世の中、料理上手な人が多い一方で、根本的に料理がメチャクチャな人も多い。そぉいや日曜日の昼間、街行く若いネーチャンを捕まえてお題の料理を拵えさせて、その無知ぶりを嘲笑うってな寸法での下司で悪趣味なTV番組があるが、若いネーチャンだけでなく、主婦でしょっちゅう食事を拵えてる人にだってとんでもないケースはものすごく多い。クックパッド見てたら分かるでしょ?オマエそもそも自慢たらしくこんなとこにレシピ載せる資格ねぇよ!!ってツッコミ入れたくなる人だらけだもん。
原因を味盲症------所謂「味オンチ」-----に求めることも可能だろう。実はその出現率は案外高く、昔、何かの本で読んだところでは何と女性の25人の一人くらいはそれらしい。不思議なことに血友病の逆で、男性の方が確率的には低いみたいである。
反感を承知で敢えてハッキリ自慢しちゃうけど、おれはかなり料理が上手い方である。魚を三枚に卸すのも、野菜類をいろいろに刻むのも、フライパンや中華鍋回して手早く炒めるのも、天麩羅やフライ・唐揚げ等を美味しく揚げるのも、切り身をサッと煮るのも、圧力鍋を駆使して煮豚やカレー・シチューその他を拵えるのも、餃子や焼売・ワンタンを餡から作って握ったりもお手の物である。ぶっちゃけ新婚当初、殆どの料理はおれがヨメに教えたのだった。
しかし、器用/不器用も若干影響はしてんだろうけど、調理技術の大半は学習と経験、あとは多少の試行錯誤のもたらしたものに過ぎない。つまりは料理本を見ながら、あーでもないこーでもないといろんなことをやりながら学べば、誰だって一通りのことはできてしまうのだ。家庭料理のレベルでセンスなんて一切関係ない。要はたまたまおれが早くからそぉゆうことを数多く習得してただけのことなのだ。
街頭で無知ぶりを晒してるアホなネーチャン達だって1年も料理教室に通って、フレンチだとかイタァ~リアンだとかなんとかややこしいことを言わず、ベーシックなモノを中心にみっちり修練を積めば、見違えるようにいっぱしの料理上手になれちゃうだろう。ついでに飲食店の厨房かなんかで、大将に怒鳴られながらキャベツの千切りでも死ぬほどこなせばなお宜しいかも知れない。
ケンカとセックスと料理は似てる。上手くなるには場数踏むのが一番、って点で。
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あとは味付けだけであるが、冒頭に書いた通り、世の中意外なほどに味オンチが多い。ネットの人生相談なんかでも、破壊的な料理の味付けのヨメに悩んで離婚を考えてる人の投書をたまに見かける。ハタから見たらかなり笑えるんだけど、当人にとってはとても深刻で切実な問題だろうと思う。これから先の人生、アヴァンギャルドな料理を追従笑いで食い続けるっちゅうのはたしかに拷問に近い。イヤ実際、そのうち登場したりしてね、「マズい料理プレイ」みたいなSM(笑)。
だから調理に欠かせないのは鍛造の包丁でもなければ打ち出しの鍋でもない。100均で売ってる計量カップと計量スプーンである。後、強いて付け加えるならば比例についての知識と計算力だろう。自信のない方は小学生向けのドリルでもやればよい。これも100均で手に入ったりする。つまり315円で揃う。
大匙1杯は15ccだ。
中匙1杯は10ccだ。
小匙1杯は5ccだ。
カップ1杯は180ccだ。最近は200って教えるケースが増えて来たけど、大匙との関係で行くと180単位の方が計りやすいし、1/3杯で悩まなくて済む(笑)。
めんどくさがらずにこれらをチャンと使い分けながら、作る量に合わせて加減すりゃいいのである。肉の量が200gって書いてあるレシピを100gで作るんなら全部半分にする、400gの素材を1kgで作るなら全部2.5倍する。そぉゆうこと。
そうそう、濃縮タイプのめんつゆだって、キチンと希釈すれば何にだって使える。おらぁ先日までの一人暮らしで、すべての煮物はこれに多少砂糖や酒加えて拵えてたが、何の問題もなかった。
結局、料理をおいしく作るコツは、まずは何はさておきキッチリ計量することに尽きるのである。そらまぁ手早く炒めないと野菜はグジュグジュになるし、ジックリ煮込まないとスネ肉は硬い。それはそれでとても大事なんだけど、食えるにはなんたって甘味・酸味・塩味・苦味・旨味等の「味」が整ってないとどぉにもならない。
花村萬月がエッセイだか小説だかでまったく同じことを書いてたと思う。たとえインスタントコーヒーでもキッチリ計量して作ると美味い。料理なんてものの8割は計量で決まるって。
