「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
あらら〜!


映画「サイコ」(1960)の有名なシーン。

 何とまぁ、新潟・赤湯温泉「山口館」の主人がパクられたそうである。嫌疑は以下のとおりらしい。

南魚沼署は旅館業山口某容疑者(53)を強制わいせつの疑いで逮捕。 調べによると、山口容疑者は9月某日午後9時ごろ、経営する旅館の混浴露天風呂で、「肩が凝っていそうだね」などと言って、入浴していた新潟市の無職女性に近づき、胸や背中を触った疑い。当時、風呂には女性が1人で入っており、山口容疑者が突然入浴してきた。

 やっちゃいましたなぁ〜・・・・・・そらアカンで。

 赤湯温泉は日本一のゲレンデとして有名な苗場スキー場の奥、ドラゴンドラの下をくぐってゴトゴトと林道を行き、その終点でクルマを捨ててさらに2時間ほど歩かないと行けない秘湯である。途中に険しい木の根道なんかもあったりして、けっこう道のりはハードだったりする。もう5年くらい前になるか、おれは五日町天池教育キャンプ場ってトコをベースに子連れの日帰りで出掛けてったが、まだ子供が小さかったこともあって何のかんので一日がかりになった記憶がある。

 つまり、それくらい大変な場所にあるワケだ。

 そりゃまぁたしかに温泉も湧いてるし、2食付きで泊まることもできるが、ここは平たく言うと下界から隔絶された山小屋である。実際、苗場山への登山基地として機能している。電気だって自家発電(ちなみに照明はロウソクの行灯)、電話はケータイのみ、近年TVは映るようになったみたいだが、もちろん電波が上から降ってくる衛星放送なのは言うまでもない。物資の類はあの道をボッカが担ぎ上げるっちゅうのは今時考えにくいので、おそらくヘリで空輸しているのだろう・・・・・・山小屋そのものやんか、ねぇ。

 しかし、いろんな交通網が整備されたことで、ハイヒールではさすがにムリでも、運動靴くらいでなら誰でも容易に辿り着けるようになった。おれたちが行ったときも林道の終点にはクルマはぎっしり停められており、空いてる場所を見つけるのに難渋したほどだったし、2時間の山道も数多くの人に抜かされ、また、すれ違った。その多くはおれたち同様、山登りの姿ではなかった。

 ちなみに同種の事件は最近では、嬬恋のペンションでも起きたそうな。中身は一緒なので詳しくは割愛するが、主人であるオッサンが客の女の子をマッサージしてやるとかゆうて、チチもんだ・・・・・・と、まったくシチュエーション一緒。イヤがる女の子のチチもんでそんなに楽しいのかねぇ?あ!そうか!イヤがるから楽しいんだ!?(笑)。小学生の子供かよ!?

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 ときにみなさんは「富士見平小屋事件」というのをご存知だろうか?こっちはチチもんだ程度の可愛い内容ではない。凄惨な事件だ。

 昭和58年秋、奥秩父の瑞牆山(みずがきやま)ってトコにソロで登った若い女性が行方不明になった。しばらくして、金峰山と瑞牆山の分岐点にある富士見平小屋って山小屋の近くで、無残な腐乱死体で発見された。犯人はその山小屋の管理人。要は強姦目的で襲ったのである。
 ちなみにこの近くでは、事件の数年前にも女性2名の白骨化した他殺死体が見つかっている。証拠不十分で立件されなかったものの、これについてもこの男が関与したのではないかっちゅう疑惑が大いに残っている。

 増富ラジウム温泉の奥あたりで足がかりが良いためか、ネット見てるとこの瑞牆山に登った話はよく出てくる。四半世紀近くもたって事件のことはすでに風化してるのか、みんなのどかそうだ。知らぬとは幸せなことで、小屋近くにテント張った話とかもある。いや〜、わしゃおっかなくて絶対登りたくない山だわ。出そうだもん。いや、実際ネット漁ってたら出た話しも見つけたりした。

 そう、A・ヒッチコックの傑作の一つである「サイコ」だって、前半いろんな話が出てくるけど、要はモーテルの主人がシャワー浴びてるネーチャンを襲って殺す話だ。
 安達ケ原の鬼婆の話だって一夜の宿を借りたら、人食いババァが大きな出刃包丁シャーコシャーコ研いで襲ってくる話だし、外国の昔話にも同様の例は枚挙に暇がない。

 ・・・・・・・何を言いたいのか、っちゅうと、宿の主人が必ずしも一夜の安全と安心を供してくれる存在とは限らない、ということだ。そりゃあ、安全であってもらわないと困るのは当然だけど、どうも、最近みんな安全が約束されたものだって思いすぎてやしないかい?

