分かっちゃいるけどプラシーボ

分かっちゃいるけどプラシーボ

これがそのマグネループ。

http://www.amazon.co.jp/より

　「プラシーボ」、あるいは「プラセボ」ってコトバは今ではすっかり一般的になった感がある。通常は「偽薬」って訳語が与えられており、要するにちっとも効かないニセの薬って意味だ。
　最近だとグルコサミンに薬効は全くないってコトが発表されたりしてた。そんなんで「グルグルグルグルグルコサミ～ン♪世田谷育ちのグルコサミ～ン♪」ってＣＭもパッタリ見なくなってしまった。ちょっと耳に残るフレーズだっただけにいささか残念ではある･･････もちろん、買う気はサラサラ無いんだけれどね（笑）。

　かように人を食ったイントロで始めたことからも、みなさん容易に想像が付くだろうが、狷介固陋なおれであるからしてこのテのモノについては全く信用してない。

　それでも、だ･･････ってな話を今日は軽くしてみたい。

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　若い頃にスノボで何度も大転倒した挙句、風呂で首のストレッチを無理やりやってて余りに強く前傾させ過ぎたのか、ビックリするような音でボッキィ～ン！とか鳴ったり、人より頭が大きかったりといろいろ複合的な要因が絡んでるんだとは思うけど、とにかく肩凝りはこの２０数年来慢性化した状態で、そんなんだからしょっちゅう首を捻ってる。
　実はヨメも運動に執念燃やしてるワリにはけっこうな肩凝りさんなモンで、そんなこんなで我が家のアンメルツ消費量は異常なレベルに達してたりもする。１５０ｃｃ入り徳用サイズみたいなのを月に３本づつくらい使ってるのである。当然チマチマ買ってては追い付かないからいつもまとめ買いである。出掛ける時もカバンには必ず忍ばせてる。

　ある日会社の廊下でいつものように首を回してると、違う部署の仲の良い同期の友人に声を掛けられた。

　------辛そうじゃん！？
　------うん、もぉこら治らんねぇ～。
　------いやぁ～、おれもさぁ最近運動不足で肩凝っちゃってさ･･････で、これ買ったんだ。
　------ん！？

　うわ！出た！ネクタイを緩めて見せられたのは、ザ・プラシーボと言える磁気ネックレスだったのである。

　------効くのん！？
　------効く効く！これが効かなくなったら本当に医学的な治療が必要なんだよ。これ、良いよ。

　磁石の肩凝りに対する効果はぶっちゃけ「ない」と言われている。なるほど実際血液中のヘモグロビンには鉄分が含まれており、磁力によって引き寄せられないことはないみたいだが、そのために必要な磁力は２ステラ以上は必要だとも言う。これがどれくらい強力か？っちゅうと１㎠で８ｋｇの鉄を吸いつけるくらいなんだそうな。ムチャクチャに強力である。ちなみにＭＲＩの磁力は１～３ステラだから恐ろしく強力な磁石ってコトになる。ＭＲＩで肩凝り治ったってな話は寡聞にして聞いたことがないけどなぁ･･････。そんなに磁石が良いのならギターのピックアップでも肩に載せれば良いかも知れない。ディマジオの「スーパー・ディストーション」とかセイモア・ダンカンの「ダイムバッカー」、あるいはＥＭＧの「８１」なんかやったら強力に効きそうな気がするで（笑）。
　･･････で、売られてる磁気ネックレスの磁力がどれくらいか？というと最大で２００ミリステラらしい。０．２ステラである。つまりヘモグロビンを引っ張れる１／１０。そもそもの薬効が怪しまれてるのに上限規制があるのも誠にヘンな話だが、医療機器認証基準がチャンと存在するのである。

　彼とはしかし仲が良いのでこんな磁気ネックレスくらいでコトを構えたくない。おれは素直に彼の助言に従ってみることにしたのだった。

　薬局に行くと、稲川淳二が「ガキィ～ン！スマホっ首になってたんです」ってＣＭやってる、ピップエレキバンのマグネなんちゃらってのがサイズ別にブラ下がってた。能書きを読んでみると１５０ミリステラが４個に７０ミリステラが１６個と何かもぉとにかくふんだんに配置してある印象。全部合わせると２ステラ近くにはなる。値段は２，０００円くらいしやがる。とは申せ普段その店でアンメルツ買いまくってるオカゲでポイントが貯まってて、実際はかなり安く買えたのだった（笑）。

　早速パッケージから取り出して首に巻いてみる。当然ながら暖かくも冷たくもピリピリもチクチクも何も感じない。でもまぁ、そんな邪魔になるモノでもなし、鰯の頭も信心からとそのまましばらく巻いてみることにした。

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　思えば磁石って疑似科学のマストアイテムかも知れない。最近でもあるのかどうか知らないが、ＳＥＶだとかナントカ、二昔ほど前はクルマの燃費改善に効くとか言って通販で盛んに売られてたような記憶がある。今でもあるのかどうかは知らない。燃料パイプに巻き付けるだけで強力な磁力によってガソリンの分子が整列してどーちゃらこーちゃら、ってな尤もらしい理論が謳われてたっけ。
　大体そんな容易かつ劇的に燃費改善効果が得られるのなら、しちめんどくさくてコストもかかる吸排気系のデバイスなんかより先に、自動車メーカー各社挙って採用しそうなモンだけど、ついぞそういった純正採用例を聞いたことがない。このことからしても、効果がないのは明らかであろう。

　これに会社の後輩がハマったことがある。まだ寮で暮らしてた頃だ。たしか結構な値段出して買ってたと思う。あまりにも効く効く、燃費が良くなるだけでなく吹け上がりや伸びまで良くなるわ（そんなに回したら燃費は悪化するはずなのはガキでも分かることだろうに･･････）とうるさいので、一計を案じたおれはそいつが留守の間にコッソリそのワケの分からないパーツを外しといて、それでクルマに同乗させてくれと頼んだのだった。

