お好み焼きの話 |

これが我が家秘蔵のお好み焼き専用鉄板。
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「大阪の家庭にはたこ焼きの鉄板が必ずある!」などと言われるが、お好み焼き専用の鉄板を持ってる家はそう多くない。しかし、「だからたこ焼きの方が普及してる」とするのはいささか早計で、鉄板どころか専用テーブルが普及してたとするのが正しい理解であるように思う。
最近はどうか知らないが、昔は真ん中にガスコンロが仕込まれた卓袱台のある家はひじょうに多かった。安っぽい合板とは申せ、家庭にお好み焼き屋みたいな座卓があるワケだ。真ん中の長四角の蓋を外すとA3サイズくらいの鉄板が出てくる。たこ焼きの鉄板と交換できるような仕様は後年に至って付加された記憶があるし、鍋に使うものなら長四角である必要はないワケで、やはりあれはお好み焼きや焼きそば専用だったのだろう。
どっちがより日々の食事として身近か?といえばそれは断然お好み焼きに違いない。たこ焼きはどこまで行っても「おやつ」や「軽食」の域から出ることが不可能だけれど、お好み焼きはそれで立派に一つの食事になってるからだ。おまけに副食にもなる。
今日はそんなお好み焼きについてあれこれ書いてみよう。テーマがテーマだけに気の向くままお好みで、だな。
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実は我が家にはお好み焼き専用の鉄板があったりする。おれが生まれる遙か以前からあったそうで、推定5~60年物の鋳物のメチャクチャ重たい鉄板だ。もう親が歳取ってしまって、重たいものを流しの上の棚から下ろすのも大義になったっちゅうんで実家から譲り受けたのである。何せお好み焼き以外の用途に一切使われることなく何十年も経てるんで、油がすっかり馴染んで黒光りしたそれは、重たいってことを除くとひじょうに使いやすい。
お好み焼きは餅と同じで、殿様の子にトロ火で焼かせた方がいい(ちなみに煎餅は貧乏人の子に焼かせろと言う。しょっちゅう返していないと真っ黒焦げになるからだ)。どちらも熱がジンワリと全体に回らないと美味しくないから、イライラしながらやっちゃダメなのだ。従ってフライパンでだって焼けなくはないけれど、今時のフライパンは笑えるほど薄いのが多いから、中まで火が通ってふっくらした頃には表面が焦げすぎたりコワコワになったり、あるいは焼きムラができたりしてこれが結構むつかしい。
その点、分厚い鋳物のコイツは、ダッジオーヴン同様炎の熱が突き抜けることも無く、じんわり・まったりと鉄板全体に回って失敗がない。おまけに鋳造ゆえ目に見えない気泡や凹凸が無数にあるのか、油が馴染むと、特に油を引かなくてもくっつくことがない。およそ焼く料理で最も腹立たしいことは、鉄板にくっついてグジャグジャになることだと思う。それがないのは本当に気分がいい。
うちの流儀は古典的なお好み焼きだ。キャベツ細かく刻んで、ネギもちょっと入れて、紅ショウガや天カス入れたところに薄く下味をつけたメリケン粉を溶いたものを合わせる。むきエビを入れたり、ネギの量をうんと多くしたりすることもあるが、昨今流行りのチーズだとか餅だとかキムチだとかの変化球は投げない。あくまでオーソドックスで昔風の、大阪の街角のお好み焼き屋で食えたお好み焼きだ。
豚バラを並べた上にその生地を流して、いい加減火が通ったところで、その時の気分で窪み作って卵を割り落としたりして裏返す・・・・・・実にそれだけのシンプル極まりないモノである。蒸し麺を片面に張り付けたモダン焼きにさえしない。
ただ、常々申し上げてるようにシンプルなものほどむつかしいのも一方で事実であって、例えば生地とキャベツ類を合わせるのは焼く直前、配合にしたって引っくり返した時にバラバラにならない程度に粉は少なめ、エビは混ぜ込んでも肉は混ぜ込まない、また薄く延ばさず、ある程度の厚み(3cm前後)が必要で、かつ生地が緩くてデレ~ッと流れ出すようではダメ、それにあまり何度も裏返すよりせいぜい3~4回までに収めた方が食感がいい・・・・・・等々、拘りだすと止まらないほどの重要ポイントがあったりするのだ、これが。
もちろん焼き上がってからも油断してはいけない。見栄えを良くするためにあまり近頃は見かけなくなったように思うが、昔はソースを塗る前にコテでカッカッカッカッと縦横に軽く切り込みを入れたものである。その方がソースの絡みが良くなって美味いからだ。また、演出なのか何なのか、ソースを鉄板にまでこぼしてジュージュー言わせる店が今は増えたけれど、実はあれだとソースが焦げて苦くなるから止めた方がいいと思う。マヨネーズが当たり前みたいな風潮もおれ的には「?」だ・・・・・・ま、お好みなんだから掛けたい人は掛けりゃエエんだが(笑)。
ソースは大阪系ならやはり「イカリ」、神戸系なら「オリバー」ってな拘りがあるかも知れないが、まぁ好き好きだな。とんかつソースとウスターソースを適宜ブレンドして、隠し味に醤油やケチャップなんかもちょっと入れたりして好きにしたらいい。青のりや削り粉、人によっては芥子や七味なんかがあっていい。ただそれらも掛け過ぎると元々の味が分からなくなるから、少し足りないかな?っちゅうくらいがホントは美味かったりする。
出来上がりを皿に取って食べるのは、お好み焼きをもっとも不味く食べる方法だろう。だって水気ですぐにベチャベチャになるやんか。箸でグジグジと突っつきながら食べるのも感心しない。やはり、鉄板の上で両面がカリッとして熱々のところをコテで器用に一口大に切り分けながら頬張るのがおれは一番美味いと思う。
