の三角形を構成することで出来上がっているのだ。それゆえのあの硬度なのである。

 三角形が転がる・・・・・・すなわち変化することはない。永遠に止まっている。頂点が下向くと間違いなく転ぶけど(笑)。

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 一方で関係性における三角はどうしようもなく不安定だ。「三角関係」なんてまさにそのマンマな言葉だしね。あらかじめ破綻が約束されたような収まりの悪さが三角にはある。3Pはそれなりに面白いけど、それで安定した関係なんて聞いたことないし、所詮は4P・5Pといったオージーへの入り口に過ぎないような気もする。

 友人関係や組織にしたってそうだ。2人だとあれほど仲が良かったのに、新たな一人が加わることで良好な関係が崩れ、イガミ合いが起きた例を多少なりとも歳食ってるおれはこれまで何度も見てきている。だから組織のメンバーは、もしその中に長やリーダーがいないのなら2人の次は3人にしてはいけない。

 こんな風に書くと、いやいやオマエ、三位一体なんてーのがあるぢゃないか、などと言われてしまいそうだけど、ありゃあメンツが父なる神と子なるキリストと精霊ってどだいムチャクチャな取り合わせだし、尊さが同じとかゆうけど、いっちゃんエラいのは父なる神に決まっとるワケだし、反証材料にはどしたってならない。
 むしろ、この三位一体って考え方、三角刑の持つ根源的な神秘性をキリスト教的なコンテクストで権威付けした感じがしないだろうか?三種の神器だって3つだからこその聖性だ。

 関係性における三角の不安定さはじゃんけんや三すくみといったものに端的に現れているとおれは思う。グー(石)はチョキ(鋏)に勝ち、チョキはパー(紙)に勝ち、パーはグーに勝つ。また、ヘビはカエルに勝ち、カエルはナメクジに勝ち、ナメクジはヘビに勝つ(←ホンマかいな、笑)・・・・・・言うまでもなくここにある均衡は矛盾の上に立ったトートロジーのバランスであり、観念論としては存在しえても、現実的には「アホかこのボケェーッ!バキッッ!」とかブン殴ればたちどころに破綻するような危うさが感じられるのだ。
 ともあれ、狐と猟師と庄屋、象と人と蟻、あるいはアナゴ・タコ・エビ(何だかよく分からんな、これ)・・・・・・世界にはいろんな三すくみがある。それはとりもなおさず人が古くから関係性における三角の危うさについて深く捕らわれてきた一つの証なのではないか、と思う。

 バンドにおいてもそうだ。スリーピースバンドなんて呼ばれるドラムとギターとベースだけのトリオ編成は2人だけのバンド(ユニット?)よりもなぜかシンプルな気がするし、メンバーの力の拮抗の上でのインタープレイの応酬の先に、バンドとしてのノリ(つまりは安定性)が生み出されるような緊張感が最大の魅力であるように思う。ところがこれが4人・5人となってくると、まずはバンドのノリありきで、そんでもってメンバーが暴れまわるって風におれはどうしても感じてしまう。
 バンドは3人やね、やっぱし・・・・・・って4人バンドやってたクセに(笑)。

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 三角の安定と不安定ってコトをテーマにとりとめなく書き散らかしたが、これ以上書くと頭の中が三角だらけになってしまう。今夜もそろそろ、三角のカタマリのようなチャリに乗って出かけよう・・・・・・なーんてツマラないオチが出たところでおっしまい。


緊張感あふれる不安定なロックトリオの金字塔「CREAM」

2007.12.02

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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