弁当あれこれ


これが「日光埋蔵金弁当」・・・・・・実は滅多に制作されないみたい。まぁ、ネタやね。

http://ekibento.jp/より

 幼稚園の頃の忘れられない弁当が、2つある。

 「ひまわり弁当」ってのと「良い子弁当」ってのだ。正式な名前は知らないが、母親がそんな風に言ってた。今で言うところの「キャラ弁」っちゅうのんの、いわば先駆けみたいなモンだろう。前者は丸く焼いたハンバーグを中心に、その周りに薄焼き玉子を細かく刻んだものが花弁になっており、ハンバーグの上にはこれまた細く刻んだチーズが格子状に載せてあった。下の方はもう忘れてしまったけど、色んなオカズで花壇の柵やら他の草木を表現してたように思う。後者は大き目のオニギリに海苔で髪の毛、目は何だったっけ?口は確か梅干しか焼きタラコをほぐしたものだったように思う。それが2個入ってて、周囲がオカズになってた。

 もちろん母親の創意工夫によるオリジナルではなく、当時としてはかなり先進的な内容のお弁当の本に載ってたレシピを適宜アレンジして作ってたんだと思う。細かいことは忘れたけど、他の弁当にしてもとにかく毎日、ひじょうに手の込んだモノばっかりだった。これまで何度も書いた通り、ひとえにそれは異常なまでに偏食が激しく、虚弱でしょっちゅう熱出して寝込んでるおれを何とか良くしたいという純粋な親心からのモノだった。それを批判したり揶揄しようって気持はサラサラない。本当に感謝してる。

 ・・・・・・ただ、どうしても食えなかったのだ。

 どれだけ可愛らしくヴィジュアルをアレンジしてあっても、チーズの臭さは耐えられなかった。そしてそれが乗っかってるがために、食えなくはないハンバーグも食えなかった。良い子弁当のオニギリは食えたけど、周りのニギやかなオカズ類はどうしても食えないのが混じっており、それに隣接するのも食えなかった。どぉしようもなくエキセントリックなガキだったよ、ったくおらぁ。

 そんなんだから、熱も出さず幼稚園に行けた日の昼食時間はちょっとばかし憂鬱でもあった。これも以前書いたけど、幼稚園では綺麗なお弁当を持って来たら、先生がクラスの他の子に見せて回る、なんちゅうユニークなしきたりがあって、ありがたいことにウチの弁当はその光栄に浴することがとても多かった・・・・・・今だったら他の子の親から野暮なクレームが入ると思うな、あれ。
 そのこと自体は、子供心にもちょっとばかり誇らしく思えたものの、いざ実食となると箸がどうにもこうにも進まないのである。脂汗流してとまでは行かないものの、どうしても食えなくて泣いてしまったことは一度や二度では収まらない。
 正月のおせちの一種に「睨み鯛」なんてのがある。まぁ要はただの鯛の塩焼きなんだけど、三が日の間は新年を寿ぐためにこれには箸を付けちゃいけないとされている。見るだけ。三日も経てば塩焼きよりはむしろカチンコチンの巨大な干物になってるのを、4日目以降に焼き直したり、煮直したり、デンブにしたりして食べるのだ。幼稚園での昼食時間は、おれにとってはほぼ指を咥えて見るだけの、「睨み弁当」な時間だった。

 幼稚園から帰って、殆ど食べ残しの弁当箱を洗いながら母親はいつも、「ホンマ、どないしたらアンタは食べてくれるんやろねぇ~」とかボヤいてた。それに対しておれは何も言えなかった。前日から入念に考えて買い物して、朝早くから起きて、ひじょうに心を砕いて・・・・・・それで結果が毎日こんな状況では、そらたしかに嫌気がさすってモンだろう。でも食えないモンは食えない、っちゅうのも一方で厳然たる事実であって、小さかったおれにこの毎日のジレンマの繰り返しがボディブローのようにトラウマを植え付けてったのは間違いない。成績の悪い子にどれだけ豪華な参考書や立派な問題集を買い与えたって成績良くならないのとちょっと似てる。

