「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
G−Shock讃歌


記念すべき1号機(ただし画像は復刻版)と個人的に一番好きな形のG-2500


 G−Shockが好きだ。

 言わずと知れたカシオ計算機が出してるデジタルの腕時計のことだ。最近はアナログモデルもあるけれど、主流はやっぱデジタルで機能がテンコ盛りのヤツだろう。実はうちは家族全員一つづつ持ってる。安くて丈夫で高性能で、デザイン的にも豊富で優れてるからだ。おれは機械式腕時計が至上のものだとは思ってはいない。大事なのは他に抽んでた唯一性や独創性だと思っている。そしてそれはたしかにG−Shockには、あると思う。

 今回はそんなG−Shockを賞賛することで、改めて「メイド・イン・ジャパン」について考えてみたい。

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 カシオは、価格破壊の元祖みたいなメーカーだ。電卓がまだまだ高嶺の花だった頃に、次々と激安の製品を出してトップブランドとなり、シンセサイザーがどんなに安いのでも定価で10万くらいしてた頃に、確か2万円くらいでカシオト−ンを売り出した。まぁ、内容はプリセットサウンドばっかしでシンセサイザーっちゅうよりはエレクトーンに近かったけど・・・・・・。ミニ鍵盤のをこれまで何台か所有したが、まぁ楽しいオモチャだった。サンプリングが流行るとサンプリングゴッコ機能付き、スクラッチが流行るとスクラッチゴッコ機能付き、みたいな感じで、どれもビミョーにチープでキッチュな珍品ぞろいだった。
 ギターシンセが流行ると、巨大な黒い羽子板みたいな、プラスチックでできた奇怪なギターシンセをこれまた爆安で売り出す。実はこれもおれ、持ってたが、ぶっちゃけマトモにギターとして演奏できる代物ではなかった。ネックが何せプラスチックなので、フツーに弦を張ると反ってしまう。一度曲がると元には戻らない(笑)。だから、クラシック用のナイロン弦をベロンベロンに緩めて張る。正しくピッキングなんぞできるわけがない。1ヶ月もしないうちに飽きて、ずいぶん長い間押入の天袋にしまわれてあったのだが、今頃になってプレミアがついてやがる。捨てるんぢゃなかったな(笑)。

 ・・・・・・で、G−Shock。その開発コンセプトはとても明快だ。そこがおれは大好きだ。次の3つの条件をクリアすることを単純に追求したのだ。有名だから知ってる人も多いと思うけど、列挙してみよう。

    ● 10年間メンテナンスフリーでもつこと
    ● 10気圧(100m)防水であること
    ● 10mの高さから落としても壊れないこと

 ・・・・・・これだけ。
 しかし、非常に厳しい条件ではある。特に3つ目の条件、これって建物でいうと3〜4階の高さに相当する。人間だって落っこちたら、死にはしないまでも大怪我するくらいの高さだ。何だか昔のアーム筆入れみたい。ゾウが踏んでも壊れない、ってアータ、ゾウが筆箱踏むようなシュールなシチュエーションなんてあらへんがな(笑)。

 当然のようにユニットにはクォーツが採用された。アナログは機械部品を多く持ち、落下の衝撃に耐えられないから液晶。元々電卓メーカーなのでノウハウはある。ただ、昔の液晶は経年変化に弱く、だんだん表示が薄くなってきたり、字の欠けが起きたりって問題があったのも丁寧に改善して長期使用に耐えるようにしたらしい。
 さらにはそのクォーツユニット全体を軟らかい樹脂で包むようにしてマウントすることで、耐衝撃性をさらに確実なものとしたんだそうな。

 異様にいかついデザインは、これらの諸条件がまず最初にあって生まれたものなのだ。機能がデザインを決めたワケである。ちなみに今はもっと機能は進化して、防水性能は200mにまで向上してるし、一部の上級モデルではソーラー電池と電波による自動時刻合わせ機能までついて、おそらく世界で一番タフで手間のかからない時計となっている。ヴァリエーションが異常に豊富なことや、色んな限定モデルが毎年・毎シーズン売り出されることは今さら言うまでもないだろう。

