Come Back ! Switch Back |

電化前の北宇智駅を捉えた素晴らしいショット。 右手前から左奥に向かって本線が下って行く。画面左下に延びるのは引上線。
右に停まる無蓋車はラックで囲われてるとこからすると、チップを積み込むために川端駅へ向かう貨物列車か。
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http://fuzzyphoto.blog120.fc2.com/より
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スイッチバックが昔から好きだ。
知らない人はあんましいないと思うが、簡単に説明しとくと鉄道で専ら勾配の途中に駅や信号場を設ける時、どうしても平坦な土地が広く確保できない、あるいは無理にそこに平坦な土地を開削すると前後の勾配がさらに急になってしまって困る、ってな場合に作られる線路配置である。平たく言うと列車は前進/後退しながら駅に出入りすることになる。一旦止まってしまうと平坦地でも出足が悪くて発進するのが大変な汽車の時代には絶対に必要な設備だったと言える。
一般的には以下に概念図で示した通り、X型とZ型っちゅうのがある。実際にはもっとシンプルなケースも存在するが、どちらもかつての国鉄の標準的な形で描いてみた。ちなみに私鉄だとたとえば草軽電鉄や東武伊香保線などに、片側にしか開いてないようなのもあった。 |
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いずれにせよ山がちで平地の少ないこの国で鉄道を敷設し、輸送力を確保するにはそれなりに都合の良い方式だったと言えるだろう。特に上のX型はこんな単純なのでも、その気になれば最大4列車の離合と通過/退避が行えてしまう。
ちなみに引上げ線や駅の構内線は安全のためか、万が一の冒進の際に突っ込んで行けるよう、無闇に長く確保されてることが多かった。まぁ箱根ターンパイクの待避所みたいなモンですな。
これらのいわば「正調スイッチバック」とは別に、行先の都合上、列車がスイッチバックすることもある。例えば秋田新幹線。新幹線のクセにグズグズと何やっとんのや!?と言いたいが、大曲で進行方向を変えて最後の区間は逆向きで秋田に向かう。これは在来線(田沢湖線・奥羽本線)を跨いでるためどうしても一旦駅に突っ込まざるを得なかった結果そうなったのだ。同じような例は今でもけっこう各地にあって、例えば西武特急で池袋から秩父に行くと飯能で、名古屋から「ワイドビューひだ」で高山に行くと岐阜で進行方向が変わる。富士急の富士吉田もそうだったかな?ああ、ちょっと前まで特急「つがる」の弘前行きが青森で進行方向換えてたっけ。
ただ、このパターンは「運転の単なる都合」であって、個人的にはあまりスイッチバックとは呼びたくない。
実はネットの世界でスイッチバックと言えば、おれが改めてクドクドと語る必要もないくらいの有名サイトがある。小学館の名物編集者であった江上英樹氏の個人サイト「I Love SwitchBack」だ。
こんなスゴいサイトがあるのに今さらなぁ〜、とも思って随分迷ったんだけど、まぁ、自分なりのスイッチバック愛を纏めるくらいなら良かろう。だから今回の話には新鮮味のある内容は何一つない、ってことを予めお断りしておく。
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さてさて、そんなスイッチバックの中で、本来は最もポピュラーだったハズのX型がいつの間にかすっかり絶滅の危機に瀕している。一方のZ型は、っちゅうと豊肥本線の立野や肥薩線の大畑・真幸、木次線の出雲坂根、あるいは箱根登山鉄道のように、山岳路線でひじょうに高低差が大きいところを無理矢理にジグザグとじり上がってくようなスタイルなので本来それほど多くはなかったのだけれど、これ以上線路配置を変えられないようなところにあるため、むしろ逆に生き残ってる感がある。今は観光資源としてそれをウリにしてるトコも多い。
原因はザックリ言うと複線化、電化、高速化、そして輸送量の減少ってトコだろうか。
まずは複線化。これで、特に信号場の多くが姿を消した。そりゃそうだわな、複線になりゃぁ退避する必要が無くなるんだもん。そらなくしますわ。
電化はどぉゆうことか?っちゅうと、電車の方が汽車より勾配に強くて坂道発進が容易なのである。また、機関車で客車を引っ張るよりも電車やディーゼルカーで動力が各車輌に分散されてる方が坂道に強い。4WDのクルマが上りに強いのと同じ理屈やね。だからワザワザ苦労してまで平坦地を拵える必要がなくなってしまった。
高速化は言うまでもなく、いちいち行ったり来たりするのが時間の無駄ってコトだ。それと通過する優等列車にしたって本線が複雑にポイントを渡ってくので減速しなくちゃならない。ちなみにこの渡ってくトコのポイントに良く使われるのはシザーズクロスっちゅうて、スイッチバックの象徴のような存在だとおれは思う。