　------ホント、乗ったら分かるよ。全然違うって。
　------ふ～ん、マジで良かったらおれも付けてみるわ。
　------ほら、こうして車道に出るだけでも違う。ツキが良くなる。
　------（必死で笑いを堪えながら）そっかなぁ～？
　------ホンマ、疑い深い人やなぁ～。

　そんなんで高速をちょっと走り、峠道を上がったトコで休憩する。

　------な？エンジンすごい回るし、燃費も良くなってるんよ。音も静かんなったし。
　------･･････あの、これ。

　やおらポケットから件のミニ竹輪を縦割りにしたようなパーツを取り出して見せた時の彼の茫然とした表情、っちゅうかアホ面は忘れられない（笑）･･････まぁ、中身もアホな彼はその後も意地になって装着してたが、その効能について吹聴しまくることはピタッと止んだのだった。

　最近、トヨタが純正パーツで燃費が良くなるアルミテープ、っちゅうのを売り出したらしい。ボディ表面に溜まる静電気をそこに集めて逃がすことでハンドリングは良くなるわ燃費が良くなるわと良いコト尽くめみたいに書いてある。純正パーツなんだからそれなりにちゃんと試験を重ねた上での販売だろうとは思うけど･･････天下のトヨタもちょとヤバいんぢゃないかとおれは密かに危惧したりする今日この頃である。

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　原ヘルス工業の「バブルスター」というのが流行ったこともあった。お取引先のエラいさんがスッカリこいつにハマッて、余りにも勧められるモンだから行きがかり上仕方なく会社で１台購入した。たしか１０ナン万円したと思う。迷惑な話である。
　しばらくして送られてきたのは、使い捨てタオルを格納してるケースを一回り大きくしたくらいのクリーム色の筐体から蛇口と吸い込み口が飛び出してるもので、どうやら壁に取り付けて使うみたいである。後はスイッチだけってシンプルさだ。
　まずは試してみようってことになって、バケツに水を汲んで吸い込み口を突っ込んでスイッチを入れる。グワ～ンってなひどく大きな音で水が吸い込まれ、それなりの勢いで蛇口から水が吐出される。ボディを持ってる手が白蝋病になるのではないかちゅうくらい振動が激しい。しかしひたすら水を吸い込んではガバガバ吐き出すだけで、何がどう効くのかちっとも見えない。

　数分動かした後、余りにバカバカしくも胡散臭いので試しに分解して中身を調べてみることになった。大して苦も無く開いた筐体の中はほぼガランドウで、チャチもチャチ、小さな電動ポンプが入ってるだけである。型番から製造元等を調べてみたところ、特殊でもなんでもない小型のモーターポンプに過ぎないことも判明した。どう考えたって怪しいし、そもそもこんな轟音立ててやかましいものが風呂にあっては落ち着いてユックリ入浴してられんではないか。
　原ヘルス工業が摘発されたのはそれから程なくしてのコトだったが、その無意味な機械は随分長く、会社の倉庫の中で埃を被ってた記憶がある。

　このお取引先のエラいさんは実に困った人で、これ等の怪しげな健康器具を本人がマルチ会員になって欲と二人連れで勧めまくるのならまだしも、本気で信じて善意から人に宣伝しまくるのである。数年後、今度はナントカ石ってのが練り込まれた遠赤外線シャツや靴下ってのが身体に良いと勧められて、それで仕方なく何人かで購入したこともあった。それは昨今流行りのヒートテックの方が絶対に暖かいと断言できるような代物だった。

　東京に来て数年後、ひょんなところでその人にバッタリ出くわした。三つ子の魂百までと言うべきか、怪しい健康オタクぶりは相変わらずで、その時は湯冷ましの効能について滔々と語られてしまった。本人も現役引退して経済的な余裕が少なくなったんだろうけど、ともあれ金の掛かるモノを勧められなくて本当に良かったと思う。

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　ホントこうして考えると、世の中プラシーボだらけだ。健康食品たのサプリメントなんてぇのはほぼ１００％そうなんぢゃなかろうか。エラそうに言ってる我が家にしたって、実は入浴剤が好きで毎日いろんな色のを入れてたりするんだけど、あれなんかも立ち位置としてはかなり近い所にある気がする。たしかにそらまぁ霜焼けやヒビ、あかぎれ、あせも等に薬効があるのは本当みたいだが、温熱効果がただのお湯に比べてそんな特段に優れてるようには思えない。そんな了見だからもちろん何の期待もしてない。入れる理由はただもう、勿体ないだの釜が錆びるだのなんだのとあれこれ尤もらしい理由を付けるケチな親のせいで、子供の頃ついぞ入れてもらえなかった軽いルサンチマンを晴らしてるだけのコトである。それでもウサ晴らしの役には立ってんだから、プラシーボとしては上出来だろう（笑）。

　１週間ほどして件の同期の友人に訊かれた。

　------どう？買ってみた？
　------うん･･････ホラ、これ。
　------効いてきたでしょ？
　------う～ん･･････ゴメン！あんまし分からんかも･･････。
　------おかしいなぁ～･･･････何買ったの？
　------ピップのマグネナントカってーの。稲川淳二がコマーシャルやってるヤツ。
　------ダメだよ～！おれ、ちょっと高かったけど１万円くらいの良いの買ったんだけどさぁ、やっぱ違うよ。

　本当に衷心から爽やかに勧める彼に対し、おれには医療機器認証基準がど～のこ～のと理屈っぽく反論するのがどうしても躊躇われたのだった。　

２０１７．１１．１４