姫路市のはずれ、唄のうまい力士で有名だった「増位山」のシコ名の由来となった小高い山がある。一帯は閑静な住宅街で、その奥まった所に「梅鱗館」という古ーい一軒宿が建っている。明治十何年の創業とかで、ナカナカに重厚な門構えなのだ、これが。老舗の雰囲気がある。
ここが「迷湯」シリーズの第一回目、謎の「増位温泉」(ホントにこう呼んで良いのかさえも迷ってしまうが・・・)なのであった。
古い地図には確かに温泉マークがあるが、現在の物には見当たらない。銭湯だったらどうしようとか色々考えながら、半信半疑でともかく行ってみた。部屋に通されて窓を開けると、すぐ近くにダイエーが見える。とても温泉のある場所には見えない。他にお客の姿もなく、館内は静まり返っている。だんだん不安になってきた。まあ、何はともあれフロに行こう。
岩風呂みたいな作りで、これまたえらく古めかしい浴室。何と!湯が真っ青やないか!マリンブルー!
確かに、真っ青の泉質は世の中に存在することはする。「正苦味泉」といって、北海道のオンネトーの湯の滝や、極端に高温の硫黄泉の一部、例えば別府の海地獄なんかがそうなのだけれども、割合珍しいのだ。というか、めったにない。
どだい、「姫路市街の外れ」というイメージと全然結びつかないではないか
・・・・・・で宿のおばちゃんとの会話。
--------あの、湯が青かったんですけど・・・・・・
--------ああ、あれ、ええでしょ!?あれね、効き目薄いからバスクリン入れてんねん。よーあったまってええよー。
--------えっ?
--------でもね、冷泉やけど、ホンマにちゃんと湧いとるんよ。
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何ともはや、パンクと言おうか、アナーキーと言おうか、温泉のプライドが無いと言おうか、えーかげんと言おうか、ユニークな温泉(?)ではあった。当然ながら、泉質も温度も効能もみーんな不明である。しかし、ここまで悪びれもせず開き直っていると、ある種のサワヤカさがあるのも事実である。
それからおばちゃんは、部屋の天井がどこやらの、公家だか貴族だか天皇だかの別邸から移されたとっても凝ったものであることや、そのバスクリンのアドバイスが、離れに長期滞在している出張中のサラリーマンによるものだとかを色々得意気に話してくれたのだった。冒頭の由来もそうして聞いた。
誤解のないように申し添えると、この旅館、古風な建物、渋い部屋、閑静なたたずまい、料理のかわいらしさ、交通の便利さ、そして驚異的な値段、どれもこれもオススメである。わざわざ姫路に泊まりがけで行くこともそうあるまいとは思うが、もしセントラルパークとかの宿泊場所にするなら、塩田温泉なんかよりも、個人的には良いと思う。だって一泊二食で6500円だもんな。
興味のある方はどうぞ・・・・・・。ちなみに値段は3年前のものです。 |