「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
我、B級ギターを偏愛す(Y)・・・・・・Bill Lawrenceの巻


ビルローレンスといえば、やはりこのバーマグネットのピックアップですね。

 リプレースピックアップのメーカーとしては健在だけど、ギターブランドとしてのビルローレンスは無くなってはや6〜7年になる(※)。

 ローレンスさんとは、「スーパーディストーション」で有名なディマジオのお師匠さんにして、現在のいろいろなリプレースピックアップ職人の元祖みたいな人だ。元々はギブソンにいたのがスピンアウトして工房を構えたのが最初らしいが、ギブソン時代はちょうどブランド自体が低迷していた頃と重なって、あまりパッとしたものは残していない・・・・・・っちゅーか、みんなギブソンにはフツーのハムバッカーかソープバーしか期待してなかったのだな、結局は。
 今はこの世界もドンドン細分化されて、やれリンディフラーリンだ、トムホームズだ、ジョーバーデンだと小うるさいけれど、昔は馬力のディマジオにバランスと個性のビルローレンス、ってな具合で単純だったなぁ。

 さて、この名声に目をつけて新たなギターブランドとして売り出したのが、かのモリダイラ楽器である。ここ、リンゴギターで有名な「H・S・アンダーソン」ってブランドで70年代からやってたけど、アコースティックの「モーリス」の知名度に較べるとも一つ泣かず飛ばずだったので、テコ入れのために新たに立ち上げたのではないだろうか?
 だから、ロゴをよぉーく見ると小さく「By Morris」「Made in Japan」と書かれてある。つまり、ピックアップ以外はレッキとしたジャパンメイドのギターなのである。
 おれはビルローレンスをこれまで2本所有した。今回は思い出話かたがた、この薄倖のブランドについてトリビュート的に書いてみよう・・・・・・って、三味線ぢゃなしにマジいいギターっすよ。

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 初めて見かけたのは、河原町御池の通りの西側あたりにあった・・・・・・ちょっと記憶に確証がないけれど、ワタナベ楽器ってトコだったと思う。それまで使ってたアリアのレスポールの調子が悪くなってきて、代わりになるものを物色していた頃だから1984年くらいのことだろう。おれはシングルコイルの音が好きなのと(何度も書いたようにレスポールもP−90の付いたヤツだった)、バンドでのおれの音の感じ、あと操作系が単純でチューニングが狂いにくそうなことから、次はテレキャスターにしようと思ってた。クリーンな音で鳴らしたときに音のハリとかツブ立ちが良くて、コントロールの類がシンプル極まりなく、トレモロも付いてないからだ。

 グレコ・フェル・トーカイのコピー御三家は言うに及ばず、ヤマハのヘンテコリンなテレキャスもどきやホンモノのフェンダーまでいろいろ試奏してみたのだが、しかし、どれも高域のきらびやかさとは裏腹にピックアップのパワーが足りない気がしても一つピンと来なかった。当時はオールドを再現することばかりに注力されて、ピックアップの磁力の強さは二の次になってたのかもしれない。しかし、同じ出力特性ならパワーはデカい方が何かと具合がいい。ノイズも低減されるしエフェクターのかかりも良くなる。サスティーンも伸びる。何より楽器自体の音が鳴ってくれるから、小細工の必要が少なくなる。

 ・・・・・・で、ビルローレンス。

 最初見たとき、このブランド特有の先端がフックのようになったヘッドストックの形がどうにも中途半端なコピーにしか思えなくて、正直、気に喰わなかった。ドッグレッグの「あの」カタチあってのテレキャスでしょ、って。あと、名前だけ借りて出したブランド、ってイメージも強かった。エラそぉにゆうたかてモーリスでしょ、って。
 そんなわけでどうにも食指が動かず、見かけてから数ヶ月は歯牙にもかけなかったのが、どうにも気に入ったテレキャスが見つからないのでダメ元で試しに弾かせてもらったのである。定価7万円のが2割引で5万6千円だから、そんな上級ラインではないし、ギターに5万円以上出さないのがモットーのドケチだったので、まぁそんなに真剣ではなかった。

 いやもう、ビックリしたね〜。ボディがホワイトアッシュっちゅう割にちょっと重いのが気になったけど、その鳴り方はまさにおれの欲しかったイメージそのものだった。ホントは白で白のピックガードのモデルを探してて、その畳のようなナチュラルカラーも黒いピックガードもシュミではなかったのだけど、いっぺんで音色が気に入って、数日後に金かき集めて買い込んだ。
 それまでのギターがネックの仕込みに角度が付いて、ピックアップ付近のボディと弦の間隔が広いものだったので、ノッペリした雰囲気とでも言うのだろうか、持ったときの違和感には相当のものがあったが、弾いてるうちにすぐに気にならなくなった。何たって音がいい。ディストーションかけるとキンキン過ぎるが、クリーントーンの美しさは抜群だ。

