「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
名前とは大違い、地獄温泉

 この前は「寒ノ地獄」だったが今度はズバリ「地獄」。あーおっとろしー。

 噴石除けのいかつい避難壕が並ぶ道を上がり、火口縁からモクモク噴煙の昇る底無しの巨大な穴を覗き込むのは感動する。艸千里も米塚も、霞む外輪山の景色も素晴らしい。秋の阿蘇の中岳は観光客で一杯である。近づくと、容姿は日本人と一緒だがコトバが違った。
 最近、日本の有名観光地は日本人よりも、台湾・韓国を始めとする東南アジア諸国からの観光客の方が多い。そーいや秋吉台でも同じ状態だったな・・・・・・。日本人は金が余ってんだか何だか、これ又外国行って、一昔前の日本観光の欧米人みたいにワケ知りとカン違いの恥を晒してる。

 まーいーや、今日は小難しいハナシやない。秘湯だ秘湯だうれしいなっ、と。

 ・・・・・・・・・・・・

 この阿蘇内輪山の一角に地獄温泉はひっそり建つ。少し下れば垂玉温泉とゆーのもあってこっちのたたずまいもナカナカだ。その内紹介したい。
 ひっそりとはいえ、ショボい民家みたいなのではない。名を清風荘と云うこの旅館、数寄を凝らした民芸調の造りで、ドッシリした立派な1軒宿である。玄関先にはバカデカい提灯がぶら下がる。

 ここは「雀の湯」とゆーのが有名だ。要は鉱泥湯の一種で黒いドロドロの湯が露天風呂になってる。何でスズメなのかとゆーと、湧き出す音が囀りに似ているからだそうで、その気になって耳を傾けてみたがよく判んなかった。別府やニセコの鉱泥湯よりはやや薄くてザラつく感じである。
 無論、ここの風呂もそれなりに良い。やや民芸調がコテコテ過ぎ、あざとさを与えるのは欠点だが、観光客相手にやってる以上、これ位の過剰演出は止むを得ないトコだろう。

 さて地獄温泉の源泉は、宿より200m程山を上がった所の噴気地帯である。道路脇からガレた沢一面に湯が湧いて、川になって流れてる。探すと丁度頃合いの湯加減・深さの箇所が幾つもある。こーゆー時は躊躇せず入るに限る。周囲は誰もおらん。いや誰かいても入ってただろうな・・・・・・。

 穂の開いたススキを見ながら一つ一つ丹念に浸かる内に、妙なモノに気付いた。上方の巨岩にシメ縄が張られ、小さな木の鳥居が建っているのである。岩の下にトタンの覆いもある。何だろう?温泉神社にしてはボロいな。
 見に行こうと上がりかけた時、クルマがやって来た。オッサンがスタスタと岩の方へ登って行く。追っ掛けて私は尋ねた。

 --------何があるんですか?
 --------ん?これか。ここで湧いてるの瓶に貯めて、持って帰るんだ。
 --------温泉なんですか?
 --------いや。水で薄めて飲むんだ。何にでも良く効く。食べ過ぎた時なんか、特に良く効く。ホレ、ちょっと舐めてみ。飲んだらダメだで。

 勧められて私は、トタンの下の岩の割れ目から染み出す液体を、恐る恐る舐めてみた。

 ウゲッ!何やメチャメチャ酸っぱいやないか!

 硫酸か塩酸か硝酸か判らんが、それは物凄く強烈な「酸」だった。加えて不思議なことに、周囲で熱湯が出てるのにそれだけは冷たかった。

 --------ワハハ、すごいだろ?これでジュース作っても美味いんだ。

 ひとしきり講釈垂れてオッサンは帰った。私は荒涼たる沢に一人残され、のぼせた身体を風に当てながら、も一度それを舐めたのだった・・・・・・。

Original 1996 Add 2004
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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