「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
抽象の円蓋・・・・・・Dome頌




「Dome」名義でリリースされたのはこの4枚。ジャケットの雰囲気と中身が調和した好例

 初期パンクムーヴメントの中の異端児だった「Wire」の、ギターとベースのユニットが、今回紹介する「Dome」だ。厳密に言うと彼ら----ルイス/ギルバート----の数多くのプロジェクトの一つ、という位置づけが正解なのかも知れないが、おれとしてはドームから彼らの世界に入っていったので、ちょっと特別な思い入れがある。

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 そもそも「Wire」なんて知らねぇよ、って人が大半だろうから、まずはそこから説明して始めることにしよう。

 一言で言うと、ワイアーは1977年、パンクムーブメントで何でもありの雰囲気のイギリスに現われた、ちょっとインテリでアーティスティックな雰囲気を漂わせたオッサンパンクバンドであった。ティーネイジャー中心に雨後の竹の子状態でバンドが登場する中、30前後のカタギな職についてた連中が集まって結成された、っちゅうのがいかにもイギリスの音楽の層の厚さを感じさせてくれる。
 音的にもパンクなクセに、熱狂して踊り暴れてホイ♪みたいなのとは対極の、たいへん冷ややかでソリッドなもので、パンクのアホガキぶりに辟易してたスノッブな連中にもっぱら人気を博したのだった。この辺は音的には全然違うけれども、何だかテレヴィジョンに一脈通じるものがある。たしか最後のツアー(最初の解散前の、ね)は、ロキシーミュージックのフロントアクトでのヨーロッパツアーだったと思うが、そのことからもシーンにおける彼等のポジションがなんとなく伺える。

 「Pink Flag」「Chair's Missinn'」「154」の3枚のスタジオアルバムを残して解散。直後には人を食ったような、グッチャグチャにコラージュしまくったライブ盤をリリースしたりしているが、まぁ、この時期にいい思いした人の例に漏れず、その後再結成して、何と2003年には来日公演までしたはずだ。公式ページもちゃんとあったりする。
 ちなみにボーカルのC.ニューマンはソロだけでなく、ちょっと前に書いた「Virgin Prunes」で触れたとおりプロデューサーとしてもけっこう売れっ子になり、80年代のイギリスのオルタナ系バンドのアルバムに名前がクレジットされてることが多い。

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 ・・・・・・で、ドーム。

 最初はたしか、「Lewis/Gilbert」ってメンバー2人の名前でユニット活動が始まったんぢゃなかったか、と思うが、ハッキリ思い出せない。「3R4」ってタイトルのが1枚リリースされてるはずだ。ともあれ「ドーム」って名前が付いて、その名義では4枚のアルバムを発表した。その他にも最初に言ったとおり、流動的にメンバーを加えた色んなプロジェクトでかなりの枚数のアルバムをリリースしている。

 彼らほどジャケットワークと中に収められた音が上手くかみ合ってる例は珍しい、と言える。カテゴリー的にはノイズミュージックに分類されるのだろうが、やかましさやけたたましさは全くなく、ポツポツしたモノトーンな音とミニマルでシンプルなリズムが中心になった、アンビエントハウスの先駆けとでも呼びたい静かなものだ。
 そして別にエコーやディレイを多用してるわけではないにもかかわらず、ガランとした部屋の隅から聴こえてくるような奥行き感が、いっそう淡彩で抽象的な印象を強くするのだが、それらはまさに上に掲げたジャケットワークそのものの世界なのだ。加えて曲のタイトルが中身同様に素っ気ないっちゅうか、シンプルっちゅうか、抽象的なのも特徴だろう。

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 おれがドームにハマるキッカケとなったのは、これまたラフトレードジャパンだった。いやもう「ヤングミュージックショー」や「Fool’sMate」と並んでおれの音楽の方向性に影響与えてますよ。人生誤らせてくれはりましたよ(笑)。

 当時、プロモート用のタブロイドサイズのミニコミみたいなものがレコード店で無料配布されていて、その記事にちょうどリリースされたばかりの「Dome3」が紹介されてた。それにおれは興味を抱いたのだった。実はワイアーが前身であることも知識としては知ってたが、聴いたことはなくて、いきなりポンとこれ買っちゃった次第だ。

 よぉこんなモン日本盤で出したなぁ〜、ってーのが第一印象。アルバム価格を音数で割ったら、メッチャ1音の値段高いやんか!みたいにスカスカ(笑)。音単価(そんなんあるんかいな?)で行くとB・イーノの環境音楽シリーズの次くらいに高い。何だかおれは2,500円で俳句集を買ったような気分になった。

 ところがしばらく聴いてると、この「具を入れ忘れた澄まし汁のような薄口感」が何とも聴き飽きないのである。こりゃエエわ、とすぐに同じく国内盤がリリースされてた「2」を買い、後はワイアーその他にもどんどん対象は広がって、ハマっていったのだった。

 1曲1曲は、スンマセン、覚えてません。何せここまでさんざん書いたようにとにかくミニマルでシンプルな音が身上なので、言っちゃ悪いが抑揚に乏しい。展開もなければサビもない。
 なのに、もう20年以上も経った今でも、ふと何かのフレーズを思い出して、よくよく考えるとそぉいやぁこれって彼らの曲だったよなぁ、と気づくことが多い。

 そんな彼らの抽象性、アーティスティックな傾向が最も色濃く出たのは、ドーム名義ではないけれど「MZUI」だと思う。
 これはルイス/ギルバートの二人に加え、今ではイギリスの一大メジャーレーベルになったミュートレコードのR・ミルズを加えた3人で製作されたものだが、実は彼等自身はまったく演奏をしていない。
 展覧会に陳列したオブジェを観客がいじって出した音、を録音して編集したものなのだ。




MZUIジャケット(再発)とインナーのギャラリーの模様。


 ね!?めちゃくちゃコンセプチュアルでスノッブな感じでしょ?

 音も、バリバリとか、ゴソゴソとか、ブィブィとか、まぁどぉでもいいような小さな音がコラージュされてるだけなのだけれど、独特のミニマルで小部屋っぽい残響感のある、ドーム以上に内省的で抽象的な音群は、不思議な酩酊をもよおさせると同時に、キザな言い方をすると激しくイマジネーションを刺激する。

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 ドームと並行しながら、その後D・ミラーとの共作でかなりポップな「Duetto Emmo」やら、ウマが合ったのか再びR・ミルズと「P’o」やら、と矢継ぎ早にプロジェクトを組みながら、ドーム名義でのラストとなる「4」をたしかウニトンから出した。だんだんと初期の抽象性は薄れて、薄味のテクノバンド的な方向に移っていたが、個人的にはかなりの名盤だと思ってる。

 おれの彼等との付き合いもだいたいその辺で終わったが、その後も「He Said」「H.A.L.O.」「Ocsid」等々の名前を変えつつ、活動は続いている。G・ルイスはどうやらワイアー以外での音楽活動を引退したような雰囲気だが、B.C・ギルバートの方は還暦を迎えてなおソロ活動を活発に続けてるのが嬉しい。

 久々に聴いてみようかな?


ダンディなテクノジジィになったB.C・ギルバートさん(2004年のソロアルバムのジャケット)

2006.07.26

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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