「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
木がもうあらへん!


一見しただけでは何の木かもわからないコールクラークのギター。

 ・・・・・・先日、大阪の老舗・三木楽器の役員が希少材の密輸のカドで捕まってた。

 報道の文面からするにローズウッド系みたいだったんで、おそらくは昔から珍重されるハカランダではないかと思う。ワシントン条約っちゅうのに引っ掛かったのだ。おらぁ知らんかったが、三木楽器は売るだけではなく楽器制作、それもオーダーメイドで一点物の高級品をケッコーやってたみたいだ。
 エラそうにワシントン条約っちゅうけど、これまた欧米社会が長年に亘って散々好き勝手やって来たのが、いざ枯渇しそうになったら急にエエ子ブリッ子で、世界中で「平等に」規制かけましょ!っちゅういつもの遣り口である。それで今では多くの専ら南米材の伐採が規制されてるのだ。 生き物が絶滅したり資源がなくなっちゃそら困るとは申せ、ホンマに身勝手な連中だわ。お前らが真っ先に滅ぶのがいっちゃん地球には優しいよ。
 そんなんでインディアンローズウッド、ホンジュラスマホガニー、エボニー等々のいわゆる高級材は今や世界中で払底しており、きわめて入手困難となっている。現在出回ってるのは、ほぼ100%官憲の目を潜り抜けた違法な伐採によるモノだ。

 ギターの材料の大半はこれまで一般的に木であった・・・・・・ってか、ピアノだって笛だってタイコだって何だって、楽器の多くは木材が多用される。サックスやペット、鉄琴みたいに全体がほぼ金属な楽器の方がむしろ少数派かもしれない。
 エレキギターだとメイプル、マホガニー、アッシュ、アルダー、ローズ、エボニーあたりがまぁ従来は一般的なトコだろうか。アコギになるとこれらに加えて、スプルースやシダーなんてのが表板に加わるし、ウクレレなんかだとハワイアンコアなんてのがよく使われる。安物にはラワンとかメランティとかよぉ分らんのが昔から使われてる。タイコだとバーチやビーチなんてのが使われたりもするな。

 何でこれらの材が使われるようになったか?っちゅうと、ぶっちゃけ音響特性がどぉこぉではなく、あくまで工業製品としての合理性と入手のしやすさから決まっていった側面が強い。強さ・硬さ・しなやかさ・加工のしやすさ、さらには耐久性に耐朽性、防虫性ってな要素が挙げられるだろう。大体どれもみんな元は家具の材料だもんね。
 次に重要視されるのが見た目で、有名なトラ杢を筆頭にカーリーだフレイムだバーズアイだなんだ、っていろいろある・・・・・・って実の所、トラ杢だからって特段、音が良いワケでも何でもないらしい。

 ともあれ、従来の木材、とりわけ赤道近くの熱帯の暑い地方に育つ硬い材は、今や量を確保するのがひじょうに困難になっており、そんな中で広まってるのが「代替材」っちゅうモノだ。

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 代替材自体は今に始まったことではなく、かなり昔から存在する。古くはお手軽に杢が出るってことで、メイプルの代替材としてホワイトシカモアってのがよく使われてたし、安物のギターのネックにはマホガニーの代わりにナトーが使われてきた。いやいや、こうして違う名前なら違う材って分る。けど、そこが百鬼夜行なこの業界の闇で、紛らわしい名前が氾濫しまくってる。
 アジアンマホガニーなんて要はラワンのコトだし、シャム柿ことジリコテはシャム(タイ)とは縁もゆかりもない南米産で、柿の木とは別の種類の木だったりする。もぉメチャクチャである。ちなみに上に挙げた、ラワンとメランティは採れた地方で名前が違うだけで、植物学的には同じって説もある(笑)。こいつは大量に採れるだけあって、セラヤって名前もあったりする。いやもぉややこしいこと限りない。

 そんなペテンのような業界の名称問題はさておき、今はとても珍重されるコリーナって材だって元をただせば、マホガニーの代替材だった。南米産ばっかし使うのもワンパターンだよね、アフリカにも何かないの?・・・・・・って会話があったかどうかは知らないが、これ使えそうぢゃん!くらいで使われたのだ。1958年にごく少数が試験的に製作されたオリジナルのフライングVやエクスプローラー、フューチャラに使われてんだけど、要はお試しで入ってきた材を使っただけちゃうんかか!?とおれは睨んでる。
 ハワイアンコアだって、ハワイ島ではマホガニーが生えてない中でなんかギターみたいな楽器作ろや〜、ってってコトから森に沢山自生してたのを使ったのが始まりだ。木目も奇麗やし、赤っぽいからマホガニー似てるし、柔すぎもせんし、別に壊れへんねんやったらこれ使えるんちゃうん?・・・・・・って会話があったかどうかは知らないが、その始まりには音色もクソもない。

