「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ボトルネック・ブルース


使ってるスライドバー2種

 ボトルネックが好きだ。

 夜、仕事から戻って、こうしてパソコンのキーボードを叩いてる合間に、脇に置いたギターでちょっとした手慰みを弾くのだけれど、そんなシチュエーションに、ボトルネックの気だるいフレーズはすごく似合うような気がする。

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 ボトルネック、と言われて分からない人が果たしてこのページ読むのかな?とも思うけど、知らない人のためにちょっとだけ説明すると、ボトルネックとはギターの奏法の一種のことだ。弦を指で押さえるかわりに、指にはめた金属やガラスのパイプ(スライドバーと呼ばれる)で軽くあてるようにして弾く。スライドギターとも言う。

 元々は瓶の細い部分を切ってこしらえてたのでボトルネックと言われるのだ。おれも昔、自作してみたことがある。ヤスリで切りたいところに傷をつけ、糸を巻いてアルコールを含ませて火をつける。いい加減熱くなったところでジュッと水かけると、糸を巻いたところからパチン割れるという寸法だ。

 コリシディンの小瓶をそのまま使ってたのは「スカイドッグ」ことD・オールマン(「いとしのレイラ」のバックでヒヨ〜ンヒヨ〜ンって弾いてるのは彼)だし、人によっては厚手のブレードのナイフ、レンチなんかも使うことがあるらしい。まぁ、比重が重くて硬いものなら素材は何だっていいのだが、軽い物だと音がマトモに出ない。
 おれも上に書いた自作のがも一つよくなかったので、コリシディンならぬ「ベンザ」の瓶を使ってた時期もあれば、海苔の佃煮の瓶をスライドバーにしてたこともあった・・・・・・結局それも使いづらくて、フツーのを買ったけどね(笑)。

 今は安物の赤いガラス製と、一時それが行方知れずになって、仕方なく買い直したジムダンロップのステンレス製とを持ってるが、何だか元から持ってるガラス製の方が使いやすい。と言うのも、はめる指は親指・人差指以外なら何でもいいのだが、おれは薬指派なので、径の細いダンロップでは窮屈なのだ。

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 その音の特徴は大まかに言うと、滑らかで伸びやかな音程変化、絶えずヴィブラートをかけてることによるピッチの揺れや曖昧さ、弦が固定的に押さえられてないための奇数倍音を多く含んだガシャッとした金属的な響き、全部の弦にスライドバ−が触れているためどうしても出てしまう他の弦の音やこすれるノイズ、といったところだ。

 つまりはとても「不完全な音」と言えるし、だからこそとても人間臭い。ちなみにハワイアンのスチールギターも弾き方は同じなのだけど、フツーのギターをこうして弾いた方が、なんだかより生々しい音が出るように思ってるのは決しておれだけではあるまい。

 原理的には一本の指だけで弾くようなモンなんで、ペロペロ早弾きしたりはできない。あくまで符割の大きなメロディを、音符の長さ一杯にシッカリとサスティンが掛かるよう、また、押さえすぎてフレットにスライドバーが当たったり、音程変化がせせこましくならないよう注意しながら、一音一音確実に弾くのが正しい気がする。

 別段、変則チューニングに詳しいわけでもないが、気が向けばDだGだとオープンチューニングに挑戦してみたりもする。レギュラーチューニングでの音のポジションだって即座に出てこないのが、無論マトモに弾きこなせるわけもなく、ハナモゲラスライドなのは言うまでもないけれども、バーボンのロック飲みながら、ヒヨヨヨ〜と弾いてると、結構いい気分になれる。

 音叉の音がなぜ味も素っ気もないかといえば、それは一切倍音を含まない純音だからだが、ボトルネックの音はまさにその正反対、挟雑物だらけの豊かな音と言えるだろう。つまりは「味」のある音なのだ。甘・酸・辛・苦・鹹、全てがそこに含まれている気がする。
 だからあまり余計な伴奏を加えることなく、ただもうギター一本で、弦のワウンドがこすれる音まで・・・・・・もっと言えば「無音」さえもが音楽の一部として味わうような、そんな弾き方が好きだ。

 そんな音色に昼間の陽射しがまったく合わないのは言うまでもないことで、深更の闇こそが響き渡る場としてふさわしいようにも思う。おれは案外正しい所作でボトルネックに接しているのかも知れない。

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 これだけ書いたからお分かりかと思うが、それほど多彩なことがボトルネックでできるわけではない。フレージングにも制約は多く、よほどのテクニックの持ち主でもない限り、勢い、ワンパターンな手癖フレーズが多くなってしまうのも詮無いことだろう。

 しかし、日々の生活のほとんどがワンパターンでダルであること、いろんなしがらみに縛られていること、そしてその中にさまざまな哀歓があることと、ボトルネックのこの不自由さと響きは不思議にダブってるような気がする。

 ・・・・・・そ、つまりはブルースなのですよ。


ハワイアンで欠かせないスチールギター。肩から提げて弾いたら面白いかも。

2006.07.01

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