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 今では弁当って大好きなモノの一つだ。割高と分かってても新幹線に乗る時は駅弁買い込んだりするし、気の利いた仕出の松花堂弁当なんかが会議の時に出されると、ちょっとは午後のヤル気が出る・・・・・・でも、コンビニ弁当はちょっとイヤかも知れない。弁当の何が良いと言って、小さな容器の中に展開されるミクロコスモスな感じが良いのである。そ、小宇宙。色んなオカズが色とりどりに詰め込まれながらも、ある種の調和や平衡を保っている・・・・・・それこそが最大の弁当の魅力ではないかとおれは思う。

 それは生来の小物フェチと密接に繋がっている。ドーンと一点豪華主義よりは、あれやこれやが一体感を持って集まってるのが何となく好きなのである。一方ではマルチエフェクター+アンプシミュレーターでスッキリ・シンプルにまとめた方が良いと分かってるにもかかわらず、やっぱしコンパクトエフェクターをボードにびっしり並べてアンプ、それもステレオで2台なんかに出力したいと思ってるおれがいる。タイコだってシンプルな3点セットにするハズが・・・・・・って、これはこないだ書いたな。歳取ったら家、ゴミ屋敷になったりして(笑)。

 だから最近流行ってるタイプの、例えば駅弁で言えば米沢の「牛肉どまん中」や松阪の「モー太郎弁当」、あるいは東京駅の「深川めし」みたいな、肉やらなんやらメインの具材が米の上一面に敷き詰められた丼系のにはあまり食指が動かない(まぁ深川めしは穴子がアクセントになってて、ヴィジュアルは結構好きだな)。同じ理由で吉野家で牛丼を、天やで天丼を、ココイチでカレーを・・・・・・ってしつこいな(笑)、要は店内でお召し上がりはしても、テイクアウトにして家で食う、ってコトも滅多にしない。
 ご飯とおかずが別々で、かつチマチマと色んな食材が、能書きや作り手の思いと共に詰め込まれたようなタイプがおれにとっての弁当なのだ。幕ノ内はだから、一つの理想形と言えるだろう。

 しかしどんな弁当にしたって、家でモソモソ食べてちゃやはりちょっと味気ない。京王百貨店名物の「駅弁大会」ってのがずいぶん昔からあったりして(調べてみたら、コロナにも負けず今年で56回目だった)、真似して今や近所の小さな冴えないスーパーでさえ催事で駅弁売ってるのを見掛けるんだけど、それ買って持ち帰って家で食って何が楽しいんやろ?って思うもん。学校でも職場でも公園でも何でも、とにかく自宅以外で食ってこそ弁当は弁当なのではなかろうか。
 あぁ、そうだ。子供の頃、同級生で家に帰ると弁当が置いてある子、ってのがいたんだった。本人がそう言ってたんだからウソではなかろう。どんな事情があったのかは知らないけど、親御さんが夕食時に不在なもんで、人数分作られたのを兄弟で食べるんだそうな。まだ電子レンジなんてもんが普及してなかった時代だから、多分火を使わせたりしたら危ないって親心からのコトだったんだと思う。でも子供心にも何となく、陽も暮れて他の家々が夕餉の時間に子供たちだけでお弁当を食べてる姿を想像すると、ぶっちゃけとても侘しいもののように思えたのも事実だ。そんな記憶が影響してるんだろう。

 コロナ禍によってニワカにテイクアウトや出前が注目されるようになった。TV観てたら弁当のデリバリーもこれまでになく活況を呈してるらしく、通信販売ですごく遠隔地からのお取り寄せなんかもあるらしいが・・・・・・それを家で食うのかい?っておれは思う。

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 豪華な弁当、ってのにもさほど興味を惹かれない。たしかに「高級弁当」なんてのもいつの間にかそれなりのカテゴリーになっており、一定のマーケットがあるのは事実だ。巣ごもり生活の中のプチ贅沢とかで需要が拡大してるのも間違いないだろう。そんなに東京には金が余ってる連中が多いんかい!?折れて曲がったコトしてはりまんな~!とイヤミの一つも言いたくなるものの、上質な肉をふんだんに使ったステーキが詰め込まれてたり、手の込んだ懐石を経木で出来た多角形のオシャレな折りに入れたりしたのが、1万円とか2万円とかまぁ一般的に考えればベラボウな値段で売られてて、堅調なビジネスになってるっちゅうんだから畏れ入る。ともあれこれらを公園のベンチで食べる酔狂な人はいないだろう・・・・・・まぁ、それ言い出したら松花堂弁当もそうなんだけどさ。