 平たく言うと「あるモン使った」っちゅうこっちゃね。そもそも「代替」という考え方自体が大昔にはなかった、というのがむしろ正解だろう。極端な例だと、フェンダーなんて初期の頃は、ボディの材については何を使うかがそもそも決まってなかった。アッシュ、アルダー、バスウッド、ポプラ・・・・・・入手しやすく、重すぎも軽すぎもせず、塊でビャビャーンって削り出せるモノならテキトーに使ってたってのが実態だ。

 そんなモンなんである。病膏肓でヲタクにみんななりすぎてる。ついでだから、ザーッと今使われてる代替材をテキトーに列挙してみると、以下のような感じだろうか。
 
●オクメ  マホガニーの代替。イバニーズが好んでよく使う。耐朽性に難ありとも。
●サペリ マホガニーの代替。狂いが生じやすいとも。
●パーフェロ ローズウッドの代替。最近はこれ自体が高級材。色が赤っぽい。
●アガチス 結構昔からある代替。ネギドラムのオッチャンは絶賛してたな。
●オバンコール ローズウッドの代替。色が少し明るい。最近は高級材。
●マートル すごくきれいな木目。ローズウッドの代替?ヘッドウェイが良く使う。
●ローレル 要は月桂樹。ローズウッドの代替。虫がつきやすいとも。
●ウォルナット 要はクルミだが、材としては別扱い。ドラムでは昔から割とよく見かける。
●ブンヤ オーストラリア系メーカーが良く使う。松の一種みたい。
●シーオーク コールクラークがよく使う。ブナの一種? 
●ブラックウッド コールクラークがよく使う。コアの親戚らしい。
●カヤ フランスのLAGがよく使う。マホガニーの代替。色がやや暗い。
●マッカサルエボニー   エボニーの代替。縞黒檀の一種?

 他にも一杯あるし、さらにはウェンジだとかパドゥク、ブビンガ等々、アフリカ系の激重・激硬な材、あるいは国産のタモとか桜・ブナ、ナンチャラ柿だとか多数あったりするけど、これらは代替ではなく、希少性の高い独自マテリアルとして高級モデルに使われてる印象がある。
 ともあれ、おそらくこれらの代替材で拵えたからって、音色的にはさほど大きな差はないんだろう。恐らく問題があるとすれば、音以外の部分だ。シリカが多くてノコギリの歯がすぐに鈍る、割れ・欠けが起きやすい、歩留が悪い、虫に食われやすい、カビやすい、乾きにくい、経年での狂いが大きい、縮みや痩せが出やすい・・・・・・etc。

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 そもそも、今のここまで文化文明が発達したご時世にそこまで天然の木でなくちゃアカン理由なんてあるんやろか?

 ・・・・・・などと一介の市井の個人のおれが思うまでもなく、そうした動きはすでに起こり始めている。さっきも言及したオベーションの樹脂製のボウルは「リラコード」って素材でできてるが、これはGFRPの一種だ。ただしこれは資源枯渇でそうしたのではなく、カーマンって元々ヘリコプター屋さんだったんで、そのノウハウをギターに転用するために使われたらしい。
 「リッチライト」ってのがエボニーの代替で指板やテールピースに使われ始めてるが、これはカッチカチの合成樹脂の商品名だ。エボニーよりもさらに硬くてツルッとしてる。似たようなところでは「ミカルタ」っちゅうのもある。これは紙やらグラスファイバーに樹脂を含侵させたもので、風合がパッと見、木に近い。芯にする素材によって硬さなんかも自在にコントロールできるそうだが、当然ながら繊維面を切断すると毛羽だったり(笑)する。
 ダンエレクトロで有名なメゾナイト(MDFのもっと素朴なモノ)、あるいはトーカイの社運を傾けたタルボの金属ボディ、はたまたフジゲンPPのスチロールはさておき、最近ではマーチンのHPLやLAGのブランコウッドみたいな、高圧縮材・・・・・・要するにハイテクなベニヤ板も廉価品を中心にかなり広まってきた。バッカスが大好きなローステッドメイプルなんてのもある。そのうちセルロースナノファイバーを固めたようなんも出てくるかもしれない。恐ろしく軽くて恐ろしく強いらしい。

 この地に越してきていろんな不思議な縁に恵まれて、人前で演奏することが増えたのはこの前書いた通りだ。残念ながらエレキギターは障壁が高く、基本はアコースティックだし、完全にアンプラグドで演らんならん時も多いし、行ったら青天井でパイプ椅子がポンとあるだけ、ってなこともある。もちろんピーカンの日もあれば、ザンザン降りの中、車のリヤゲート上げて何とかやった、なんてってコトもあった。どう考えてもこれって楽器にはかなり過酷な環境だろう。事実、チューニングなんて僅かとは申せ面白いように狂う。

 そうしたコトを総合勘案していくと、今のおれにはチャンとした材、あるいは単板なんてもぉもっての外、こうしたケミカルなマテリアルの方がむしろ都合が良いのかもしれない・・・・・・それにそもそもハイエンドなチャンとしたのを持てるほどのテクもなければ、金もないんだけどさ(笑)。

2024.07.12

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