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お好み焼きのルーツがどこにあるのかは良く分からない。ある人は日本古来のものだっちゅうし、ある人は韓国のチヂミとの相似を指摘する。今のようなスタイルが定着したのは戦後の食糧難の時期から、とも言われる。何かと古い大阪のことだけは覚えてる親も、「昔は一銭洋食とか洋食焼きゆうてペラペラやったけどなぁ~」と言うだけで、いつからこのような形になったかは知らないようだった。
ただ、少なくともおれが物心ついたころには既にキャベツと生地を合わしたものを基本とする様式は完全に出来上がっていた。生野区の母方の祖父母の家に行った時など小遣いもらうと必ず裏にある田島商店街に行くのだが、角の甘党の店の表で焼きながら売ってる1枚25円の「栄養焼」も、いい加減くたびれた7UPの琺瑯看板の出たオバチャン一人でやってる小さなお好み焼き屋も、みんなそんな作りだった。
あくまで私見だが、今のスタイルの成立は戦後だろうと思ってる。同時にな~にが千利休の「麩ノ焼き」ぢゃ!?アホか!?と鼻で嗤ってもいる。ヒントは上で触れた「栄養焼」の「栄養」って言葉にある。
お好み焼きを観察してると、そこにはある種の強烈な合理精神が存在してることが見えて来る。一つは素材に極力ムダを出さず、炭水化物・蛋白質・繊維質等の栄養素をバランスよく含み、それだけあれば食事が完結するような「完全食」指向であること、もう一つは鉄板とコテだけで調理からなにから全部できて、食器洗いも最低限で済む簡便さだ。宇宙食の発想っちゅうと大袈裟かも知れないが、かなりそれに近いモノが感じられる。少なくとも文化鍋や吉岡鍋等のいかにも戦後ノリな合理精神にどこか通底していると言ってもあながち的外れではないだろう。
あらゆるものが不足する敗戦の焦土の中、なるだけカンタン、かつ手っ取り早く作れて、安価で、カロリーもそこそこあって美味い物が求められていたに違いない。そこで配給物資である粉を使って、過去のそれこそ一銭洋食やチョボ焼き、たこ焼き、チヂミといったいろんなものを参考にしながら自然発生的に、元々粉食文化の素地の強かった大阪界隈で生み出され、広まったんだろうとおれは睨んでいる。ちなみに大阪では小麦粉のことを未だに「メリケン粉(つまりアメリカの粉)」と呼ぶが、その辺もひょっとしたら関係があるかも知れない。
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さてさて、ここまで語ってもう一方の西の雄、広島風お好み焼きについて触れないワケにはいかないだろう。
おれは大阪人だが、別にホームタウンデシジョンの塊のような大阪ナショナリストではないので、実はこれはこれで大好きだ。所用で広島に出かけた時などオーバーカロリーも省みず、数軒ハシゴしたりもする。
良く、どっちが美味いか?なんてバカな議論があるけれど、そんなもんどっちも美味いやんけ!としか言いようがない。焼き飯とピラフは似通った料理だが、その優劣を比べたってそもそも意味がないように、大阪系お好み焼きと広島系お好み焼きは似て非なる、世界の違う食べ物なのである。いささか甘ったるいあのおたふくソースも、なぜかキャベツの甘味と合わさってもクドさを感じない。
ただ、あくまで個人的な趣向を言わせてもらうと、モヤシを入れるのが広島では標準仕様だけど、実はあまり好きではない。
いや、別にモヤシが嫌いなわけではない。しかし物価の優等生の一つであるモヤシは不思議な食べ物で、淡白でそんなに強い存在感を発揮するようには見えないくせに、案外焼き物や炒め物に入ると前に出てくる味なのだ。また、ナカナカあのシャキッとした食感を活かして料理に組み込むことがむつかしい食材でもある。シナシナになったモヤシは少しも美味くない。そんなんだから、おれはモヤシはモヤシだけを使った料理が好きなのだ。同じ伝で、焼きそばにモヤシも美味しくないと思う。
もう一つ言わせてもらうと、広島風お好み焼きに白ご飯は合わない。どしたってキリッと冷えたビール、それもキリンラガーみたいに苦味がシッカリ効いたのが欲しい。コイツがなくてはあの甘さばかりが目立ってしまう。いやまぁ、正調お好み焼きにだってやっぱビールなんだけどね(笑)。日本酒でもウィスキーでもワインでもなくビールだ・・・・・え?チューハイ!?そんなんお好み焼きの味が台無しやんか!
大阪だろうが広島だろうが、いずれにせよお好み焼きに合うのはやっぱし飲み口がサッパリしたビールに限るな。
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ああ、こんなけ書き散らかしたら猛烈に食いたくなってきたぞ・・・・・・よし!!ビール買ってきて今夜はお好み焼きにしよ~、っと。
ところで、英語で「お好み焼き」ってどう言うんだろ?”Anyway You Want Japanese Pizza(Pancake)”とでも言えばいいのかな?誰かおせーて。 |

お好み焼きを箸で食うヤツぁ~、わしゃ認めません!(笑)
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2010.06.19 |
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