「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ピックアップを語ってみたりなんかしちゃったりして


通称"ソープバー"と呼ばれるタイプのP−90

こっちは”ドッグイアー”と呼ばれるタイプ。中身は一緒。

 おれの持論で、何度も主張してるコトなんだけど、ギターはチューニングがキッチリ合って、サスティンがそれなりに伸びて、ほいでもってネックがシッカリしてれば何だってOKだ。
 だから、ピックアップの種類がどぉとかには今はあまり興味が無くなった。どだい、どんなピックアップでもトーンやアンプ側のセッティングでかなり似たような感じに近付けることができるのだ。何ならグライコやパライコを間に咬ませてみてみ、っちゅうねん・・・・・・おれはそこまではしないけどさ。

 ・・・・・・とは申せ、ピックアップ自身が持ってる本来の音色の違いが全く分からない、っちゅうほど耳梅毒ではないし、やはり弾いててお気に入り、っちゅうか弾きやすく感じるピックアップもあれば、妙に肌に合わないのもある。
 今日は昔話も含めて、その辺をあれこれ気儘に書き散らかしてみたい。

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 大好きなピックアップを一つ挙げろ、と言われたらやはりおれはP−90を推すような気がしてる。初めて買ったアリアプロUのレスポール56モデルのコピーに付いてて思い出深いってのももちろん理由の一つにある。
 当時、新井貿易はギブソンの国内代理店だった関係で純正が使える契約にでもなってたのか、定価で僅か6万円なのに装着されてたのは本物のギブソン製だった。このことについては実は長く気付かず、値段が値段だけにてっきり国産のコピー品だとばっかし思い込んでた。それが何かでどうにも調子が悪くなって修理に出したところ、店員から意外そうにそう伝えられて判明したのである。まぁ、5万円前後のにもディマジオなんかヘーキで搭載してたし、あの頃のアリアって実に気前の良い、金の無い学生にはありがたいブランドだったワケだ。ネックも今となってはいろいろ批判はされるが80年前後のギブソンの特徴であるメイプル3ピースを忠実にコピーしてたしね。
 何でそもそも、そんなマイナーなピックアップにしたのか?その辺はハッキリとは思いだせない。一つに、ドイツもコイツもチェリーサンバーストにハムバッキング2発のレスポールを欲しがるのに妙な反抗心が首をもたげたのはあったと思う。

 P−90の特徴は巷間語られる通りで、ハムバッキングよりはハイが出て、かといってフェンダー系のシングルよりはキンキンせずに図太いものの、全体としてカラッとしてるってコトだろう。サスティンはハムバッキングほどには伸びないものの不満を感じるほどでもない。問題はやはりシングルコイルゆえのノイズの多さで、これは実際バンド活動してる時にもけっこう悩まされた。曲間で迂闊に両手離したりすると途端にブ〜ン、ってなりやがる。シールドが良くないのか何なのか、ストラトなんかより酷く感じたものだ。

 いつかまたP−90欲しいな〜、って思ってた気持ちが現在所有のSGスペシャルに繋がってんだけど、どうも同じP−90でも、何となく昔の記憶と違う気がしてるのも事実だ。一つはこんなに馬力のあるピックアップだったかな?ってのと、ここまで低域がブーミーだったっけ?っちゅうのが主な点だ。ひょっとしたらモダンなハイゲインピックアップの流儀を取り入れて昔とはマグネットやコイルの仕様が変わってるのかも知れないし、やはりメイプルトップとマホガニーっちゅうボディ材質の違いなんかが影響してるのかも知れない。
 そんな違和感が若干残るものの、何てーか音の歪ませた時の生々しさは沢山あるギターの中では一番ハッキリしてる。ロックンロール系ギタリストに愛されるのも分かる気がする。ホントに味のある、良いピックアップだ。

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 アリアがどぉにも調子悪くなって知人に安くで売って、代わりに買ったビルローレンスのテレキャスで、すっかりおれはビルローレンスのピックアップが好きになってしまった。結局、シングルコイルが好きなんだろうな。特にフロントの音が大好きで、ライブでも何でもほぼ100%フロントしか使ってなかった。
 その特徴を一言で言えば、ハイパワーだけどバランス良くて煌びやかさとふくよかさを兼ね備えてる、ってなトコだろうか。クリーンはあくまで美しく、歪ませるとひじょうに太い音だったのも強く記憶に残ってる。ノイズ対策も何か工夫してたのか、P-90レスポールよりはマシだった。

 東京に越して来てすぐくらいに、ブランド撤退で投げ売りになってたここのストラトをニーヨンパッで買ったのもあのテレキャスの印象があまりにも良かったからだ。他のブランドだったら即買いしてたかどうか分からない。
 ストラトには有名なブラックラベル、ってのが着いてる。これもひじょうに良い。既に所有してたフェンジャパのストラトより100倍音良いし、ネックも弾きやすいなぁ〜、って感じた。そんなんで哀れフェンジャパは二軍落ちが多くなり、ついには甥っ子のところにドナドナされてしまったのだった。
 そうそう、おれ以上にこのストラトを絶賛してくれてるのが悪友のK田で、「これ、おれが持ってるUSフェンダーのアメスタやアメデラより絶対エエで。だから売らん方がエエで!」との御託宣だ。だから言い付けに従って今も大切にしてる。最近はスイッチ関係の接触が悪くなって来たんで、またリペアに出さなくちゃいけない。

 テレキャスターもいつかはもっかい買いたいギターの一つで、密かに試奏もあちこちでやってたりするんだけど、本家のUSもメキシコも、数多溢れるコピー物も、ぶっちゃけあのビルローレンスを河原町御池のワタナベ楽器でツインリヴァーブか何かに繋いでバーンってコード弾いた時のウワワ〜ッ!ってな感動が無い。買う機会は来るんだろうか?

