「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
広場の末期に言うだけ言うが


わが世の春を謳歌してはります。

 京葉の湾岸ウォーターフロント は今や流通業の一大戦争状態になっているんだそうな。次々とアウトレットやら巨大モールがオープンし、苛烈な競争を繰り広げ、日夜シノギを削ってるのである。そんな中、イオンが社運を掛けたと言われる(何せ本社が目と鼻の先にあるのだ)、「イオンモール幕張新都心」っちゅうのが真打として昨年の末にオープンした・・・・・・って、センセーショナルに書いてみたけれど、実はおらぁちっとも興味がなかったりする。オープンですか、ああそぉですか、みたいな感じ(笑)。

 それでも新しいモノ好きなヨメに乞われるがままに、先日ワザワザ出掛けてみたのだった。今日はそのレポートと、思うところを少々書いてみようかと思う。もちろん相当に辛口なのはご容赦ください。

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 いつの間にこんなに変貌してしまったのか、以前は京葉線とメッセ駐車場の間にバブルの置き土産で荒涼たる空地が一面に広がってたのが、あまり高さはない代わりにチョー巨大な、倉庫を思わせる建物がドベーンと何棟も建ってて、それが件のイオンモールおよびその駐車場なのだった。何たることか、元からあるコストコホールセールはそれら建物群にコの字型に囲まれて、地上げに屈しなかった偏屈ジジィの家みたいになってるではないか(笑)。

 笑えるくらい沢山のクルマが押し寄せてて、長い長い駐車場待ちの行列にいい加減ウンザリした頃にようやく入店。入るだけで時間のムダやね、ハッキシゆうて。
 イオンのモールと言えば、札幌時代に平岡っちゅうトコにあるのにたまに買い物に寄ってた。そこも驚くくらい広い敷地に何千台も停められる駐車場が広がっていて、そいでもってやはりドベーンと巨大な建物が立つ。外観等やっぱし似てる印象だ。ただ、おれとしては札幌駅のステラプレイスやアピア、あるいはいささか老朽化の感はあるものの大通りからススキノにかけての商業施設の方が断然面白く感じてた。
 ウィンドウショッピングに殆ど興味はない。何で郊外とも言える平岡に行ってたかちゅうと、そこにユニクロやら島村楽器があって、あっち方面に出掛けた帰りに不足するものを買いに寄ったりしてたのだ。その時の印象は、何だかだだっ広いばかりで大味だなぁ〜、っちゅうモノだったのだけど、こちらは関東なんだしもうちょっとマシかも知れない。

 結論から言うと、一緒だった。ちっとも変わり映えしなかった。

 広いだけで大味、どこにでもあるどうでもいいようなテナントが並んでるだけだ。妙なことにやたらとアクセサリー屋が多いのが目立つ。しかし、どれも中途半端な小銭を落とせと言ってるのが見え見えの配列だ。売る側のゴリ押しばかりが目について、買う側の気持ちが全く反映されていない気がした。飲食店の固まったあたりの通路が曲がりくねってるのも、それが定石となった今ではあざとい工夫と言えるだろう。
 客の入り自体はオープン間もないだけあってかなり凄まじい。立錐の余地もないまで言うと大袈裟だろうが、連絡通路となった部分はラッシュ時の東京や新宿の駅構内みたいになってる。しかし、開店セール中のハズなのに、意外なまでに手ブラの人が多い。手ブラっちゅうて、裸のおネーチャンたちが乳を手で押さえてるなら歩いててもかなり楽しいんだろうけど(笑)、単なる家族連れがいささか疲れた顔で所在無げにウロウロしてるだけなのでちっとも気持ちは盛り上がらない。

 それはファミレスで仕方なく食事をする時の感情に似ていた。別に不味くはなく、まぁフツーに美味いんだけど、極端に値ごろ感もなければ、ボッタクリ感もない。新たな発見もなければ感動もない。強いてあるとすれば、「以前に較べりゃ美味くなったかもね〜」程度のテンションの低い、感動とも呼べないような感情のさざ波だ。「ああ、イオンもジャスコゆうてた頃よりは大きくオシャレになったねぇ〜」といった・・・・・・。