 ただ、それが本来的な弁当の姿か?っちゅうとやっぱしどっか違う。コンビニ弁当のように殺伐として人間味が感じられないのも如何かとは思うけど、どこか携帯食としてのそこはかとないチープさや簡便さがないと、弁当らしさに欠けると思うのだ。
 いつだったか会社の大幹部に随行して出張した時、帰りの新幹線でどうぞ、っちゅうて「美濃吉」だったけかなぁ?それこそ多角形の経木の折みたいなんで、それも二段重になった立派な弁当を持たされたことがあった。今はあちこちに店出して、昔ほどのありがたみは失せてるとは申せ、創業300年の京都ではかなりの老舗だ。やはり大幹部ってコトで最大限の配慮を向こうもしたんだろう。新幹線に乗って早速包みを開く。ガサゴソとは言わない。不織布とは言え風呂敷で包まれてたからだ。

 ------***クン、老舗だけあって、やっぱり美味しいねぇ。
 ------はい。
 ------でもさぁ~、これ、「お弁当」とはちょっと違うよね。
 ------少しそれは思いました。「弁当としての身の丈」に合ってない感じがします。
 ------そぉ?君も思った?そう、ボクも弁当はもっと気楽なのが良いなぁ~。
 ------はい、ですが、まぁこういうのもそれはそれで「アリ」なのかな?とは思いますけど・・・・・・。
 ------それだよね。お客さんが買ってくれる品物が正しい品物なんだよね~。

 この会話の力点は最後のエラい人のコトバだ。ここをおれは試されてたのだと今更ながら思う。随分この方におれは評価していただいたのだが、多分こうした仕事とは直接関係なさそうなどうでもいい会話から、モノの見方や、波長が合う/合わない、あるいは仕事に対するセンスとかを見られてたのかも知れない・・・・・・と思うと今更ながら怖くなるな(笑)。

 ちなみに現在、国内で市販されてる弁当で最も高額なのは実に18万円もするらしい。じゅぅ~はちまんえんっっ!一人前が、だよ!一人前が(※)。最早悪い冗談みたいな法外な値付けのそれは、日光鱒鮨本舗株式会社ってトコが出してる「日光埋蔵金弁当」っちゅうヤツで、器や箸に最上級の日光彫の漆器を使用しているからその値段らしい。中身ももちろん贅を尽くした献立になっており、実はかなりのお買い得になってるんだそうだが、そぉゆうこっちゃあらへんで、って気がするのはおれだけではなかろう。ともあれ他にも1万円、3万円、5万円、10万円とあるんで、物好きな人は試されてみては如何だろう?

 ・・・・・・でもまぁ、やはりどんなに豪華でも、高額でも、店屋モンを買うよりは、それぞれの家庭で拵えた弁当が一番なんだろうね。

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 ともあれしかし、今後おれが自家製の弁当を毎日持ってく生活になることは恐らくないだろう。そもそももぉ会社員生活もゴールが見えて来たし、その前にとっとと切り上げたいと思ってるくらいだし(笑)、かといって今更、弁当持参が必要な職業に就くとも思えないし、それにヨメがマメに毎日作ってくれるとも思えないし(笑)。
 でももっともっと年取ったらどうしよう?買物行くのも調理するのも大儀で億劫になったらどうしよう?

 ここまで考えて少しばかりゾッとした。最近では月払いで契約しとくと毎日デリバリーしてくれる、孤独な年寄り向けの宅配弁当なんかがあったりもするんだった。うわわわ、絶対にイヤぢゃ・・・・・・。



※値段だけで行くと「鳥取和牛まるごと独り占め箱~ギガ盛り~」ってのが現在、約30万円でギネスに載ってるらしいが、肉だけで4.5kg、米やらタレ、幅60cmにもなる一枚板を彫り抜いた容器まで合わせると15kgもあり、ギャル曽根でもムリな量なので対象外とした。一人前のレギュレーションを外す、っちゅう卑怯な手を使っては最早弁当とは呼べないと思う。

2021.01.30

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