 今は押しも押されぬ誰もが知ってる大メジャーなG−Shockだけど、売り出されて10年くらいは鳴かず飛ばずだった。あまりにデザインがカッ飛び過ぎてたせいだと思う。おれも今回カシオのホームページ見て、初めて売り出されたのが思ってたより古いことを知って驚いた。
 人気爆発のキッカケはアメリカでの人気爆発が逆輸入されたことによる。よくあるパターンだ。いやもうホンマ、日本人って骨の髄まで拝欧思想で主体性なくて形式主義者であることよ。ともあれ、一時期はナイキのエアにも匹敵するくらいコレクターが沢山いた。

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 さてさて、メイド・イン・ジャパン、についてだ。

 どうにも最近、コイツがどぉにもヘンだ。「ジャパンクオリティ」などとも称された、品質の高さが揺らいでる気がしてならないし、付加価値にばっか依存して、道具の本質的な部分での良さ、みたいなモンが見えなくなった製品が多いようにも思える。クルマしかり、バイクしかり、電化製品しかり、光学機器しかり、音響機器しかり・・・・・・。そもそも普及品はみんなブランドだけ国産で、中身は東南アジア諸国製にシフトしてしまったな(笑)。

 そうなった原因には色々複合的な要素があり、ここで一刀両断に論じることはあまりに粗雑に過ぎる、っちゅうモンだろうが、おれとしては一つに、「心映えが失せた」ってコトがあるんぢゃないかと思ってる(・・・・・・あくまで「一つに」だよ)。
 「心映え」とはまぁ、ずいぶん古風で抽象的なんだけど、要は損得勘定抜きにしても「世界一を作りたい」とか、「いいもん作りたい」といった骨太でシンプルななこだわりと意地、っちゅうてもいい。

 不幸なことに、日本のメーカーはさまざまなノウハウを膨大に蓄積しすぎたのかも知れない。そして、消費者もそれに慣らされ過ぎたのかも知れない。そしてみんながいわば「旦那芸」の世界に入り込んぢゃった。清新さが喪われちゃった。
 基本性能の部分なんて、特に新たな努力をせずとも、先人の積み上げてきたものを充て込むだけで確保できるもんだから、勢い付加価値にばかり力点が置かれてしまう。料理で考えると、素材や調理法そのものよりも、盛り付けとか器にばっかし力点が置かれた状態といえば分かりやすかろう。

 こんなコトばっかやってると、一番の土台の部分が次第に忘れられてくる。土台とは、頑丈さとか安全性、経済性といったところだとおれは思うのだけど、まぁ、いずれにせよ地味で目立たない部分だ。昨今、社会においても信じられないような事故やら不祥事が多発し、「安全神話の崩壊」なんて言葉がよく使われるようになったが、根の部分ではつながっているのだろう。

 メイド・イン・ジャパンがどうしようもない倦怠とマニエリスムの翳に覆われている。

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 そんな中で元気のある製品を見てみると、どれも、思想がシンプルだ、って気付かされる。

 例えばおれは、ニンテンドーの「Wii」を高く評価してるのだけど、あれってそもそもの思想自体は「所与のフレームにとらわれずおもろいゲーム作りたい」ってな、とても単純なトコから始まってる感じが伝わってくるでしょ?ただもう今までの機能をさらに進めただけの「PS3」が惨敗するのは、必至だった。ブルーレイがどぉこぉ、なんて消費者に響かん、っちゅうねん。
 あるいはやや一巡したけど、デミオから始まるコンパクトカー。そのコンセプトは「小さくて・燃費良くて・パッケージングに優れる」に集約される・・・・・・そこにはラグジュアリーがどぉこぉとか、スタイリングがどぉこぉとか一切ない。極めて明快な、誰にでも分かる機能要件があるだけだ。
 さらにはちょっと径に入りすぎてる感もあるものの、シャープの液晶だってそう。「大きくて薄くて綺麗」、ひたすらそれだけだし、誰だってその言わんとするところは分かる。

 機能要件だけが行き過ぎると、昔のソ連の製品みたいになってしまうけど、今のややこしくなりすぎてるメイド・イン・ジャパンは今一度余計なあれこれを削ぎ落とし、単純だけど容易に達成できない志を持つことが必要かと思う。

 ・・・・・・そう、G−Shockの誕生のように。
 
2007.07.07
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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