輸送量の減少は言わずもがなである。これで線路配置が間引かれて、ポイントが2つだけのホントのX型みたいになっちゃったのとしては、関西本線の中在家信号場や山陰本線の滝山信号場、土讃線の坪尻等々結構あるが、残念なことにこんなんでさえも現役で使用されてるのはひじょうに少なくなってしまった。
もっとナサケないのは棒線化、っちゅうヤツだ。子供の頃、最も馴染み深かったスイッチバックは和歌山線の北宇智だった。電化以降もそっくりそのまま残ってちょっと嬉しかったのだが、昔みたいに何輌も繋がってないし、行き違いももうせんだろうし、ってコトからか10年ほど前にゴッソリなくしてただの板張りの工事現場みたいな味も素っ気もない駅になってしまった。磐越西線の中山宿もそんなんだ。今の駅は片面のコンクリのホームに小屋がくっ付いたようなのが元の駅から随分離れた村外れにポツンとある。
貨物輸送の減少も拍車をかけた感がある。ダイヤが疎になりそこまであちこちで離合する必要がなくなったのだ。また、貨物列車は機関車が牽引するのだけど、やはり坂道発進が苦手なのと、またそれほどトバす必要もないからスイッチバックでのんびり退避してても良かったワケだ。
こういった問題が複合的に絡んでX型スイッチバックはドンドン淘汰されてってしまったのである。今なお現役で使われ、かつシッカリとした線路配置で残ってるのってどうだろ?篠ノ井線の姨捨や桑ノ原信号場、信越本線の二本木、土讃本線の新改くらいではないかな?かつては日本中に点在してたことからすれば「絶滅寸前」って表現は決して大袈裟でないと思う。
ホンネで言えばZ型だって鉄道会社は廃止したいと思ってるだろう。仕掛がより大層な分、維持費だって掛かるし、通過列車を設定できないからスピードアップの障害にもなる。それにそんな急峻なトコを走る路線、平たく言えば人口希薄地帯であって輸送量は減る一方なのだし・・・・・・スイッチバックではなく路線そのものが廃止されるのを心配した方が良いのかも知れない。
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スイッチバックは鉄道ばかりとは限らない。道路にもまれにあったりする。
今はもう無くなってしまったが、有名なトコでは山形県の姥湯温泉に向かう林道にはスイッチバックがあった。おれが行くちょっと前に改良工事で普通のヘアピンカーブになってしまったので実見はしてない。
実際に遭遇した経験があるので言うと、昔4WDクロカンにハマってた頃、近畿の比較的里山に近い林道でしばしば見掛けた。初めて見た時はビックリした。
京都の亀岡から八木にかけてだとか、大阪の高槻や能勢の奥の方だとか、もう廃道寸前みたいなヒドい林道はむしろ林業が衰退してしまった都市近郊に多かったりするのだけど、ホント、メチャクチャに過酷なルートが多い・・・・・・で、そんなトコにスイッチバックがあったりした。今でも残ってるかどうかは残念ながら知らない。
ただ、スイッチバックっちゅうくらいだから厳密に言うとバックで上がってかなくちゃならんのだろうけど、見るのは下図のように最低限切り返して方向転換だけは出来るようになってるのばっかしだった。噂ではホントにバックで上がらないといけない道があるって聞いたことがあるが、実際に存在するのかは知らない。 |
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方向転換できるだけマシとはいえ、それでも転回場所がクソ狭くてゴロタ石だらけだったり、雨水に削られてボコボコに深い溝が出来てナンボ4WDでもハマるとスタックしそうだったり、突っ込むスペースが一面の藪に覆われてしまってたりするのでかなりこの切り返しはコワい。長年放置されて路盤が崩れてしまってることだってある。
もちろんこんな大雑把な作り、大型の運材トラックが入るような高規格の基幹林道ではついぞ見たことがない。長期間の使用を前提としてない支線や作業林道だったからだと思う。基本はどんなにグネグネしてもヘアピンの連続で上がってくのが道路では基本だ。
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スイッチバックとは輸送に関する機械、車両、土木といった様々な技術が発展して行く中での徒花のような儚い存在だったと言えるだろう。最早こんな仕掛けを世の中は必要としていないのだ。今となってはある意味、キワモノな設備とさえ言える。
しかし、そんなスイッチバックがおれは大好きで仕方ないのである。それも本来はありふれてたX型が好きなのだ。観光のネタになるっちゅうんならパチモンだって構わないから、敢えてスイッチバックをいくつかの路線で復活させてくれないモノだろうか、と切に願う・・・・・・もちろん、シザースクロスを中心に据えて。 |
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2017.07.23 |
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