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 金欠の中、テレキャスがパクられて、イチヨンパッ!の倒産処分価格とP−MODELの平沢が使ってるんで買ったのがトーカイ不朽の迷作・タルボなんだけど、個人的にはこれが初めて所有したハムバッキングピックアップだったりする。
 その特徴は・・・・・・ない(笑)。低域、出ます。中域、出ます。高域、出ます。とにかくバランスが良くて上品だ。サスティンもあまりに掛かりすぎるのをワザとデッドにするためにスポンジ詰め込んだと言われる金属ボディもあってかまぁ伸びる伸びる。フルカバードタイプにしてポールピース調整ができないようになってるのも、そらまぁバルトリーニとかが流行り始めてた影響もあるだろうけど、それだけ自信があったのだろうと思う。結果的には傾けたとはいえ、流石トーカイが社運を賭けただけのことはあった。恐ろしく完成度が高い。

 ・・・・・・しかし、色気が無いっちゅうか、生気が無いっちゅうか、面白みが何ともないのだ。元々、ハムバッキングの特性はフラットさにあるんだろうが、それを極限までとことん追い込んだ開発方針のような感じがする。ひょっとしたらバルトリーニ的なルックスも含め、一時期のアクティヴピックアップをパッシヴで再現しようとしてたのかも知れない。
 そんなんで何だか弾いててもあんまし楽しくない。また、超近代的なギターを目指したはずなのに指板のRがオールドフェンダーの流儀に倣ってキツめなのも性に合わず、結局バンドのライブで1〜2回使ったきりで永らく箪笥の肥やしになっていた・・・・・・って、2本あるから1本は未だに箪笥の肥やしだ。今やデッドミントの30年物である。

 今も弾いてなくはない・・・・・・が、手に取る回数で行くと圧倒的に少ない。何なんだろう?このギター?ともあれ、これを所有した結果、やっぱおれはシングルが好きなんだろうなぁ〜、って思ったのは事実だ。

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 今、最も手に取ることが多いフライングVには、ギブソンでも特にハイパワーな496R、500Tってハムバッキングが搭載されてる。いろいろ評判が微妙なピックアップなんだけど、おれはそんなに悪いとは思えない。とにかく歪ませやすいし、スムースだけどタルボよりは断然生々しい音が出るし、ダメって言われるクリーンもそこまでボロクソではないと思う。ヘビメタキッズ御用達のドンシャリって感じも実はそんなになくて中域もそれなりにキチンと出せる(・・・・・・もちろんボディ材質も影響してるんだろうが)。不評の原因の一つに、ピッキングニュアンスが出しにくいなんてのがあるけど、ヘタなおれにはむしろアラ隠しになってありがたくもある。
 あくまでおれの想像なんだけど、このピックアップを評価しない人って、「クランチくらいのファットなオーバードライヴサウンド」が好きなのではなかろうか?なるほどたしかにその辺は出しにくいっちゅうか、開発思想として初めから想定してないのかも知れない。

 ともあれ、このギターを買ったことで、初めておれはハムバッキングってエエやんか!って思えたのだった。ただ、カバーが無くてエスカッションも付いてないから、コイルを切ってしまいそうなのと、何だか取り付けがグラグラするのはどぉにも気になってしまう。仕方なくおれはピックアップとボディの隙間に使わなくなったオニギリピックを何枚か押し込んでカバー兼ストッパーにしてる。

 中古で買ったグレコのレスポールカスタムのコピーもハムバッキングだ。ヘッドインレイがトーチ柄だったり、本家には当時存在しなかった白の3ピックアップといった仕様からするに、迷走しまくってたミンコレ末期の製品なんだろう。グレード的には中位より若干上あたりと思われる。フロントとリアピックアップはおそらく有名な”Screamin’”ではないかと思うが良く分からない。真ん中はコストダウンのためか、明らかに安物が着いているのが何ともいじらしい。いずれにせよ、マクソンの製造元である日伸音波製だろう。
 ・・・・・・と、ノーガキはともかくこのピックアップがちょっと変わってる。歪ませると中域〜高域の間に独特のクセがあって、フツーのハムバッキングの音とちょっと違う。敢えて誤解を恐れずに喩えるならば、ストラトのハーフトーンみたいなちょっと鼻の詰まったような音がするのだ。もちろんハムバッキングだからストラトよりも断然太いし、シッカリ歪みもするんだけど、この独特のツマリ感は意外に面白い。
 何で、こんなモノを拵えたのか?・・・・・・勝手なおれの憶測だが、日本のギター業界が盲目的なデッドコピーを離れ始め、独自の音を追求する流れの中で、極上のトーンのお手本をマジでクラプトンのハーフトーンサウンドに求めようとしてたのかな?と思ってる。