 一番隅っこの棟がアウトドアや自転車を揃えてるようなんで行ってみた。これがもうすんげぇ遠い。そして期待してなかったとはいえ、それ以上の酷さに愕然とした。この大きいだけで内容空疎な商業施設の性格が、おれとしてはそこに最も端的に現れているように思えたのだった。
 アータ!自転車なんて日本最大とか大々的に言いながらコーナーの1/3はルイガノでっせ!ル・イ・ガ・ノ。あとはGT、FELT、JAMISにCENTURION・・・・・・ちょっと分かってるヤツならナメてんのか!?ボケ!って言いたくなるよね。そいでもってアフターパーツ、なんとシマノがおまへん。もちろん、デダもFSAもマビックもイーストンもコリマもシルバもセラもプロロゴもロクにおまへん。いや、BBBやタイオガ、DIXNAといったあたりもマトモに揃ってないのである。
 アウトドアもそんな感じで、「シエラのジャケットが安くなってますよ〜」ってオネーチャンが近寄って来たもんで、思わずスケベ根性出して「え!?60/40も安くなってるんですか!?」って訊いたら、逆に「60/40って何ですかぁ〜?」って間の抜けた顔で訊き返されてしまった体たらくだ。それなのに勿体ぶって「*」の専門ショップがあったり(笑)・・・・・・ま、そんなチグハグな場所なのである。

 結局、店には2時間ちょっと滞在しただけだった。それこそ手ブラで帰るのもなんなので、あまり他で見たことのない工房っぽいレザーショップで小さなカバンに良さげなのがあったんで、それををヨメに買った。

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 思うに、どれだけ日本の購買行動が高度化・多様化・複雑化してるのか、それを流通業自身がちっとも分かってないのである。

 付け焼き刃で手当たり次第に通り一遍の商品並べたって、新興国ならまだしも、この日本では底の浅さはすぐにバレる。それは十人十色で色んな人がいて、決して全員が自覚的に気付くものではないのかも知れないが、漠然とした幸福感のようなものが感じられないことで段々と了解されてくる。
 この幸福感はひじょうに曖昧だし、必ずしも論理的に生まれるものではないのだけど、極めて重要で怖いものだと思う。おれはこのサイトの最初のところで、煽情性について「各個人の帰属する民族・宗教・国家・社会・時代趨勢・家庭環境・趣味嗜好・知的レベル等によって大きな振幅がある」って書いてんだけど、幸福感も同じで、いわば個人差が大きい。大きいが、時代の流れの中でやはり、ある方向を持って動いて行くものであるのは間違いないと思ってる。

 モールなんて必要に迫られて生活必需品を買う場ではない。そこで人が金を落とすにはモノプラスαのこの幸福感がどしたって必要になる。雰囲気作りと言えばそれまでだけど、単に店構えや陳列の工夫だけで幸福感を人に惹起せしむることのできない、とてもむつかしいものだ。
 おれ個人はちっとも実感できないままでいるものの、今は景気が回復してきてるらしい。そんな状況下でこの程度のチンケな場の提供では全然役不足だと思うのだが、どうだろう?
 おれは人の数の割に各店の買い物袋を提げた人が少ないワケは、どうやらその辺にあるのではないかと感じたのだった。行かれた方のご意見を伺ってみたいものだ。

 ピエリ守山といって、目下話題の廃墟となったモールが滋賀にある。200店から入れる広さがありながら、なんと入居テナント数は今や3店舗という恐るべき末期症状なんだそうな。この破綻の原因については、そこに至るルートにいろんな流通業がモールをしかけて来たとか諸説紛々で、実際に行ったことがないおれが断定的に言う資格はないんだろうけど、個人的には要はやはり、そこが人に幸福感をもたらすようになってなかったんだと思う。

 日本はオーバープロダクツからオーバーサプライの時期をさらに数段越えたところにある。平たく言って要は強烈なモノ余りなのだが、そんな中で購買による幸福感を人にもたらすことは大変むつかしい。スーパーに代表される巨大流通業が大嫌いなおれではあるものの、それは良く分かるし、携わる方の苦労も並大抵ではないだろう。
 とまれ、そのことへの回答がこのバカみたいにダダッ広いだけで中身がちっとも伴わない、「行って良かったなぁ〜」って気持ちの全く残らない巨大モールであるとするなら、おれがこんなネットの世界の隅っこでウダウダ言わずとも、巨大流通業は既に相当深刻で重篤な状態にあって、そのうち自壊して行くのは自明のことのように思う。


※タイトルはP−Model「Another Game」に収められた「Echoes」という曲の歌詞の一部から採りました。

2014.01.13

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