 買って1年余り、ライブに練習に部屋弾きに活躍し、これからもっと材が鳴り始めるってとこで、残念なことにそのテレキャスは盗まれてしまった。おれはコイツとローランドの変態エフェクター「ファニーキャット」だけは今でもムチャクチャ惜しい。そりゃまぁボスのコンパクトエフェクターとかも惜しいけど(笑)

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 それから約15年、

 家では、会社帰りに立ち寄った楽器屋で衝動的に買ったフェンジャパの黒いストラトを弾いてたのだが、本物のフロイドローズが付いとる、っちゅうだけで、どうにもネックもピックアップも良くない。秘蔵のタルボもあるのだけど、音の良さの一方で、ネックが平べったすぎてどうにもシックリ来ない。かといって大枚はたいてこれ以上ギターが増えるのもめんどくさい・・・・・・要は音楽に対する情熱をおれはほとんど失くしてたのである。

 それがある日、ヒマつぶしに入った楽器屋で見つけてしまったのだ。ホワイトブロンドのボディに他に類例を見ない黄色と黒のド派手なピックガードのついたストラトモデル。ローズネックとメイプルネック、それぞれ1本づつ。定価7万くらいのモデルだろうが、プライスタグは実にニ〜ヨンパ!の2万4千8百円!何割引やねん?

 実はそれまでにもブランド撤退によるものだろうが、ビルローレンスのギターはあちこちで投げ売りになってるのは見かけてた。森高千里や奥居香のシグネチャーとかいろいろ頑張ってはみたものの、若者のエレキ離れと少子化は著しく、また円高でギブソンフェンダーがホイホイ買えるようになったこと、人件費の高騰、いろいろ理由はあるだろうが、基本的にコピーモデルに主力を置いてたので、他の国内メーカー同様、さしたる個性も出せないままでブランドとして力尽きたのだろう。
 しかし投げ売りとはいえ店頭に並ぶそれらはせいぜい半額だったし、ほとんどがちょっとヘビメタ入ったようなモデルや、9V電池が必要なプリアンプ付きのものばかりで、あまり購買意欲をそそられなかったのだ。
 そこにこの2本だ。

 防音室の中のマーシャルに突っ込んで鳴らして、おれは若い頃の驚愕がよみがえった。音の太さ、ハリ、ストラトだからテレキャスほど硬質ぢゃないけど高域のきらびやかさ、エフェクターなしでも十分に伸びるサスティーン・・・・・・クオリティの高さは変わってなかった。無論、ヘッドストックの妙な形も変わってなかったけど(笑)。

 どっちも弾き較べてみて、最終的におれはメイプルネックの方を選んだのだが、今はすごく後悔している。ローズの方が良かった、って意味でないのは言うまでもない。2本併せても5万以下なんだし、両方とも四の五の言わずに買っときゃ良かった、ってコトだ。それくらいに良くできている。忌憚なく言わせてもらうなら、本家USAフェンダーのデラックスあたりよりも断然いい。
 こんなすごいギターが2万ナンボで買えるとはどっかおかしいけれど、いい時代だわ、国だわ。

 ボリュームとトーンのノブだけ普通のプラスチックのものに交換しただけで、あとは特にいじることもなく、今も大切に弾いてる。大袈裟ぢゃなしに、これ壊れたら泣くね。それくらい良いギターだ。

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 もし、貴方が程度のいいフェンダー系のギターを探していて、かつブランドにこだわらないのなら、ビルローレンスは間違いなくお勧めできる。おそらく、探せばジャンク品扱いでハードオフとかに出回ることもあるだろう。

 ただし、ほとんど非の打ち所のないこのブランドにも大いなる欠点がある。ある日セレクタースイッチの先のチョボが割れたので、アフターパーツの良く揃った楽器屋に行った時のことだ。

 --------ビルローレンスのストラトなんですけど、このプラスチックのチョボは合いますか?
 --------えっ!?ビルですか・・・・・・。
 --------(それがどないかしたんか?)ええ、はい。
 --------いや〜、ビルローレンスって寸法が特殊で、ほとんどのパーツ合わないんですよ。ま、それくらいなら大丈夫でしょうけど。

 好事魔多し、なのである。


附記:
 これ書いてから気になって調べたら、アメリカでは今でもごく少量生産されているようだ。


今でもアメリカでは細々作られてるみたい。欲しくなってきたぞ。

2006.10.30

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