味付けのヘタな人の話をよくよく聞くと、ここを疎かにしてるケースが大半だ。目分量で味付けをすることは、そもそも何の基礎もないのにいきなり楽器のアドリブをかますのと一緒だ。それは単なるデタラメに過ぎず、上手く行く道理がない。
ちなみにパンクぢゃなんぢゃと標榜しつつ、料理についてだけはおれは超保守的である。また、リゴリストでもある。これみよがしな創作料理、なんてーのもまったく興味ない。いや、ホントに美味い創作料理に出会ったこともなくはないが、まぁ大抵は思い付きとアイデアの押しつけの、ゴミみたいなヒドい料理ばかりだった。
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そうそう、随分昔のことになるが、料理に詳しいことから賄いのオバチャンの指導をさせられたことがある。何人かのおばちゃんがいて、輪番でメシを拵えるんだけど、どうにも一人がいつもシュールな味付けになるのだ。いつも根本的にどこか間違ってる。なもんでおれはその人を集中的に観察してみることにした。
たまたまその日はカレーだったんだけど、厨房に行くとなんだかオロオロ・アタフタしてる。そぉいやこの人いつでも、そんな大した料理作るワケでもないのにアタフタしてるよなぁ・・・・・・。
------どないしました?
------いや、何だかカレーの味が違うな、って・・・・・・
------ちょっと味見させてください。
小皿にとって舐めてみるとたしかに違う。とにかく辛いもの好きのおれでさえ耐え難いほどに辛い。そして何とも言えない味がする。
------フツーに市販のルー使ったんですよね?
------いえ、今日はカレー粉を使いました。
------何人分作るのにどれだけ入れました?
------これを一缶ちょっとですけど。
示されたのはSBの赤いカレー粉の業務用のヤツだ。400gも入ってる。
------あの~、缶の横に標準的なカレーライスの作り方が書いてあるでしょ?ちゃんと計りました?これ、10倍くらい入ってますよ。
------・・・・・・
------あと何入れたんですか?
------・・・・・・ケチャップとソース、醤油を少し。
------少しぢゃないでしょ?これ!?
------どれだけ入れたんですか?ちゃんと計りました?何だか味噌みたいな味もしますよね、これ。
------・・・・・・
このオバハン、自分に都合の悪いことがあると押し黙るのである。心の中で「死ね!ボケ!クソババァ!」と罵りながら、おれは柔らかく追い込みを続ける。
------何人分だったらこれだけ、ってちゃんと計らないことにマトモに味は付くワケないでしょ。
------・・・・・・
------料理は足し算ちゃうんでねぇ・・・・・・決まった量を決った割合で入れるからマトモな味になるんですわ。
------・・・・・・
------最初にカレー粉ドバドバ入れたとこからアウト。修正不能でっせ。入れ過ぎたモン、何を足したってどもならんです。
------・・・・・・
------後から辻褄合わそうとせんと、まずは標準的な作り方をチャンと読んで、その通りやってください。
結局のところ、たんにオバハンが出鱈目で横着なのが露呈しただけだった。そして得てしてこぉゆう人に限っていくら言ったって改めない。不思議なことにアタマの悪い人ほど頑迷だ。否、むしろ逆で、注意されたり指導されたりすると片意地になって学習しないもんだからアタマが悪くなるのかも知れない。
それから何度か同じようなことがあったけど、それでもちっともこのオバハン、改めようとしない。想像するに、僅かの手間暇をどうしても惜しんでしまうカテゴリーの人のようだ。仕方ないんで辞めてもらうように持ってった。ナニ、特段の陰険な手段を講じたワケではない。正しい計量を行うよう、毎日毎日注意と指導をシンネリネッチリ続けただけのことだ。辞めて欲しい人ほど丁寧に教えるに限る。そうしたら根が怠惰なだけに必ずジレて音を上げる。
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・・・・・・と、はしなくもおれの性格のイヤな部分までバラしてしまったけど、最低限キチンと計る手間ヒマさえも惜しんでマトモに料理なんて出来るワケがないのである。それはもぉ絶対だ。
しかしこの点で、すぐにウゼェだのタリィだのとほざいて根気の欠片もなく、義務教育出たにもかかわらずマトモに九九さえもできず、食べることなんて当たり前でケータイの通信費の方が大切な、ベンリになり過ぎた時代の若者が世の中に溢れる今、料理とは案外ハードルの高い世界なのかも知れないな、とも思う。 |