 いずれにせよこれも弾きはするものの、とにかくバカみたいに重い。5kgくらいある。最近は運動不足の一助にと、なるだけ立って弾くようにしてるから余計にこの重さは応える。まぁ中身が詰まってる証なんだろうが、やはり重いのはツラい。音が個性的なだけに惜しい。

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 最後に取り上げるのが、ダンエレのリップスティックとムスタングのシングルだ。一言で言えば、どっちもダメなピックアップだろう。殊にダンエレはスゴい。まずチャンと着磁してんのか?って問い詰めたくなるくらいに馬力が無い。蚊の鳴くような音だ。唯一の救いは配線が通常のギターとは異なり、前後のミックスがパラレル接続ではなくシリーズ接続になって音がデカくなる。それでもペチペチ、ペンペン、ペケペケ、ペナペナとしてAMラジオみたいに中域だけの幅の狭い安っぽい音色は変わらない。オマケにハウリングはすぐ起こすし・・・・・・ただ、ガワの口紅の筒がシッカリしてるのかノイズ耐性はけっこうある気がする。
 ムスタングはリップスティックよりは随分マシだけど、まぁ前段まで取り上げて来たマトモなんと比べるとドングリの背比べだ。これも実にチャチな音だ。

 ただ、不思議なことにこれらのピックアップで歪ませずにコードをガシャガシャ弾いたりなんかすると、生々しさだけは凄くある。1本1本の弦がチャンと揺れて鳴ってるのをキチンと捉えてる感じ、とでも言えば良いんだろうか、この独特の感じは昔のフォークギターのサウンドホールに嵌めて使う安物のピックアップの生々しさを髣髴とさせる。近年スッカリ見かけなくなった。ショボいし、すぐにハウるし、音的には当然、タカミネのパラセティックなんかの方が優れてるのに何故か魅力のあったあのピックアップの感じ、と言えば分って頂けるだろうか?

 つまり、おれとしてはこれらの音も結構気に入ってるのである。

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 以上、生意気に語りまくってしまったんだけど、別にどのピックアップだろうが「ド」の音を引けば「ド」の音が出る。「レ」が出たら大変だ。ストックの状態での音色の差はたしかに千差万別とは申せ、冒頭に書いた通りで、音色は実は大概補正が効く。いや、ムリに補正する必要はない。おれはとにかく粒の細かい深い歪みが好きだから、ついついそっちに近付けようと弄り倒してしまうんだけど、そんなんピックアップの音に合わせた、っちゅうか弾いてて気持ちいい曲を選べば良いのである。

 それに弾き手の拘りほどには聴き手は音色に拘ってないし、逆に思い込みや勘違いだって多い。

 このことについてはこれまでもジミー・ペイジやジミヘンといった有名どころの事例を取り上げて来たんだけど、今回はブラックサバスのトニー・アイオミを取り上げてみよう。みんなSGのイメージが強いでしょ?ハムバッキングのイメージ強いでしょ?でも1stって、実は何曲かはストラト使ってるんだよね。それにSGちゅうたってP−90積んだスペシャルを彼は永らく愛用してたのだ。ハムバッキング積んだのを弾き始めたのは70年代半ばくらいからではなかったかな?
 P−90ネタで意外なのをもう一つ。大好きなドゥームメタルバンドのSUNN O)))、最早単なる地鳴りにしか聴こえない重低音を全身が揺さぶられるような常軌を逸した轟音で延々と垂れ流すスタイルは芸風の域に達してんだけど、その中心メンバーであるG・アンダーソンはゴールドトップでP−90を積んだレスポールを愛用してる・・・・・・そ、おれが初めて買ったタイプのヤツ。何でも、「ハムバッキングだと低音が締まらない」らしい(笑)。あの轟音で違いが分かるんかいな?

 ・・・・・・要はそんなモンなんである。

 やれディマジオだダンカンだ、いやいやリンディ・フラーリンだリオ・グランデだと、大枚はたいてピックアップを交換するのに熱心な方も多い。それはそれでもちろんダメとは言わない。そらまぁヘビメタやりたいのに持ってるギターがダンエレ、っちゅうんならむしろ積極的に交換を検討すべきだろうとおれも思う・・・・・・そもそもメタルを目指す人がダンエレを買うとも思えないが(笑)。

 でもだからって、凝りすぎてあんまし微妙な差異に拘るのもお金の無駄のように思えてしまう。それならいっそギター自体を買い替えた方が良いくらいだし、短慮にはやる前に、まずは持ってるモノでとことんいろいろ工夫してみるのも良い事だとおおれは思う。


ショボさでは唯一無二の存在なダンエレクトロのリップスティック(画像はコピー品)。
ただよく考えられた構造だと思う。

2016.04.09

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