「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
あんぐりにあんぐり・・・・・・おかしな日本語


一度通読してみたい本の一つ。マジで。

 けっこうオンラインニュースには重宝してる。今では4大紙はじめスポーツ新聞まで、どこもウェブサイトを備えていて、かなりの更新頻度で最新のニュースが上がってくる。

 そんな中、「Zakzak(http://www.zakzak.co.jp/)」って〜のがある。フジサンケイグループがやってるもので、下世話なニュースが多くてナカナカ楽しめるのだが、少し前、気になる記事があった。内容に、ではない。見出しがヘンなのだ。

 -------キワどいビキニ、あんぐり組んだ美脚・・・“完全”小倉遥”(C&P ZAKZAK 2006/06/14)

 「あんぐり」!?はぁ!?

 いくら三文お色気記事とはいえ、この「あんぐり」は本文中にも「・・・・・・スラ〜リと伸びた足をあんぐり組んで、挑発視線・・・・・・」って出てくるくらいだから、記者が正しい言葉の使い方だと思って文章を書いたのはほぼ間違いないと思われる。おそらく、「あぐらをかく」ことが「あんぐり組む」だと思ってるのだろう。「いんぐりもんぐり」なんて言葉も浮かんでたのかな?

 無論、間違い。

 「あんぐり」は口にのみかかる副詞で、「びっくりしたり、呆れたりした様」を表す。後ろに「する」「させる」がついて動詞になることもあるけど、必ずこの場合も口とセットになっている。日本語にはこのような紋切型ともいえる定型句が多い。結婚式が「しめやかに」営まれることが絶対ないのも、同じような例だ。
 ちょっとさらに脱線すると、あくまでおれの個人的な語感って前置き付きだが、「足」は組めない。組めるのは「脚」だとも思う。

 いずれにせよホント、あんぐり、である。口がだよ。

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 でも、おれが自分の文章において正しい日本語・美しい日本語を書いてるとは到底思えない。熟語/格言その他の誤解も多いし、間違った反復もやるし(薫風薫る、とか)、尊敬語と丁寧語と謙譲語の区別もあやふやだし、「てにをは」はヘンだし、「れる/られる」はバシバシ誤用してるし、口語/文語の入り繰り、露悪的なカタカナの多用etc・・・・・・ま、それらについては以前ちょっと書いたな。

 恥を忍んで告白すると、つい先日もこんなコトがあった。「そんなことをしても無意味だ」って意味で「鼎の軽重を問う」と書きそうになったのである。

 これまたもちろん、間違い。

 その意味は「実力のあるヤツを小バカにして試すようなことをする」ってな意味だ。念のために調べみて、おれは初めて正しい意味を知ったのだった。
 不惑も後厄も過ぎて、おれは二重に恥ずかしさを味わった。一つは言うまでもなくおのれの無知に対してであり、もう一つは、平明な言葉を用いようとせず、一知半解のままややこしい言葉なんぞ引っ張り出そうとしたおのれの青臭いペダントリーに対してである。

 ・・・・・・つまり、あまりエラソーに批判できる立場ではない。それは重々承知してる、あ、正しくは「している」か(笑)。でも、自戒も込めて続けることにする。

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 ・・・・・・それでもなぁ〜、ヘンだよなぁ〜、あ、そぉいや、なつかしの猟奇犯罪・神戸連続児童殺傷事件の犯人、酒鬼薔薇聖斗が勝手に捏造(あっ!またやっちゃった!!「捏造」って勝手に作ることだ)してた怪奇な宗教儀式に「アングリ」ってなかったっけ?・・・・・・などと、取りとめなく思いながら数週間後、偶然、1冊の本に出会ってしまった。
 阿刀田高編「またまた奇妙に怖い話」っちゅうのがそれで、素人さんからの寄稿をまとめて一冊の本にしたものであることに、おれは読み始めてから気づいた。