 枯れた禅坊主ならともかく、フツーのオトコなら隔絶された環境におればタマッて来る、リクツ抜きでイッパツやりたくなる。だから戦時中は従軍慰安婦なんちゅうのがあったり、ダッチワイフに「南極Z号」なんちゅう名前がついたりした。セックスのセの字もなさそうな「ウソの健全」のカタマリに見える海外青年協力隊にしたって、実はもっとも切実な悩みはいかにヌクか、セックスするか、らしい。現地の女性相手ぢゃどうしたって色々後憂があるから手を出せないのだ。オトコのことばっか書いたけど、オンナだって同じようなモンだ。タマるモンはタマる。

 人間は肩書きや職業の前にまずは、オトコであり、オンナであり、動物なのだ。

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 話を赤湯に戻す。

 事件のあったのは平日の晩だという。お客はおそらく少なかったろう。また、この女性、単独行だったという風にも記事は伝えている。どの風呂に入ってたのかまでは分からないけれど、宿から近いのはとても開放的な露天風呂だ。女性専用はたしか囲われてはいたが、建物から相当遠く離れていた記憶がある。街灯なんて気の利いたものはもちろんないから、夜は真っ暗だろう。

 つまり、物騒なのである。

 もちろん社会的にはチチもんだ宿の主人が悪いのだし、被害者の女性が悪いと言う気は毛頭ないが、でも、そんなトコで風呂入ってるって、あまりに脇が甘いっちゅうか、無防備っちゅうか、無用心っちゅうか・・・・・・それよりちょっと無神経で残酷過ぎんか、って気さえする。
 おれはあるエピソードを想い出した。かつて戦勝国として駐留する外国の女性兵士は、敗戦国の男が給仕をする前でヘーキで素っ裸になって着替えていた、って話だ。この女兵士に羞恥心がなかったわけではない。ただ、目の前のアジアンでイエローな給仕は「人間の男に見えなかった」のだ。人のアイデンティティの根源を侮辱する、ひどい話だ。

 それはともかく、外には危険が一杯、ってコトを忘れた女の一人旅、それも山奥なんて、まったくもって無鉄砲もいいところだと思う。もし、自分の娘が年頃になって一人旅したいなんてホザいたなら、まずおれは間違いなく止める。それでも頑強に行く、っちゅうんなら、ちょっと犯されたくらいでビービー騒ぐなよ!それくらいの根性で行け!と言うだろう。

 おれ自身は一人旅が好きだし、野宿だってヘーキでするが、実はかなり慎重だ。あまりエバれたご面相でもないのでオネーチャンに襲われることはないだろうけど、モノ盗りやアホなヤンキーのヒマつぶしの襲撃はあるかも知れない。だから、枕元にはいつだって鉈やナイフ・ハンマーといったすぐに反撃できる兇器を置いてるし、テント張るなら必ず人目を避けた物陰、クルマはすぐに走り込めるところ、ってな風にしてる。だからめったに熟睡したことがない。だって人がいっちゃん怖いんだもん。たとえそれが宿の主人でも、だ・・・・・・まぁ、これだけ用心深くやっても幽霊には効果なかったけど(笑)。

 しつこいようだが、人間は動物なのだ。

 思う。なるほど文明は大いに進歩したかもしれないけれど、そぉゆう本能の部分を理性で抑制できるほどに、ヒトそのものは進歩していないし、どだい抑制機能が備わることがそもそも種にとっての進歩かどうかも疑わしい。しかし、誰もが人間は進歩したと思い込んでる。
 一方で、安全に対する感覚はわずか数十年でもうグダグダだ。ドイツもコイツも安全が所与のものであり、天から降ってくる、くらいの感覚な連中ばかりだ。どうしようもない・・・・・・って、そんなツモリなかったのにいつの間にかエラい辛口になっちゃった。スンマセン。
 ともあれこの事件を見てると、そんな2つの感覚のギャップの狭間で起きたような気がしてならない。

 赤湯、ともあれいい温泉ですよ。この時期なら錦秋の山々もさぞかしきれいでしょう。ああ、そうだ。野外露出&乱交系のグループのみなさんなんかここを会場にしてみては如何でしょう?そんでもって大将も混ぜてあげれば万事OK。「買い手良し、世間良し、売り手良し」の三方良しとちゃいまっかねぇ?

2007.11.11

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