 いやもうこれがひどいんだ。

 寄稿するくらいだからみなさん、文章でひと山アテることができれば、といったスケベ根性もそれなりに持ち合わせてるだろうし、文章力にだって自信、なくはないだろう。

 ・・・・・・でもひどいんだ。

 具体的に例を挙げてみよう。あくまで一例だ。実際はもっと次々と、それこそあんぐりするくらいに出てくる

 --------眼を丸くして怒る・・・・・・眼を丸くするのは驚いたときだよっ!怒るときは三角。
 --------仕事内容もギリギリ覚え・・・・・・ギリギリ、ってーのは何か明確な基準があるときに使うもんだ。この場合は「ようやく」だろ?
 --------そんな馬鹿なと鼻白みながら・・・・・・そんなバカな、っちゅう時はすでに鼻白んでるんぢゃないのか?
 --------想像もしなかったとんでもないこと・・・・・・これも冗長反復ですね。
 --------眼を閉じていても走れるほどの通いなれた道・・・・・・事故る、ってば。この後、この人クルマとぶつかるんだ、これが。
 --------先刻は何故?・・・・・・漢字使えばいいってモンぢゃないって(笑)。この人、「ほんま」に「本真」などと充てたりもしてる。
 --------烈火のごとく怒り出す・・・・・・手垢まみれ、ってことが分からないのかね〜?

 ね!?ひどいっしょ?いい加減飽きて、おれはチェック作業を途中で投げ出したのだけど、それでも2〜30ヶ所見つかった。けっこう歳食った人の文章に珍妙な例が目立つ。阿刀田さん、ちゃんと添削の手を入れようよ。

 もちろん、文章全体の冗漫さや、不必要なまでにベタベタと甘い感情移入が入ってることは、個々の語句の言葉の使い回し以前に指摘すべきこなのとだろうが、もういちいち構ってられない・・・・・・ってーか、実話かフィクションかは知らんが、小説等の読み物書く際には、そもそもこんな手垢のつきまくった慣用句・定型句はなるだけ使わないようにするのがまずなにより大事で、誤用なんてそれ以前の問題だろう。
 こんな連中が町のカルチャースクールで「小説教室」とか通ってたら、おれ怒るで、本真・・・・・・いやホンマ。

 ひと山当てようとする前に、もっと本読め、っちゅうねん。

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 花村萬月の「ぢんぢんぢん」って作品に次のようなくだりがある。主人公の少年が、ジゴロとしてねんごろになった相手で、出版社の編集してる肉爆弾みたいな行けず後家が預かっている小説家のゲラを読むシーンである。

 -------脱兎のごとく駆けだした、っていうのは気持ち悪いね。今時脱兎な奴なんていないよ。
      この登場人物が焦ってることは前後の文章からもわかるじゃねえか。駆けだした、だけでいいんじゃないかな。

「ぢん・ぢん・ぢん、下巻505P」(祥伝社文庫)

 実際、人殺したことあるんぢゃねぇのか!?って思うくらい、花村萬月の描き出すストーリーはどれもヤバいのがばかりだけど、文章そのものはひじょうに明快かつ繊細で、国語の教科書のお手本のように美しく、平明で正しい。この人、小説家になることを志したとき、いろんな小説を丸々書き写して、その呼吸やリズムを会得したそうだが、それもうなづける。

 あ!も一つ「脱兎のごとく」で想い出した。唐沢俊一が書いてたネタだ。

 彼は一時期、レディコミの投稿の添削をやってたことがあって、その寄せられた告白文章の中に「脱兎の如くパンツを脱いだ」って表現があったのだそうな。意味はよく分かるな〜(笑)。

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 言いたいことは大体書いた。

 ともあれ、たとえ三文記事でも記者やる以上は、また「寄せられた体験集」ってなモンに投稿するなら・・・・・・まっこと口はばったいとは思うが、最低限の日本語に対する知識と、言語感覚は身に着けんといかんのとちやうやろか?
 でないと、読んでて恥ずかしいわ。


附記:出典の記事はhttp://www.zakzak.co.jp/gei/2006_04/g2006040812.htmlで閲覧できる。DAT落ちする前に押さえておこうね。


花村萬月「ぢん・ぢん・ぢん」表紙

2006.07.19
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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